39:摩桜 留紅須
レムスタリアの『フェイゼノルン邸』の隣には、別の家が建っている。
『フェイゼノルン邸』と変わらない規模のお屋敷。これだけでどれだけ凄いのか分かってもらいたい。王国の期待と威信と見栄を掛けた『聖女候補』の邸宅と同じ規模。ハッキリ言って凄い事なのだ。
葵が勇者を襲ったときに、通報してくれたのは隣の屋敷の住人だった。
そこで、一度迷惑をかけたお詫びに挨拶にいこうとなった。
「で、どんな人なんだ?お隣さん」
俺『ファウ=バルド』は制服のスカートの裾を気にしながら訪ねる。いつまでたってもこれには慣れない。後、シャツのボタンも上から二つほど無意識に外してしまい、スタアによく怒られる。リボンタイの首が絞まる感じも苦手だ。
「いつも夜は留守なので、これから訪ねてみようかなと思います」
レムリ達も会ったことがないらしい。
「元々はお前のせいなんだ。しっかりお詫びしろよ?葵」
「バカなの?当たり前です。今は『フェイゼノルン家』のメイドでもあるのだから、その辺は弁えます」
しかし、葵も何でメイド……。まぁ、本人の希望らしいのでとやかく言う事ではない。こいつは今のジョブは何なのだろう?『メイド巫女』?『巫女メイド』?
俺がこの世界に来る前の国では、よくティッシュ配ってたな。こんな服着て……。
葵の今の服装は以前の巫女装束ではない。巫女服にメイド服を掛け合わせた不思議な出で立ちとなっている。素肌の露出が殆どなかった巫女服とは違い、膝上まで足を出していた。膝まで来る長めのソックスの縁はレース風。草履ではなく靴を履いていた。
ついついまじまじと見てしまった。
「マスター。葵に見蕩れているところ申し訳ないのですが、着きました」
「み、見蕩れてないしっ!」
「ば、バカなの……?」
門の表札を見る。
「「摩桜」」
「ぶっ!」
「お兄ちゃん、汚い」
良かった、牛乳飲んでなくて。レムスタリアの鼻から牛乳とか悲劇だ。
『聖女』の威厳は守られた。
しかし、まさかな。いくら何でも表札に……考え過ぎだ。
「これは?何と読むのです?神国の文字には疎くて」
「これは、まろう?まおう?」
葵が読み方を考えている。
「まおう……で良いと思うぞ」
「まおうさんですか」
「いや、イントネーションが違うぞ多分。レムリ達は上から下だが、……正確には下から上だ」
「ん?まおうさん?」」
変わって無かった。
(もういいや、それで)
門から邸宅までの間に、「ガーゴイル」の石像がならぶ。
「本物じゃないだろうな?」
「バカなの?」
葵、それはどっちの意味だ?
(バカなの?本物に決まってるでしょ?)
(バカなの?本物な訳ないでしょ?)
『解析』してみた。
「本物だった…………」
(まじかよ)
リリスが呼び鈴を鳴らした。
「まて!……いや」
(さて、どんな奴が出て来るか?ひょっとすると、妖艶な秘書と名乗るお姉さんが出て来るかも知れない。美人の戦闘メイドもいいな)
不安半分、期待半分だった。
「いきなり戦闘とかカンベン」
「ファウ、さっきからおかしいですわよ?鳩が豆鉄砲をくらう前の様ですわ」
「ん?くらう前って普通の状態だよな。それがおかしいってことは、普段がおかしいってことか!」
「あら、よく分かりましたわね?」
扉が開いた。そこには……。
「お嬢ちゃん一人?」
6,7歳の女の子が立っていた。金髪ウェーブのゴシック・ロリータ。黒を基調としたゴスロリだ。ヘッドセットでは無いが、頭には黒のカチャーシャ。装飾を見る限り相当高価な物だろう。
「お家の人は?」
「いない」
「お出かけかな?お留守番?」
「うん!」
「そうか、お嬢ちゃん偉いね~」
「留紅須、わたし、るくす」
「わたしはレムリよ。あそこに見えるお隣さんなの」
留紅須は『フェイゼノルン邸』をみた。
「じゃ、留紅須ちゃん。これプレゼントね」
「何これ?」
「お団子よ。お父さんと、お母さんと食べてね?」
手を出そうとするが、引っ込めた。
「でも……要らない」
「え?どうして?」
「知らない人から物を貰っちゃ駄目だって、先代が……」
「そう、でも大丈夫ですよ」
「どうして?」
「私たちはもう、お友達ですから……ね?」
留紅須は何やら考えている様子だったが。
「うん、ありがとう!レムリ!」
そう言ってほほ笑んだ。それは、天使の笑顔だった。
「エスリ王国第三聖女……で、間違いないか?」
その声は、唐突に俺達の背後から聞こえた。
全身を白の鎧で包み金の縁取りがしてある。プラチナブロンドの髪は風になびいていた。白金装飾を施した細剣を腰に二振り。装飾から打ち合う剣では無いと分かる。魔法触媒だ。
それは、空から見下ろしていた。
「そうですが、貴女は?」
レムリは答えてしまった。
「フッ……虫に名乗る名はない!」
「人形の回収に来た。修理が必要なのでな」
それを見たリリスは硬直していた。リリスの表情は怯え。何をそんなに……?
(回収?修理?リリスをモノみたいに言いやがって!)
「葵、その子を避難させてくれ!」
葵はうなづいた。
「気をつけて……」
ルクスの手を引いて離れた。
「ついでに、そなたの中のモノも破壊する!!第三聖女!」
「「『全域光殺』」」
それは、魔力の光弾。レムスタリアのホーリー・バレットとよく似ていた。
しかし。
「「「!!」」」
「蒼鏡展開」!
レムリの『蒼鏡』が俺達の壁となる。
だが、威力と数が違い過ぎた。その一つ一つが地中を抉り深い空洞を作り出す。それは、俺の遠い記憶にある爆撃の様だった。地下施設を破壊するための爆撃。
「きゃーーーーーーーっ!」
『蒼鏡』が砕かれ、レムリから俺に主導権が変わった。まずい、レムリの意識が途切れたのか!
爆風で飛ばされ地面に叩きつけられた。
「虫は地べたがお似合いだ」
そいつはそう、言い放った。
俺は理解した。こいつはこれでも手加減している。何故ならリリスを死なせる訳にはいかないから。連れ帰るのが目的だから。
強い、この強さは異常だ。人の域を超えている。
「ドールズ!回収だ!第三聖女は壊せ!」
「了解しました。ソフィア様」
そこに新たに四人現れた。
「リリス!リリーーーーース!」
リリスには俺の声が届いていない。最悪だ。
何故か、リリスは戦意を喪失している。ならば俺が、何とかするしか。
しかし、この状況で何を。
「スタア!スタア!」
反応がない。
お前もか?
(何だ、何が起こっている?)
現状戦力はボロボロになったレムスタリアの中の俺だけ。痛みの感覚がダメージの大きさを伝えるが、俺には魔法が使えない。つまりそれは、回復不能。
下手すれば、呪いの発動にでさえこの身体は耐えられない。
俺は絶望的な戦いに突入する。だが、やるしかないなら……。
すまん!レムスタリアの身体。
持ちこたえてくれ!
俺は叫んだ!!
「「『バステルの正門』」」拘束!!
「「発動する!」」




