表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/268

03:聖女は超レア(自称)

 

 さて、『聖女様』については理解してもらえたろうか?


 戦闘終了と同時に目覚めた『レムスタリア』は、動ける騎士に指示し、後のことを任せた。重症と思われていた騎士達も『レムスタリア』の治療魔法(ヒール)で自力歩行できるまでに回復済み。そこから俺達は一番近い村へと向かう。


 村長の計らいで用意してもらった部屋は『レムスタリア』ひとりだけが使用することとなったが、人目を気にせず話せる場所はありがたい。


 『聖女様』の知名度もあって、出来る限りの援助を約束してくれた村長に感謝し、人手不足でもあり王都への伝令にも協力してもらった。そんな一連の流れを俺は、中から眺めていた。


 結論から言えば俺は『聖女』として転生したわけではないようだ。ただ、何故『聖女』の中に自我を持って存在しているのかは未だ不明だった。身体の主導権を失った俺では指一本動かせなくなっている。


 イメージとしては『二人場織(ににんばおり)』。『レムスタリア』の身体を介して見えるし、聞こえるし、言葉も話せるが他の行動は他人が行うのに似ている。


 俺の存在に気づいていながらも取り乱したり慌てた様子を見せなかった『聖女』は、流石(さすが)といったところか。


 やっと落ち着いて話せる。


 大きな姿見の前にあるベットに腰掛け背筋を伸ばした『聖女』が話を切り出す。




「まずは、自己紹介いたしましょう。わたくしは『レムスタリア=アルバーノ=フェイゼノルン』と申します。わたくしのことは?」


「えっと……まぁ。知ってます。エスリ王国第三聖女様。自分は『ファウ=バルド』元々は帝国人で『鑑定屋』を生業(なりわい)とする者です」


 鏡の中の少女にそう答えるが、俺の声は『レムスタリア』の声であって……不思議な状況だ。他人が見たらこのやり取りだけでも奇妙に思えただろう。


 鏡の中の自分と会話する少女。『シュール』と見るのか『不思議ちゃん』と捉えるのか、(ある)いは『気味悪い』と敬遠されるのか。


 いずれにせよ他人に見られるのは避けるのが賢明そうだ。


 同一の身体の中の意識だからって言葉にしなければ伝わらないのは、中々不便である。まぁ、()()()()も俺にはあるのだが、ここはあえて言葉を使用しておく。


「そうですか。では、ファウ=バルド様?説明していただいても?ファウ=バルド様は、どの様にしてわたくしの……その……身体の中に?何か望みはあるのでしょうか?」


 何かの狙いがあってこうした……と思われてるのか?


「自分のことは『ファウ』で構いません。ただ、説明も何も俺……自分も状況を把握できておりません。何故こんなことになっているのか……」


「そうですか……ではファウ様とお呼びいたしますね。その……」


 俺の返答にレムスタリアは天使のような笑顔を浮かべた。


「ファウ様は普段の……いつも通りのファウ様で接してください。わたくしは貴方様を良く知りたいのです。あの状況を乗り越えられたのは貴方様のお陰なのです。わたくしの命の恩人となる方なのですから」


 レムスタリアは、そこで言葉を切った。


「わたくしは、貴方様をこう考えています。……神、もしくはそれに近しい方なのではないのかと?」


「え?」


 聖女様が可笑しなことを言い始めた。俺が神?


「ファウ様は『聖女』であるわたくしに何をお望みでしょうか?何なりとお申し付けくださいファウ様がお望みならば、この身をいかように使っていただいて構いません」


 聖女様が俺に祈りのポーズ。俺はレムスタリアの内に居るので姿見に映るレムスタリアを見ことになるのだが……。上目遣いな姿に何とも言えない気持ちになる。男はこれに弱い。


「いや、待ってください」


「わたくしはあの時、天に助けを求めたのです。願いが叶うのであれば……その後この身はどうなろうと構わないと」


 『レムスタリア』は続ける。


「意識を失い、目覚めたわたくしの中に貴方様が宿っているのは……そういった意味だと解釈しました」


「……それは」


『転生者』である俺には、神に心当たりがないわけでもない。だが、俺が神かと問われたら……こう答えるしかない。


「残念ながらそれはないです。神ではありません」


「……神様ではないのですか?」


「はいちがいますごめんなさい」 


 早口で答えた。


「違うのですか……う~」


『レムスタリア』は小首をかしげて何か考え始めた。両手の人差し指で頭の両側をツンツンとしてる。『聖女様』が可笑しな行動を取り始めた。

 

「でもでも、神様でなくとも構いません。お礼です、そうお礼っ!わたくしに何かして欲しいことはありませんか?」


 俺が神じゃなかったことに落胆している風ではない。あっさりと引き下がったな?


「いや、別にないですけど……」


 そもそもが、今現在『聖女』の身体の中なのだ『お礼』と言われても……身体の中から俺を出してくれ……とか?そういえば、俺本来の肉体はどうしているのだろう?有るのか無いのかそれさえも不明だ。


「『聖女』ですよ?超レアですよ?どんなことで良いのですよ?何でもしますよ?」


 超レアって確かにそうだが、自分で言うの?それ。


 何か『お礼』の押し売りみたいになって来てるが気のせいか?


「現状では、ん……ないですね」


「何でもすると言えば、殿方は大喜びで色々理由を付けて、口では言えないようなことを要求してくると聞いていたのですよっ!」


「いや、それ本当に要求したらダメなやつです。人生終わりますから」


 ……って要求されたいの?


「そうなのですか……『ファウ』様は欲のないお方なのですね?」


 何か残念そうであるが、嬉しそうだ。


 なんとも掴みどころのない、良く分からない女。俺の『レムスタリア』に対する第一印象はそれだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ