34:聖女VS真巫女(1)
『嘆きの束縛』!!捕らえなさい!!
それは壁を突き破り侵入してきた。部屋を埋め尽くさんばかりの荒縄。レムリのベッドを圧し折り家財を巻き上げる。
『バステルの正門』!!拘束する!!
俺は、それに溢れ出す鎖で対抗する。互いが互いを干渉し、絡み付き、抑え込み、引き合い、打ち消しあった。
「葵」と言った少女はそこにいた。以前見かけたときと同じ巫女装束。周りには『折り鶴』が十数羽浮かんでいる。ただ、フードは無かった。最早、隠す必要がなくなったからだ。呪いの消えた顔は神国の特徴がよく出ているが可愛らしい顔立ちをしていた。
『嘆きの束縛』と『バステルの正門』が消滅しても表情に出なかった葵が、レムスタリアを見て驚きの声を上げる。
「レムスタリア様…………」
だが、直ぐに視線を『ディア』に戻した。
「八翼の勇者様ですね。誠に勝手ながら、お命頂戴いたします!」
理由は分からないが、今の一言で理解した。『勇者』と知って命を狙っている。
「私には、恨まれる覚えがないのですが?」
「はい、今はまだ。ですがいずれ必ず災いをもたらします。これは決定事項です」
「それで?」
「おひとりでは逝かせません。私がお供しますので出来れば抵抗しないでください」
「……だそうですが、マスター。私が相手しても?」
「何で、俺に振るんだ」
「だって、私なら死なせてしまいますから。…………助けたいのでしょう?」
「ん?」
「だって、顔にそう書いてありますよ?」
「書いてないよ」
「後、額に「中」って」
「まじか、リリスぅ!!聖女の顔に何てことしやがる!」
レムリが起きる前に消しておかないとな。スタアには団子で黙っててもらう。団子があれば意外とチョロイのだ。
「仕方ないか。ディアの相手をしたかったら、まずは俺を倒してみろ!」
「流石マスター。悪役の小物ぽっさが滲み出ているセリフですね。なお、そのセリフを言った者は100パー負けますよ?」
俺も言ってからそう思ったよ。ディア。
「どうでも良いですが、レムリの身体に傷つけたら許しませんわよ?」
「分かってるって、スタア」
「ディアには最高のシチュエーションですね。私の為に争わないでーー!」
何故かはしゃいでいるディア。
「はぁ……まぁ、そんな感じなんで俺が相手をするよ」
「レムスタリア様?……違う」
「正解、君が守り神と言った男の方さ」
(八翼様がマスターと呼んでいた。『勇者』の『主』?)
その言葉に、何やら思案していたが覚悟を決めたようだ。
「邪魔をするのなら、例えレムスタリア様の守り神様でも!世界のためです!」
「世界のため、か……」
「?」
「世界の為に、自分も一緒に死んでも良いと言う………俺には、理解できないね」
「この場で消える命ならば、世界の為に使おうとして何が悪いのですかっ!!」
葵が『印』を結ぶ。
『光滅呪』暗闇!!『空滅呪』窒息!!『動減呪』低速!!『増量呪』加重!!
「葵」がつぶやく度に「印」は切り替わる。そして「折り鶴」が消える。
(なるほど、触媒か……)
「「行け」」!!
俺は対抗する
『ルギーの目暗』!!『トクデスの息吹』!!『ガッシュの小節』!!『コナキの翁』!!
「「発動する」」!!
ディアに向かったソレを全て同一のモノで打ち消した。しかし、これは。
「マスターよろしいですか?」
「なんだ?}
「押されているのでは?……と」
「しょうがないだろ?名称的にどうしても後手になる。ディア、サポート頼む」
「了解しました。ご主人様」
ディアの肉体は魔力の粒子となり、ピントの合わなくなった被写体のように何重にもブレると消えた。
「あっ!」
「心配しなくて良いよ。ここに居るからさ」
自分を指さす
俺は勢いをつけると壊された壁から庭に飛び降りた。
すっかり夜が明けていた。
葵が後を追ってきた。
「レムスタリア様の守り神様、何故貴方様が八翼の勇者様を庇うのかは分かりません。でも、レムスタリア様にはご恩があります、出来れば傷つけたくない……引いていただけませんか?」
その瞳の色に、本当に迷いは無かったのか?俺には、『何か』が葵を塗りつぶしているように思えた。彼女は自分の意思でここに来たのか?彼女は自分の意思で?
口振りからすると死んでも良いとさえ言ってる。
自分をここで消える命と言い切っている。
人はそんなに死を簡単に受け入れられるものだろうか……否だ。生命とは足掻くものだ。それが例え、虫一匹であっても、足掻いて生きようとする。それが、命だ。
ならば、簡単に死を受け入れここに居る彼女は、命として壊れている。彼女を壊したのは何だ?彼女を縛っている『モノ』は何だ?
分かり切っている『呪い』だ。
彼女の内にある『持たされた』モノではない。
彼女が初めから『持っている』モノ。
自分を縛り、自分の死ですら縛る、それが『呪い』じゃなくて何だっていうのか?
……ならば、やることは一つだ。
今までと何も変わらない。
俺は、『葵』の内に潜むモノを見極め『解呪』する!
(今日も学院があるからな。手っ取り早くいくか)
「スタア!!」
「何ですの?」
「『蒼の牢獄』を頼めるか?」
スタアは珍しく何も言わずにうなづいた。
『蒼・鏡・展・開』!!
決断の早い女は嫌いじゃない。
「堕ちた魂よ、彼の地の楽園にて安らぎを願う!蒼の牢獄っ!」
身体から放たれた光が、六つの帯となり駆ける。魔力で生成された六つの蒼鏡。それは、一瞬で葵の上下左右前後を囲むと正六面体を形作った。
「あら?」
「どうした?」
「捕らえたはずが、消えましたわ?」
「蒼の牢獄からか!!」
ありえない!『蒼の牢獄』は、合わせ鏡の中に魔力が続く限り、無限の空間を作り出す。
あのリリスでも動きを封じた技だ。葵が抜け出した?
『鬼神・結界』!!
思考の隙をつかれた。五つの頂点に置かれた「折り鶴」から何かが走った。それは五つを起点とした星型。
『五芒星』となり、俺はその中に捕らわれた。
葵は只の巫女じゃない。『神』『霊』特化の『真巫女』だ。
理解するのが遅すぎた!
……視界が赤く染まった。




