32:「葵」
私は「葵」。
只の「葵」。
家名を名乗ることは許されてない。
『真巫女』でありながらも、それに加わることを許されていない。
不思議なひとだった。私の呪いを知って近づいて来たのは、あの方だけ。
この国の第三聖女『レムスタリア』様。
この醜い顔を治すのだと言った。信じてはいなかったけど、どうしてかしら?断れなかった。凄く真剣だったから?断って落胆させたくないと思ったから?
自分でも分からない。
いつも宿にて私がすることは、鏡をシーツで隠すこと。
だって、絶対見たくないもの…………。
私がこんな顔になったのは物心つく前。
慣れさせるために赤子のときから『持たせる』のだと……。
だから、私自身も本当の顔を知らない。
同世代の子がお化粧して着飾って歩くのを二階の窓から隠れて見た。
羨ましかった訳ではないけど、もしかしたらあんな未来もあったのかも?とだけ思った。
使うことは一生無いはずの『紅』も買ってしまった。
そんなことを考えていたら夜が明けたらしい。
期待はしていない期待はしていない期待はしていない…………のに手が震えた。
そっと、頬に触れてみる。
ザラザラした感触がない。弾力のある頬が指を押し返した。
何故か一気に涙があふれた。
鏡のシーツを取り去った。
そこには……普通の女の子が、泣きながらこっちを見ていた。
昔買った『紅』を差してみた。はみ出した。
それが可笑しくて笑った。普通の女の子も今度は笑ってる。
自分だと実感した。
生きててよかったと初めて思った。『レムスタリア』様、感謝します。
だから、最後の働きを成功させましょう。
神国の『真巫女』として世界を壊す『八翼の勇者』を滅します!
「さぁ、あなた達、探して!」
私は王都に『式神』を放った。




