26:勇者?
例えば、異世界中の神々と神話の神々が集まって、一人の人間を創造したら……それは、目の前に居る彼女だろう。それくらいの現実離れした美しさと神秘さを、彼女は兼ね備えていた。
白を基調とた女性らしいデザインのアーマーだが背中が大きく開いている。そしてその背中に見える紋様が彼女の正体を明らかにしていた。
『八翼の天翔紋』
この場に居る誰もがソレを見間違えるはずがない。何故なら『聖女候補』は、その傍らに寄り添い共に世界を救うことを夢見てこの場所に集う者達だから。
突然現れたその姿に会場内の全ての動きが止まった。
「見て、あれってもしかして………」
「勇者の紋?」
「で、でも、そんなことって………」
「八翼天翔紋よ!」
「女性よ?ツガイ紋ではないの?」
「違うって!本家、本家、間違いないって!」
先程の騒ぎの事よりも全ての者が、その場に現れた「勇者」にくぎ付けとなった。
突然のことにレムリは言葉が出ない。明らかに「勇者」は自分を見ている。いや、自分ではないのか?何故か、直感でそう感じた。自然と両腕で何かを守るように自分を抱いた。
「勇者様?」
やっと、それだけ声に出せた。
「マスター、只今戻りました」
「え?」
「早速ですが、一緒にめくるめく逃避行に参りましょう」
「え?」
「ああ……レムリ様では、ないのですよ?愛しいご主人様に用があるのです」
「このやり取りに心当たりがあるんだが……」
「流石はマスター。ディアのことを片時も忘れず想っていてくださるのですね」
『ディア』?『ディア』?って言ったのか?でもこの言い回し、間違いない。『ディア』だ。そして、この声も間違いない。
「何で、勇者になってんの?」
「元々、勇者ですから」
さらっと言いやがった………。
「勇者が何で俺の『相棒』やってたの?」
「ん…………愛ゆえに?…………でしょうか?」
「本当のことは、言えないってことか?」
「正直な気持ちなのですが、この伝わらないもどかしさも愛の試練なのでしょうか」
「何ですの?このネジの飛んだ勇者は?」
「スタア、戻ってたんだな。お疲れ様。ありがとうな。」
「べ、別に貴方のためじゃないわ。私自身のためよ。勘違いしないでよね?」
「まぁ、見事なツンデレちゃんですね、マスターはこういったのがお好みですか?」
ツンデレ言うな。それが通じるのは前々回の世界だぞ。
「俺の『相棒』をやってる間、身体はどうしてたんだ?」
「ああ、これはマスターが以前やったことを参考に創りました。どうです?マスター好みなはずですが」
そう言うとクルリと回って見せた。
「…………た、しかに……いや、目的は何だ?」
「マスターには私の中に来てもらいます。一心同体です。マスターの肉体がどうなっているか分かりませんがお望みなら、身体も創って差し上げます」
なんかクネクネしだした。何の踊りだ?いや違う、照れてる?『ディア』が?
「…………ですので、一緒のお墓に入りましょう?」
「死ぬの前提かよ!いやだよっ!」
「では、しょうがないです。出来るだけ穏便に事を済ませたかったのですが」
瞬間、魔力の嵐が『ディア』を中心に吹き荒れた。それだけで、俺達は元より、会場の誰もが金縛りにあったように動けなくなった。これが「勇者」と呼ばれる者の魔力。
「実力行使させていただきます。マスター」
「本気か?ディア!」
リリス、レムスタリア共に疲れ切ってる。理解してしまった、誰も生き残れないと。
「この会場に居る人間に傷ひとつでも付けたら……」
「俺は、おまえを許さない!」
沈黙が流れた。
「いやですよん。冗談に決まってるじゃないですかぁ~」
「え……」
「そもそも、マスターに嫌われたら本末転倒です」
「…………」
「じっくり時間をかけて、落としてみせますよ。マスター」
「ちょっ…………」
「では、帰ります」
「おい」
『ディア』は現れたのと同じように唐突に消えた。
(で?、何をしているんだ?お前は?)
(何を?とは、何のことでしょう、マスター)
(帰るって言って消えたよな)
(私の帰る場所は、マスターの居る場所だけですからっ!)
(ダメ…………ですか?)
(………まぁ、いいや。『相棒』だしな)
(ありがとうございます)
(お前、今回さぼってたから、しっかり働いてもらうぞ?)
(はい。私のご主人様)
こうして『勇者ディア』は再び俺の『相棒』となった。




