24:兄(聖女)VS妹(戦乙女)(1)
『相棒』は居ない。里帰り中だ。
(何処、ほっつき歩いてるんだか……)
ならば、ひとりでもやるしかない!瞳に光のない、全てを諦めて願うことが『死』だとかほざいている『何処かの女』にはお仕置きだ。
『俺の好きなバカな妹』に戻してやるよ…………。
「待ってろ!!」
「『バステルの正門』発動!!」
属性は精神。それが精神体であろうとあらゆるものを『拘束』する。
背後に禍々しい門が具現化する。防御は不要。スタアが守ると言ったからには不安はない。リリスの動きには、俺ではついていけない。だからこちらに専念する。
「拘束するっ!!」
門が僅かに開き、隙間から『鎖の束』が生きているかのようにうねりながら一面を埋め尽くした。現れた鎖はリリスの『首』『腕』『胴』『足』に絡み付き空中にて十字に固定する。
(やけにすんなり拘束できた。一瞬硬直していようだが?。よし、第一段階済んだ。後は……)
「…………のか…………」
ん?
「ちがう…………」
リリスがつぶやいている。表情は見えない。
「違う、お前のじゃない…………」
「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!おまえが喰ったのかぁーーーーー!!」
背筋が凍る。これはヤバイ。ヤバイやつだ。
「「黒・死」」
瞬間、リリスの足元から黒い『何か』が広がった。一瞬にして闘技場の石畳の半分が黒く染まる。そして『バステルの正門』が何の前触れもなく消滅した。いや、違う。
『バステルの正門』の発動が終了させられたのだ。『ディア』の音声サポートに慣れて、確認が一瞬遅れた。前世でもしなかったミスだ。致命的だった。
黒く染まった石畳が一斉に盛り上がった。それは正しく針の山。何千、何万、いや何億ともいえる細い細い漆黒の針が俺めがけて飛んだ。
黒死のヴァルキュリアの所以。漆黒の針を何億と身体に受けた対象はどう見えるか?
ただ、黒くなって死ぬだけだ。圧倒的物量による殲滅。
高速で飛来する漆黒の針に、俺が反応できるわけがない。
「っ!!」
カンッ!カッカッカッカッカッカッ………。
甲高い音が連続で響く。
「守ると、言いましたわ!!」
俺は12枚の『蒼鏡』に囲まれていた。
「気を抜き過ぎですわ!」
「すまん、助かった」
そうだな、現状はディアがいないんだ。慎重に。
でも、スタア『蒼鏡』を全て俺に使うとか、お前自身の防御を捨てて………。
「分かれば、良いのですわ。来ますわよ!」
「スタアちゃん、張り切ってるね~。負けないよ~」
レムリ、お前は何と戦っているんだ……。
黒死の針は『死点流撃』よりも威力も貫通力もない、ただ、数が尋常じゃない。
『蒼鏡』での防御を持つ『レムスタリア』のように全身をカバー出来る相手への攻撃としては得策ではない。だが、軍が相手でもハーフメイル程度の戦士の集団なら、一人で万単位の相手が出来てしまうことになる。『戦乙女』がバケモノと言われる訳だ……。
針の嵐が止まる。とにかく先手を打たなければ不利だ。
「バステルを……お前が、喰った……のか」
(ん?)
リリスの動きが完全に止まった?
「お前が喰ったのか?お兄ちゃんを!」
喰った?俺を?
「遺跡で死んだお兄ちゃんは『能力』を喰われて死んだ!」
(何のことだ?俺の死は………)
「『バステルの正門』………それはお兄ちゃんのだ!」
「ま、待て、リリス!俺は喰われてなんかいないぞ!」
「………貴女、何いってるの?」
「信じられないかもしれないが、俺は転生して今はこの身体の中に居る!そして、俺は喰われて死んだのではない!のろ……」
その先を言うのを躊躇してしまった。『リリスの口付け』に触れていいのか?と。
「………まさか、貴女が私のお兄ちゃんだとでも?」
「そうだ!信じろ!お前が言う通り『バステルの正門』も俺だから使える、見せろと言うなら俺の持っていたモノを見せる!」
「うん、信じるよ……おにいちゃん」
「リリス…………」
「あ”い”だ”がったよ!」
『死点流撃』!!
「ファウ様!!」
強引にレムリが入れ替わる。
『蒼鏡』が受け止めた。
「アハハハハ!アハハハ!アハハハ!」
『死点流撃』!!
『死点流撃』!!
『死点流撃』!!
『死点流撃』!!
「つぶれろ!つぶれろ!」
次々繰り出される攻撃を6枚の『蒼鏡』で防ぐ。6枚破られると追加の6枚。レムリとスタア二人だから出来た荒業で凌ぐ。
「このままでは、切りがありません。どうするのです?ファウ様?」
(リリス………)
「長くは持ちませんわよ?」
確かにその通りだった。今のリリスには会話など成立しない。成立させるための条件作りを行わなければ……。
「一瞬でいい!動きを止めてくれ。出来るか?」
レムリとスタアが互いに見つめあうと……頷いた。
「準備はよろしいですか?ファウ様?」
「頼む!」
レムリが詠唱に入る。
……詠唱?
詠唱中は『蒼鏡』を追加出来ない。
「堕ちた魂よ、彼の地の楽園にて………」
『蒼鏡』が破壊されていく……残り6枚となった。
「…………安らぎを願う」
レムリの詠唱は続く。
更に破壊される『蒼鏡』。残りゼロ……守る鏡は無くなった。
「『蒼鏡展開』!!」
スタアが発動する。展開と同時にレムリの前へ出た。
そして、スタアの展開した『蒼鏡』をレムリが使う………。
「『蒼の牢獄』!」
『蒼の牢獄』が発動した。
煌めく帯となった6枚の『蒼鏡』は、リリスへ向かう。
だが、ソレを『牢獄』に使用するのであれば、守ってくれる『蒼鏡』は無い。
『聖女の聖域』
『プロテクション』
『フェアリーナース』
『フェアリーナース』
二人が無詠唱同時発動。
直後、スタアはその体で『死点流撃』を受けた。『死点流撃』は『プロテクション』を貫通し、スタア自身に直撃する。
同時にレムリの発動した『蒼の牢獄』は、リリスを囲むと鏡の正六面体となった。
「『蒼鏡展開』っ!!」
『蒼の牢獄』を確認して、レムリが強引に『蒼鏡』をスタアの前に割り込ませる。スタアの『蒼鏡』は牢獄となり、リリスを捉えている。今使えるのはレムリの分だけだった。
幾つかの『蒼鏡』が砕けた。魔力の残光が消えていく。
俺はスタアの後ろだ。顔は見えない。
「はぁ、はぁ、はぁ、な、なんとか……残りましたわ………」
『ハーフ・ヒール』
「ごめんね、スタアちゃん。もう魔力も残り少ないの……」
「いいのですわ。これしか方法がなかったのですもの」
今回の作戦でリリスを止める為に『蒼の牢獄』は必須。ただ、そのためにはどうしても一手足りず、攻撃を受けてしまう。
レムリに受けさせるわけにはいかなかった。万が一失敗して死んだら、俺が消える可能性がある。そこで二人はスタアを盾役にした。
『プロテクション』は期待していなかったが僅かでも防御力を上げた。そしてメインの『フェアリーナース』。
効果は、一時的な生命力の上限突破である。効果時間は僅かであるが来るのが分かっていればタイミングは計りやすい。魔力依存の『フェアリーナース』を重ね掛けした。魔力の高い聖女だからこその捨て身の作戦だった。そして、生命力を削り切られる前にリリスを無力化する。
「無茶しやがって………」
「さあ、リリスを止めましたわよ?任せてよろしいのですわね?」
「もちろんだ!」




