22:黒死の戦乙女
(ぱ、パーフェクト・ヒール!)
(聖女の聖域!)
(ホーリー・バレット・ホーミング!)
無詠唱、スキル、無詠唱と一連の流れを同時にこなす。レムスタリアの『理想の自分』なら可能だ。
リリスが一瞬で距離取る。……が、ホーリー・バレットを手のひらで受けて握り潰した。
「頑丈なんだね。死んでないなんて」
けん制程度の攻撃だ、効果は初めから期待していない。その一瞬が欲しかっただけ。
リリスから距離を取る足がもつれる。口の中の血で少しむせた。
(ま、間に合った……少しでも遅ければ……終わっていましたわ)
圧倒的な近接能力。帝国の戦乙女とは、こうも強いのか……。
「「だけど!」」
(負けられない、負けられない、負けられない、負けたらファウ様がいなくなってしまう、消えてしまう。だから、負けても死ねない)
(負けられない、この子がそれを望んでいるから!そして、私が望んでいるから。まだ、返せてない、何も返せてない、何ひとつ返せないまま消えるなんて私が許しませんわ!)
「「だから!!」」
レムスタリアの魔力値が上昇。
「「わたくしレムリと私スタアが!」」
蒼の聖女の魔力、『蒼の魔力』が視覚化される程の総量が渦巻いた。
髪より溢れた魔力が、煌めきとなって立ち昇る。
渦が魔力の残光を巻き込み光の渦を作り出す。蒼き魔力が破裂しキラキラと会場に降り注いだ。
それは、極限まで練り上げられた高密度な魔力の解放。
「お相手いたします!」
「遊んであげますわ!」
光の渦が消えた後に、その場に現れたのは、全く同じ姿をした二人の『レムスタリア』だった。
静まり返っていた場内からどよめきが起こった。
「何あれ?レムスタリア様が二人?」
「すげーーっ!」
「分身?」
「違うわ、魔力量は減ってないもの」
「そうよ、減るどころかむしろ…………」
「2倍に増えてる…………」
「つ、つまりどういうことだよっ!」
「お、俺が知るかよっ!」
「つまりレムスタリア様が二人いるってことでしょ!」
「見ればわかるんだよっ、そんなこと!」
「何で二人いるんだよ!」
「何か知らんが、すげーー!」
「ふん、これが私のレムスタリア様よ」
「どさくさに紛れて私のとか言ってるし」
途端、歓声が一際高くなる。
「貴女。幻覚?」
「試してみては?」……とスタア。
「どう思います?」……とレムリ。
「まぁ、どっちでもいい」
「蒼・鏡・展・開」
「蒼・鏡・展・開」
「それはさっき、壊した。無駄!死点流撃!」
リリスには先程六枚を砕かれた。なら、簡単な計算だ。六枚以上を出せばいい。
そして、今の二人にならそれが可能だ。
「無駄だったのは、どうやら貴女のほうですわね?」
そう言って、スタアは髪を束ねた。
死点流撃は、『蒼鏡』によって受け止められたのだった。
「もしかして、貴女なら、出来る?王国の聖女なら私を殺せる?」
「いいですわ。遊んであげてもよくってよ。ファウの妹!」
「ファウ様の妹ちゃん、強いねー。でも、もう負けないよ!」
「…………」
一瞬、リリスの目に光が宿った気がした。何に反応したのか?
だが、それは直ぐに闇に消えた。
状況は膠着していた。二人は、六枚を防御に六枚を攻撃に使用した。だが、イーブンになっただけで有利になった訳ではない。パワー重視で近接特化型『戦乙女』と魔力重視で遠距離重視の『聖女』では、どちらが有利なのか?
12枚に増えた『蒼鏡』に攻撃を潰されている『リリス』。だが『レムリ』『スタア』の攻撃魔法もダメージを与えてはいない。パワーが尽きるか魔力が尽きるか、いずれにせよ先に尽きた方が負ける。つまり、死だ。
「早く、早く!早く!殺してみせてよっ!」
リリスは『蒼鏡』を砕いても、砕いても、次から次に現れるため二人に近づけない。次第にいら立っているのが分かった。
だがそれは、レムリ、スタアも同じ。決定打……あるにはあるが詠唱を必要とするため隙が出来る。そんな隙を見逃してくれるとは思えない。逆にリリスが隙をみせるとも思えない。
相手が隙を見せることがあるとすれば、それは……。
戦いを見ていた。ただ見ていた。思考は止まっている。変わり果てた妹の姿に俺の思考は俺から離れた。その姿から目が離せずにいた。もう、壊れている。あれは、人の形をしていながら違うモノだ。
ただただ、死を望む妹がそこに居た。それは、俺が今まで見てきたモノ。この身に刻んできたモノ。その塊がそこにいた。
(リリス………何だよ、お前……どれだけ……自分を呪ってんだよ!)
そう、アレはまぎれもない『呪い』だ。そして、それは『呪われた』のではない。自らが自らを呪っているのだ。呪って呪って呪って……壊れた。
それが今の『リリス=バルド』だった。
だったら、何を呆けていた?ならば、やることはひとつじゃないか。
今までそうしてきたように、やることは決まっていた。
俺に、出来ることは決まっていた。
(レムリ、スタア!)
「はい?ファウ様?」
「何よ?今、手が離せないのだけど?」
(そのまま、聞いてくれ。リリスの呪いを『解呪』する!)
(の、呪いって、呪われているのですか?リリスちゃん)
(……で?大丈夫なの?強いわよ?出来るの?)
(ん?ああ、出来るよ)
(はぁ、いいわ………)
(ですねっ……)
(ただし条件がある。いや、これは俺からの頼みだ!)
(何ですの?)
(はい!分かりました!)
レムリ、まだ内容を言ってないぞ?
(防御を全てお前達に任せる。このレムリの身体を守ってくれ)
(……守ってあげますわ、必ず……貸しですわよ?)
スタアの了解を得たようでよかった。俺にはリリスの攻撃は見えないからな。俺が主導権の時はどうしても防御に不安が残るのだ。
細かく俺とレムリを切り替えての戦闘になれば、レムリの負担も増す。
防御の要はスタアになる。
では、可愛い妹をあちら側から引きずり出してやろうか。
そして、その喪服を脱げ。服ならいくらでも買ってやる!




