21:決闘開始
決闘の日がやって来た。雲一つない快晴は決闘日和と言っていいだろう。
決闘には学院内に存在する『闘技場』を使用する。1対1から団体戦、多数対多数などにも使うとあって広い空間が用意されている。また、全生徒が入れるだけの客席も完備されていた。流石に今回の一戦は『聖女』対『戦乙女』との話題性もあり超満員だった。
客席への安全性は考慮され、何重にも物理防御壁、魔法障壁、精神防御層で守られている。これを破ろうとしたら下準備や一流の術者、土木魔法の知識が必要なのではないだろうか。やろうとしたら、労力で割に合わないことは確かだ。
審判?いや、見届け人?
俺の様な庶民にはそんな役割だとしか言えないが、中央に出て来る。
「今回の決闘に関しては、異例ながらも王国の『聖女』帝国の『戦乙女』の対戦となった!両者、互いに恥じることのない戦いをしてもらいたい!」
「『王国第三聖女』『レムスタリア=アルバーノ=フェイゼノルン』『蒼の聖女』」
「はい」
『レムスタリア』は正装である。『蒼の聖女の聖衣』を身に着けている。蒼を基調に金の刺繍と銀の刺繍が交差しあう。
闘技場に歓声が響いた。『レムスタリア』様コールが、凄いことになっている。割れんばかりの歓声とは、このことだ。
「対戦者代理『帝国序列二位』『リリス=バルド』『黒死の戦乙女』」
「…………」
『リリス=ヴァルキュリア』は無言。
拍手がまばらに起こる。
(なっ……リリス!なのか!?)
『リリス=バルド』。それは、前回での俺の妹だった少女。いや、今だって妹だ。俺の本来の目標は、俺を死なせたと落ち込んでいるあいつの元へ帰ってやる事だったのだから。
それが、『帝国第二位のヴァルキュリア』?何で『戦乙女』になってるんだよ!
俺が直ぐに気づけなかったのも無理はないだろう。
(リリス…………お前、何だよその目…………)
リリスの瞳は、対戦相手である『レムスタリア』さえ見ていない。
暗く、暗く、暗く。
意思があるのかさえその表情からは、図れない。天真爛漫だった俺の妹は、全く別の何かになっていた。変わり果てた姿が俺の思考を乱す。
身長の二倍のランスを手にし、何処かに散歩にでも行こうとするかの黒い服。防御効果は皆無だろう。ただ、身にまとうソレの気配は…………俺の良く知るモノの香りをまき散らしている。
(何で、こんなことになってるんだよ!)
「両者前へ!!」
(ファウ様?)
俺の様子の異変にレムリが気づいたようだ。
(……あいつは、……リリスは俺の妹だ)
((!!))
「始め!!」
開始の合図が鳴り響いた!!
『リリス=ヴァルキュリア』が、呟く。
『死点流撃』
俺には…………見えなかった。
キュンッ!!
音は、後からやってきた。
そして『レムスタリア』の頬を掠めたソレは、会場を囲む多重防波壁を二層まで破壊した。その後、頬が切れ、淡いブルーの髪の毛が肩からハラハラと落ち風に流された。
『死点……』
(レムリ!グズグズしない!)
スタアの内からの声がレムリの止まった思考を動かす。
『蒼鏡展開』っ!!
『……流撃』
レムスタリアから現れた煌めきが、正面にて六重の壁となりレムスタリアを守る。
リリスの攻撃を、レムスタリアの『蒼鏡』が防ぐ。リリスの『死点流撃』が『蒼鏡』を抉る。
「あぅ!!」
(耐えなさい!!レムリ!抜かれたら終わりですわよ!)
スタアの叫び声が聞こえた。
何とか防ぎ……いや、防げなかった。『レムスタリア』の『蒼鏡』が全て破壊され、『蒼鏡』を支えていた右手から血が流れた。
キラキラと舞い落ちる蒼鏡の残骸は、魔力の散開と共にやがて消えた。
歓声が一斉に止み、会場が静まり返る。
レムスタリアの『蒼鏡』が砕かれたことなど過去に無かったのだから。
(リリス………何だよ、お前……どれだけ……)
(レムリ!止まってはダメよ!とにかく動き回るのですわ!)
「はい!スタアちゃん!」
「違う…………貴女でもない」
走り出したレムリを『リリス』は見てさえいない。
「……わたしを、殺してくれなきゃ…………」
リリスの口元に笑みが浮かぶ。
「し~ん~じゃ~う~よぉ~!!」
同時にリリスの姿が消え、走るレムリの前に現れる。
そのままレムスタリアの顔面を掴み……地面に叩きつけた。
「きゃっ!」
(プロテクション!)
スタアのサポートが同時に行われ、レムスタリアの身体が薄い光に包まれる。
轟音と共に、叩きつけられた石畳の地面が窪んだ。速さと力で明らかに負けている。素人目にもこれは明らかだった。
(レムリ!距離をとって!!)
スタアの声も空しく……完全に浮かされた。
リリスは、バウンドして無防備になったレムスタリアにそのまま肘を落とす。プロテクションが貫通されて飛散する。
再び叩きつけられる。轟音、舞い上がる破片、衝撃が突き抜け、レムスタリアが背にする石畳の亀裂が網の目のように会場を走る。
「コフッ………」
レムリが口から血を吐いた。
視界が赤く染まる。
内臓破裂……脊髄損傷……骨折多種……開始から、1分の出来事であった。




