15:終わりよければ
比較的広いスペースが必要だったので。土日で人気のない学院の講堂に向かった。
俺は初めてだが、中々贅沢な作りだった。
「「蒼・鏡・展・開」」
レムリの周りを魔力で作られた蒼鏡が囲んでいく。
「これでよろしいのですか?ファウ様」
「ああ、十分だ。蒼の……牢獄だったか?発動させるなよ?」
「勿論です」
レムリの準備は整った。次はこちらだな。
「『ケレーの契約』!」
『ケレーの契約』(魔術系)
名前で相手の存在そのものを縛る呪い。本来は格上の悪魔との契約に使用し真名を組み込むことによって従属させることに使用された。肉体を持たない精神体を飛散させずに人間界に留めておける。悪魔側からすれば腹に据えかねる呪いであろう。
これは、俺が二人に『名付け』て以来、発動し続けていた『呪い』だ。スタアに関してまずしなければならないのは、『解呪』後の消滅の回避。これは難しくはない。そこで『スタア』と名前を付けて留めて置けるようにした。
「『ロクスヌの離脱』!」
『ロクスヌの離脱』(霊体系)
対象者の幽体を離脱させる呪い。この力に取り付かれ常習的に幽体離脱を繰り返していた若者はやがて元の身体に復帰できずに、亡者と化してしまう。その想いが残ったもの。本来は離脱と復帰が一対。
スタアがスタアとして存在するにはもう一つ必要なことがあった。レムリの中でスタアのことを自ら解決することが必要なのだ。未練を残したままだとレムリがスタアをいずれ取り込んでしまう。そこでわざと切り離した。その間は深い眠りについてもらった。別人格のスタアはいってみれば精神体だ。これも上手くいった。
これでスタアの存在の確定と人格精神体を手に入れた。存在の確定は魂の確定を肯定する。
さて……ここからだな。後は入れ物が必要だ。絶対に拒絶反応を示さない『レムスタリア』と同じモノが。
「『キュペルスの双身』発動!!」
(了解しました。逆流制御、入ります)
『キュペルスの双身』(物理系)
対象者のドッペルゲンガーを具現化する。中の良かった双子姉の死後、姉の復活を願った妹が自分に発動してしまった物理系呪術。現れたもう一人の自分を生涯姉だと信じていたその妹は幸せだったのか?不幸だったのか?見方によっては『呪い』となるケース。
「レムリ打ち合わせ通り、服を脱いで蒼鏡で自身の鏡像化だ。全身だぞ!」
「は……はい!」
「心配するな。俺は絶対見ないから安心しろ」
「ファウ様が望まれるなら、構いませんけど……」
いきなり決心が揺らぐことを言わないでもらいたい。思い返せば、レムリには羞恥心ってモノが無いのか?それとも、俺をそれだけ信頼しているって事か?
(マスター?)
(俺だってわきまえているよ。ここは真面目な場面だ)
(そうだと、いいのですが、でもマスター……)
(ん?)
(これは、聖女の3Dプリン……)
(おっと、そこまでだ)
「『キュペルスの双身』発動します。マスターの『解析』とリンク!」
発動と同時にレムリの隣にレムリと一部の違いもない肉体が現れた。
いや、俺は見てないよ?
「さて仕上げだ『セシュの心言』発動!!」
(発動します!レムリ、スタア両名の伝心を回復)
『セシュの心言』(精神系)
相手のことをもっと知りたいと願う夫が妻にかけてしまった以心伝心の呪い。全ての本心が終始聞こえてくるようになった夫婦は、やがて喧嘩が絶えず、心を病み、最後には互いに刃を向けあってしまった。愛ゆえの行動も時には呪いと化してしまう。
今現在リンクの切れている二人を繋ぐ。
後は……。
「寝覚めるがよいー!スタアよーーー!」
「……気持ち悪いから、やめていただけないかしら?その言い方」
「よお!お帰り」
「す、スタアーちゃんーーー!おーがーえーりーぃー!」
レムリがスタアに抱き着く。まぁ、どちらも寸分違わぬ身体なんだけどね。
見た目全く同じ。ただ、スタアの身体はドッペルゲンガー体だ。ドッペルゲンガーを見たら死ぬってのは都市伝説だからね。まぁ、もうひとりの自分に驚いて心臓麻痺はあるかもしれないが……。
この世界、神が過去なんて燃えカスだとか言う世界だからね。ある意味常識持ってたら生きにくいよ?
複雑そうに見えて、やったことは単純だ。先に行った事を今度は順番を逆にしてドッペルゲンガー体に対して行っただけだ。
簡単に言えばドッペルゲンガー体にスタアの存在の確定と人格精神体を移植した。ドッペルゲンガー体と言ってもレムリの蒼の鏡も使い遺伝子レベルで『解析』複製した本体だ。一週間で『解析』したのだから自慢ではないが、凄いだろ。ちなみに『解析』はこの世界での俺の『能力』。
誤解しているかもしれないので断っておくが『解呪』は『解析』の副産物、おまけだ。
「た、ただいまですわ」
涙でグシャグシャのレムリに抱き着かれて困ってる。ってかこの図、俺が裸のスタアに抱き着いてる図でもあるよね。
思わず笑みがこぼれた。
(うんうん、美少女の抱擁は絵になるねー)
(見てますね?マスター)
(……何のことかな?俺くらいになると心眼でメシ三杯だぜ?)
(まぁ、裸でいるのも何だし)
「取り合えず服着ようか」
「はい、フ……ァウ様……グスッ」
レムリは服を着だす。布ずれの音がする。
「お聞きしますけど?私のは何処なのかしら?」
「何処って……あっ」
「まさかとは、思いますけど。忘れたなんてことは、いくら虫のような貴方の頭でも有りえないですわよねっ!」
「あっ、スタアちゃんの服……」
……感動の再会になるはずだった。何処で間違った?
(マスターらしいと言えばらしいですね)
この後、スタアに怒られて、病院を抜け出したことを『第二聖女』にめちゃめちゃ怒られた。『第二聖女』と言えば、その時『呪い』が発動して凄い迷惑をかけてしまったのだが、その話しは、また別の機会にでもしよう。
(「『ケレーの契約』」「『ロクスヌの離脱』!」「『キュペルスの双身』」「『セシュの心言』」発動停止!現在の呪い発動数……ありません。負荷は略ゼロでした)
何とかなったのなら万々歳だ。
(ところでマスター、これって……命の創造では?)
(何いってんだ?元々スタアは存在してたろ?)
(そ……そうですね)
何にせよ退院したら学園生活が始まるのだ。
終わりよければ全てよしだろう?




