133:刺客
そこはどんな理由があってそうなったのか、廃ビルが立ち並ぶ一角だった。
この時代の『ニッポン』にこんな場所があるのに驚く。
そして女神がこんな場所に居るのだと言う事実に更に驚く。
「ここか?ディア?」
「はい、この廃ビルの最上階に……急ぎましょう」
「ああ」
俺とディアレスは入り口に向かう。
「ちょっと待ちな、兄ちゃん」
背後に男が立っていた。人の気配は無かったはずだ。上下黒、サングラス。とても一般人には見えない。
「一応、個人所有のビルなんですよ?不法侵入ですけど?」
今度は、女の声が男の背後からする。完全に隠れる形で小柄な女性が顔を覗かせる。女も大き目のサングラス。
「すみません、そうとは知らなくて……僕たち、人を訪ねて来たんですけど」
友好的に話しかける。話して済むのならそれで……。
「「……」」
二人は無言になった。
「どうだ?」
サングラスの男が女に訪ねた。
「木曽二田 虎雄(24)、別名ファウ=バルド。出身、八翼世界帝国」
(なっ!)
「『不戦勝』(ロック)、『重力操作』『ワールド・サーチ』……そして『解析』」
(この女は!まさか……俺を『解析』したのかっ!)
「『世界を壊す者』……自称『魔人』」
「決まりだなっ!兄ちゃん、世界の為に死んでくれや!」
男の両手には日本刀が握られていた。この時代にも銃刀法が……ってどこから出した?いや、今はどうでもいい事だ。
「くっ!」
只の偶然に過ぎない。急けようとして尻もちを着いただけだ。二つの閃光は俺の首の有った場所に振るわれた。
元々俺の肉体スペックは高くない。それでいて本来は文系。聖女や真巫女の身体能力に依存して戦闘していたから戦えていたに過ぎない。今は、肉体強化の呪いもないのだ。
最強の組み合わせである『スキル』を持っていようが、使うのは俺自身だ。行き成り超人には成れないのだ。完全武装しても素人は素人という事だ。
そして要の『不戦勝』はロック状態だ。何故ならこの世界で使った場合、アレが起こる。世界規模の無気力症。ボルトがしていたように調節は出来るのだろうが、今の俺には無理だ。
この状況は、非常にまずい。
1対3だ。
尻もち状態の俺。俺の背後のディアレス。当然そう来るよな。
俺は身を捻り、転がる。
俺の居た場所に2発の弾丸が撃ち込まれた。
そう、ディアレスを騙った女からの銃撃。本当に銃刀法ってなんだろ?
ここへは来るなと言った以上、ディアレスは守る。ならば、来た者はディアレスでは無いのだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……この言葉を残した奴に一言いいたい気分だ。俺の現状が全てだ。虎子どころか、全てを失う一歩前だ。まぁ、万全の態勢で挑めって事ではあるのだろうが……。
続けてディアレス(偽)からの二射。
これはいい。『飛ぶものは落とす』。
『グラビティ・フィールド』
曲線を描く弾道で、割れたアスファルトに着弾。そのまま自重をゼロにして腕一本で反動を付け空中を数回転して距離を取った。
「イチ、援護」
「了解だよ」
小柄な女の腕に鎖が巻き付いた。男が日本刀を手に距離を詰める。
女の手から放たれた鎖は俺の左右から迫る。男は正面。そう問題は男だけだ。
鎖は落とせる。そして、鎖の扱いなら俺に分がある。呪いの正門を懐かしく思う。
いや、これは逃避だ。呑まれたら危険なモノだ。
男の重力を無重力へ。女の鎖は方向性を持たせ弾く。
「え?きゃっ」
自身の鎖に巻き付かれ、女が倒れた。男は無重力で手足をバタつかせ宙に浮く。
「何だこりゃっ!」
「重力操作よっ!教えたでしょ!」
潮時だ。情報は欲しいが、仲間が駆け付けないとも限らない。寧ろ、初撃をかわせた幸運を無駄にしない方がいい。
「悪く思わないでくれ。こちらには戦闘の意思はない。やむを得ず……だ」
早くこの場を離れるに限る。
俺は死角となるビル目掛けて飛翔する。
「『魔弾』!!」
偽ディアレスの存在を忘れていた訳では無いが、油断、戦闘センスの問題か?
重力では落とせない弾が直撃、俺は撃ち落された。
墜落する俺にディアレスの言葉が思い浮かぶ。
「マスターが失敗する時は大体2パターンあります。自信過剰で油断し凡ミスを犯す場合。一か八かで確証もなく行動に出た場合」
その通りだ、ディアレス。今回は、両方だな……。




