122:四翼の希望、その名は・・・
勇者ボルトの死亡が伝えられ、戦線が崩壊して間もなく『王都』は陥落した。つまり、最前線にいた兵士達には撤退する場所を失ったのだ。
結果、孤立し四方から囲まれ、各防衛線にて三個師団編成の兵達はそれぞれ撃破されていった。
そこには、六翼の勇者『ルデスタイン』が『降伏』を認めなかった事も原因としてある。それは、ボルトが六翼を攻めた際に取った行動がそのまま返って来てるだけなのだが……。
すべてボルトのせいと言っていい。
そして、ここには更に……ボルトの関係者が居た。
簡易的な陣を築いてはいたが物資も、食料も底を付いた。治療に専念している衛生兵も魔力の限界だ。そもそも魔力の枯渇は死だ。無理をさせられるはずもなく。
他の戦線同様に、ウォボス、ミユウも最後の時を迎えていた。
ウォボスの神降ろしは解かれ、叢雲も金属の塊に戻った。ミユウの12の刃は折れて『闇』を纏う事も出来ない。結果は分かっていたが、良く持ったと褒めるべきだろう。
相手は世界の頂点。神を除けば勝てる者など想像出来ない。
『勇者』なのだから。
「ミユウ、最後に言っておく」
「なに?ウォボス」
互いを背にしてそれでも構える。
もうじき敵がなだれ込んで来る。地響きが近づいて来る。その時には全てを使い果たした一個人など数に呑まれる。
「まぁ、なんだ……一緒に暮らさないか?」
「…………私、獣人、だよ?」
「し、心配するな。俺はケモナーだッ!」
「…………最低の、返しだね」
「す、すまねぇ」
いくつもの金属音が響く。
(突破されたかっ!)
「ウォボス、返事は、生き残ったら、ね?」
「おう!」
だが現実は無情だ。ウォボスがミユウから返事を聞くことは無いのだろう。だからウォボスは心に決める。
最後は、ミユウひとりの為にだけ戦うと……。
その時それは起こる。
日中の日差し、照りつける太陽が掻き消えた。
辺り一面の闇になる。
誰もが動きを止めた。止めざる得ない。
その異変はその場にいた者を二つに分ける。
初めて体験する者にとっては『恐怖』。
そしてそれを体験していた者にとっては『希望』。
闇に光が差す。敵、味方合わせて数十万が一斉に空を見上げる。
そこには初めて見る、丸く大きな『星』が浮かんでいた。それは八翼の者なら良く知る『月』。ミユウもウォボスも八翼で見ている。
だが四翼には存在しないモノ。
それを背にして空に浮かぶ影。そのシルエットは大鎌を持つ死神。
「し、師匠っ!」
ミユウが叫んだ。
「師匠、そ、それは?」
リテリが後ろを見て言った。
「ん?持ってきたのよ」
『月』を持ってきた?いくら何でも有り得ない。
王国軍が騒めいた。六翼の兵は理解出来ていない。
「さて、盛大な『決まり事』破りの始まりじゃのう」
巨大な翼を持った魔族。頭には禍々しい二本の角。
「魔王ルクスかっ!」
ウォボスも何が何だか混乱していた。
「聖女の聖域」
「ヒール・オール」
二つの声が重なる。傷ついていた兵士が癒される。
『蒼』の髪、『蒼』の瞳。そして髪から溢れる魔力の残光。
「レム……」
一人の兵士が呟いた。
「そうだよ、あれは……」
「レム……なんだっけ?」
「レムスマニア?」
「レム子……」
「そうだよ!レム子だよ!」
「レム子だ」
「レム子ちゃん」
「レム子様」
「レム子」
「レム子」
まるで侵食する呪いの様に王国の兵士を染め上げる。そして唸り、轟、歓声にも似た『レム子コール』に変わった。
「「「レム子!レム子!レム子!レム子!レム子!」」」
「な、何ですの?レムリ?」
「何だろね?」
虹の聖女リセルナに勝利した唯一の者。ソレが悪魔でも、神でも、それ以外でもこの状況で縋れるものはレム子以外にいなかった。実際、勝ったのはスタアだがレムスタリアは王国にてその見た目もあって有名人だ。
「各自、盛大に『決まり事』破りをするように!それがお兄さんを救うことに繋がるよ!」
(六翼の魔王にはリテリお姉さんでいいか。『魔王には勇者以外勝てない』を破ってもらおう。魔王戦は、私との対決で経験済みだからね)
そして……。
(一番の難題は私だね。『魔王では勇者に勝てない』。この理をどう破るか?)
(『治安維持』の魔王が率先して『決まり事』を破るわけだから……それだけでも良さそうだけど、念には念だね)
それに、以前に種は蒔いている。『魔王が死ぬと世界は滅ぶ』との嘘で神を貶めた。
(私からのプレゼント、気に入ってくれてたらいいけど……『クロカミ』殿)
では、始めるよう!




