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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
復讐の聖女編
112/268

111:四翼世界の攻防前夜(魔神ボルト)

 

 奴らがその姿を現してもファウ=ボルトは動けなかった。いや、あえて動こうとしなかった。


 魔人ファウ=バルド戦によって『不戦勝』を封じられ、勇者ディアレスの『八翼天翔・千方陣』によって刻まれた死点より常に魔力が流出している現状。


 指一本動かずにも苦痛が伴う。そして動けば動くほど流出は早まり……リセルナの負担が増す。


 リセルナ……こんな男など早々に見限ればよいものを一途に尽くす女。見返りを求めるでもなく、旧世界を滅ぼした魔神と呼ばれた俺に尽くす女。いつか俺を元に戻してみせるのだと微笑む女。


 この女は何処か壊れているのだと思った。そうでなければ大量虐殺の魔神に尽くせるはずが無い。そう、俺と同じく……『改変』で変えられた俺と同じく壊れているのだと。


 だが、それならそれで良いと思うようになっていた。壊れた女と壊れた男。


 『改変』前の俺がどんな人物であったかは記憶にない。ファウ=バルドの言うところのソレが正史だ。魔神は元々魔神でならなくては正史となり得ない。だから仮に魔神ではない俺が居たとしても興味はない。魔神になり得なかった俺の歴史があったとしても興味はない。


 俺は魔神としてここに存在しているのだから魔神として行動する。それだけだ。



 では、この行動は魔神として正解なのか?


 バカげている、俺のとった行動には何の言い訳も理由も意味を成さない。

 バカげている。それだけだ。





 奴らが肉の塊を俺に投げた。俺はそれが何なのか理解していた。


 ソレは首だ。人間の頭部だ。


 美しかった虹色の髪は血で汚れ、光を放たない。

 半開きの瞳は、もう俺を映してはいなかった。

 俺の名前を呼んだ唇は、もう言葉を発しない。


 そして、俺は。


 唯一の者を奪われる悲しみを初めて知った。


 ならば……。


 立ち上がる。立たなくてはならない。


 魔力の流出がそれだけで早まるのを感じた。


 こんな男に尽くした女なのだ、一人で逝かせる訳にもいかないだろう。


「礼の一つも言えなかったな……リセルナ」




「やっぱり、生きていたのね?」


 女の後ろには6人。逆光で顔は良く見えない。


(こいつらか?リセルナ?)


 俺の腕の中のリセルナは、語り掛けても微笑まない。もうあの笑顔を見ることは無いのだと実感した。


「その子、その首が落ちる瞬間まで貴方の名前呼んでたわよ?早く逝ってあげたらぁ?」



 ボルトに感情が生まれる。



「お前ら。生まれてきたことを後悔しろ」



 それは初めて感じる人間的な怒りだった。



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