110:リセルナ決死戦(1)
「良い食材が手に入ったわ」
今夜のメニューをあれこれ考えてみる。このところまともな物を口にしていなかった。乾燥肉、乾燥パンにお湯。逃亡生活とはそんなものと理解していても、女として好きな男の食事がそれだけというのもプライドに関わる。
「小さなプライドね。でも、今夜はまともな食事をお出しできそう」
リセルナの足は先を急ぐ。ファウ=ボルトの下へ。
現状、ファウ=ボルトは口をきいてくれない。今の隠れ家に到着して一言。
「バカだろ、お前」
……と告げただけだ。だが、魔力の補充は素直に受けてくれるし、逃げ出すそぶりも見せない。最も逃げたら補充できずに死が待っているからとの理由があるが、リセルナはそれだけではないのだと思いたかった。
別にはしゃいでいたわけでは無い。好きな男との二人だけの生活に有頂天になってた訳でもない。それでいてこうなってしまったからには相手の力量を褒めるべきか?
だけど、確かなことが一つある。それは、私達の生活を脅かす者であること。
「みぃーつけた!」
1,2……7人。囲まれた。
7人が皆、私に存在を察知されずにここまで接近していた。有り得ないと思ったが、ある魔族の言葉が浮かんだ。
「どんな理不尽な事でも起こり得るものですわ」
(……そう、その通りですね。スタアさん)
少し冷静になれた。
「……え?え?だ、だれ?」
ひとまずは村娘を装う。行き成り囲まれて戸惑いと、恐怖で少し混乱してる感じがいいかしら?
「ん?」
私の正面の少女が怪訝そうな顔ををする。
「ピピエラーーー」
「何?クロ?」
「本当にこの薄汚れた村娘がアノ『虹』なの?」
ピピエラと呼ばれた少女は瞳を閉じた。
やれることはやっておく、この僅かな時間が生死を分ける。
(色は音……)
色なのに音も可笑しいがそうなのだから仕方がない。
(私の音の確認。そうであるならば、外見何て関係ない。正体は……)
「間違いないよ、この村娘が虹の聖女リセルナだね」
(隠し通せない!)
魔力の解放。白かった髪が色を帯びる。ソレは七色に輝き、虹を描く。
戦いは好きではない。好きではないが。
(私とファウ様の生活を脅かす者は排除するだけ!)
クロと呼ばれた少女はつまらないモノでも見るかのように告げる。
「バンナー、確認」
「もう、間違いないって言ってるのにぃー」
ピピエラが頬を膨らませた。
「え?あたい?」
大柄な女性が前に出てきた。色は……何なの?『拳』?
「何か一発で終わりそうだけど……いいの?」
バンナーがクロを見た。
「それならそれでいいよ。あ、顔は止めてね。使うから」
「はいはい、姫様。おおせのままにっ!!」
バンナーの『拳』が振るわれた。何の動作も無くいきなり。
(無駄よ、色は見えている)
『拳』とは本来打撃だ。だがバンナーのソレは相手を切り裂く斬撃だった。拳そのものが超高速で振動している。それ故に切った後に破壊が発生する。高周波の拳とでも言えばよいのか。
ならば、近づけなければいい。
『七光・流帯』
リセルナの足元から魔力の帯が流れた。それは七色の光の帯。それはリセルナを中心に円を描き一つの結界を作り出す。虹の世界とその他の世界を隔てる結界。
リセルナめがけて放たれた拳は急激に目標を変えて取り囲んでいた一人を捉えた。
「!!」
首だけを残して切り刻まれた肉片が後から破裂する。
「あ、ごめん……」
バンナーのつぶやきにクロが顔を手で覆った。呆れたのだ。
「うわぁーバンナー。最低ー。でも、おっかしー」
頭にリボンを付けた少女がバンナーを指さして笑った。
「アズハ=ムライ。起きてっ!」
クロがそう言葉にした。
「ちょっと、殺す気?バンナーっ!」
アズハの言葉にリボンの少女がまた笑う。
「あははは、おっかしーぃ。殺す気かだって。あはははは。殺すも何も貴女達もう……」
「だからごめんって……」
「ごめんで済めばクロ姫はいらないのよっ!」
「私が何だって?アズハーーーぁ?」
「いいえ、私が手を貸そうかと?」
何?今、何が起こったの?『完全復活』とは違う何かが起こった。破壊された肉体が一瞬で元に戻った。クロ……クロと呼ばれるあの少女が何かした。なら、何をした?色は何?
「いいよー。バンナーに手を貸してあげてーアズハ」
「了解しました。姫」
リセルナはクロの色を見る。そして出た結論は驚愕の結果。
クロと呼ばれた少女は『ネクロマンサー』の色。
(そんな……ならば、クロと呼ばれた少女以外の六人は……既に死んでいる?)
八つの世界にて最も忌み嫌われる者。そう、ファウ=バルドがクレシュの『解析』にて重要視しなかった属性、それは『死』であったのだ。つまりは『死人』。この世のものでは無い。
(どんな理不尽な事でも起こり得るもの……確かにそうだが、この理不尽は認めてはいけない)
「し、死人を弄ぶなんて……」
六人を見る。明らかに白い肌、白すぎる。
「この死人使いは、ここで滅しなければなりませんっ!」




