10:絶望の果てに(レムリ)
スタアと入れ替わりにレムリが表層に出てきたので、俺は、先程の名前の経緯を説明する。
「わたくし達の名前を合わせると『レムスタリア』……わたくしの名前になるなんて素敵ですね。でも……」
「ん?」
「どうして、レムスとタリアでは無く、レムリとスタアなのでしょうか?」
「ああ、それね。絆っていうのかな。レムスタリアの文字を左右から引いたら、すぐにレムスとタリアに分かれてしまうだろ?」
「ええ」
「だが、レムリとスタアに分けるには引っ張ったくらいじゃダメだ。互いに入り込んでしっかり結ばれている。つまりは二人の絆の深さを名前で表しているんだよ」
それを聞いていたレムリの顔が、輝いたかのような表情を見せた。
「わたくし気に入りました」
「よかったよ、気に入ってもらえて」
「では、本題に入ろうか。呪いのことを聞かせてくれるか?」
「……はい。そうですね、もう一年前になります」
初めは微かな違和感だった。只、疲れているのかと思ったようだ。だが、日に日に全身を痛みが襲うようになった。痛みに対しては緩和も効かず、治療も出来ない。
そして、『呪い』であることが分かった。考えられなかった。『レムスタリア』は『聖女候補』である。それも、王国で三番目の『聖女候補』だ。
『加護』持ちの自分に『呪い』などそれこそ夢にも思っていなかった。
やがて痛みは激痛に代わり、日に一度だったものが増えていき。心が折れそうになる。王国の『聖女達』も手を尽くしてはくれたが『第一聖女』ですら『解呪』は不可能だった。
自分は何でこんなに弱いのか?『第三聖女』などと呼ばれてはいるが、何も出来ず痛みにすら屈しようとしている。もっと強い自分になれたらと思った。痛みにも不安にも負けず立ち向かっていく、臆病ではない自分。そうなれたら自分は負けないのにと。
ある時から、頻繁に記憶がなくなることが多くなった。気が付くと先ほどまでの自分がいた場所ではない所で我に返る。何度も経験した。そのころから激痛は消え不安もなくなっていた。『呪い』はまだ存在しているのに……何故か不思議とは思わなかった。
わたくしは、なんてことをしてしまったのだろう。
その理由を知ってしまう。
意識が後ろに引かれる感覚と共に身体の自由を失ったあの時、見てしまったのだ。
激痛に耐える彼女を…。
わたくしの代わりに激痛を受けてくれていた彼女を。全ての苦しみと不安を押し付けてしまったもう一人の自分を。
それがレムリがスタアを自覚した瞬間だった。
「この一年間、王国にある書籍も調べ尽くしました。解呪のロストアイテムも探しました。他の『聖女候補』にも頼らせていただきました。……でも、出た結論は、『解呪不可能』だったのです」
「……そうか」
「正直にお聞かせください。ファウ様には『解呪』できるのですか?」
「ん?ああ、出来るよ」
俺は当たり前のようにそう言った。
「ただし、ひとつだけ条件がある。頼みと言った方がいいか」
「なんでしょうか?どのようなことでも……」
「レムリとスタアが同時に表層へ出ていること……が条件だ」
「同時にですか?」
「そうだ、主導権はどちらでも構わない。二つの意識が同時にある状態を持続してほしい。出来るなら、今すぐにもで『解呪』に入れる」
「それ、本当ですの!今すぐ『解呪』!」
「あ、出てきた。何だ出来るのか」
レムリが引っ込んだらスタアが出てきて、スタアが引っ込んだらレムリが出てきたから出来ないかと思ってたよ。
「出来ますわよ!ただ、少し疲れるのですわ」
「そうですね。大体一時間くらいでしょうか。同時にいられるのは……」
「十分だ!」
「本当にレムリは助かるのですわね?」
「ああ、任せろ。呪いは、今日終わる」
『レムスタリア』の濃い蒼の瞳から涙があふれる。
それは、いったい……どちらが流した涙だったのか……




