108:黒の聖女
内装は派手ではない。派手ではないが一つ一つがそれなりの値のする事は確かだ。そんな部屋、決して広いとは言い難い部屋の中に4人が集まっていた。
「クロ?浮かない顔ね?」
「まぁね……」
クロと呼ばれた少女は、組んでいた足を組み替える。
「心配事?」
「ねぇ、ピピエラ。貴女は疑問に感じない?」
ピピエラ=エスカミュは思う。この子はどの事を指しているのか?
心音、呼吸音、血流音、この子の出す全ての音が答えをくれた。
音が全てを理解し、音が全てを完結させる『音の聖女』。それがピピエラ。
だが、少し考えて取り敢えずは一番無難な答えを口にする。うちの姫の性格は知っている。
「私からは……何とも言えないかなぁ……」
「そう?」
「で、クロ的には何が疑問なの?」
ドンッ!
テーブルを叩いた音が響いた。
「上手くいきすぎている」
「いい事じゃない?」
「はぁ?開戦して十日余りであのファウ=バルドを殺せて、魔神ファウ=ボルトも死んだぁ?」
「そうよ、今度こそ私達の完全勝利よ」
「私の予測では早くてひと月、その予測を上回る働きをしてくれたと?」
クロは椅子から立ち上がると部屋の隅に立ちこちらを見ていた少女の前へと移動する。
「スタア?本当に殺せたの?」
そこには蒼の髪、蒼の瞳。八翼世界にて『蒼の聖女』と呼ばれるレムスタリア。その第二人格であったスタア。
「今更何ですの?わたくしは言われた事は完璧に実行しましたわ。嘘だと思うならそこの筋肉に聞いたらいかが?」
「バンナー?」
「き、筋肉って……ああ、間違いないよ。あたいが確認してる」
バンナー=ホリキム。髪はショートカット。女性でありながら180を超える。そして、特筆すべきはその筋肉。無駄な脂肪を全てそぎ落としたかと思われる肉体はある意味芸術。外見からは『聖女』だと言われても信じる者はいないだろう。むしろ『格闘家』に近い。それもそのはず。彼女は『拳の聖女』と呼ばれている。
「ファウ=バルドとは下種よ。目的のためにはどんな手段も使うわ。利用できる者は利用し、ゴミの様に捨てる。いくつもの策を巡らし、常に自分は安全な場所を維持する。女子供を盾にしても自分は助かろうとする、そんな男よ?それがこんな簡単にあっけなく死ぬう?」
「まぁ、相手が身内だから油断したんだろ?それに使用した『死界刃』は『完全復活』を無効化するスキル付きだ。助からないって」
ピピエラがバンナーに続いた。
「それに、もうじきクレシュが戻るわ。そしたら確定よ」
「それだけど、予定変更よ。四翼で他の三人と合流するわ」
「「え?」」
「あの女、リセルナの首を取るわっ!!準備してっ!」
「はいはい、うちの姫は気まぐれだからな、慣れたよ」
そう言いながら、バンナーが出て行った。
「予定が狂うけど平気?」
ピピエラの問いにクロは鼻で笑った。
「ふん、予定なんて無視するためにあるのよっ」
「はいはい、仰せのままに~」
ピピエラもバンナーの後を追って出て行く。スタアだけが残った。
「何よ?スタア。言いたいことがあるの?」
「……」
「はっきり言ったら?おねえさま?」
「なら言いますわ。レムスタリア、いつまでこんな事……」
「その名前で呼ばないでっ!私は、クロよっ!黒の聖女!」
怒りがそうさせたのが魔力の残光が髪より零れる。
色は……『黒』ではない『蒼』
「何故、今になってファウをそこまで憎むの?」
「今になって?」
「そうですわ。今まではこんな事」
「今になったからよ!今だからよ!わ……」
そして、言いかけて止める。
「とにかく……私を助けてね。スタア?」
「……ええ、勿論ですわ。レムスタリア」
「まずいわ、ファウ!」
(ん?どうした?)
葵の言葉に考え事を中断する。
「転移門を通る気よ。そしたら、式神じゃ追えない!」
(場所は?!)
「走って十分ほど、間に合わないわっ!」
どうする、このままでは手掛かりを失う。いや、答えは決まっている。
だがその場合、俺だけならともかく葵を巻き込むことになる。
いいのか?いいはずが無い!!
「方法はあるんでしょ?追って!」
(いや、けど……)
「こんな機会ないかもしれない、なら今するべきことをする!」
ファウ=バルドは決断する。
(済まない、葵。だが何が有ろうとお前だけは守る。約束する!)
「ば、バカなの?今の私を見くびらないでよね……」
(そうだったな)
葵から肉体の主導権を受け取る。
だが、成すべきことは決まった。少しキツイ呪いだが葵なら耐えられるだろう。呪いに対する抵抗力ある。
多重発動は無理でも単発なら。
「『ジェムの光動』」
「発動!!」
(発動確認。尚、バランスが崩れ負荷が掛かるまで20秒と推測されます)
ディアの声が聞こえる。
(了解だ。葵の身体への負荷は出来るだけゼロにしろ。俺の魂の負荷は考えなくて良い)
(……はい、マスター)
「神速するっ!!」
大気との摩擦で葵のメイド服が微かに白い煙を上げ始める。だがそれだけだ。郊外だからよかった。王都中心ならこうはいかない。直線を走るだけなら普通に十分の距離なんて一瞬だ。
瞬間移動まではいかなくとも、一瞬で景色が変わったことには変わりない。
(私との戦闘の時って……手加減してたのね?)
(そんなわけ有るか、一杯一杯だったよ)
さて、クレシュの姿は無いが、『転移門』はまだ起動している。
「入るぞ?」
(ええ、了解よ)
今度は、鬼が出るか蛇が出るか……それこそ真巫女のご利益頼みだった。




