105:四翼世界の攻防前夜(ウォボス、ミユウ)
「何とか凌げたな」
大柄な金属の塊を肩に担いだ大男。見た目からは想像つかないだろうが四翼の勇者パーティーの神職『ウォボス=クサナギ』。
立ち昇る闘気が、つい先ほどまで戦闘があったことを示していた。
『神降ろし』を使用し、飛躍的に戦闘力を増すウォボスだがその神髄は剣技にある。
『葵』との試合の際に『神降ろし』に『剣技』を上乗せすることによって更に技に磨きがかかった。
「けどよぉ、向こうもそろそろ気づくはずだぜ?」
「それは、そう。今まで一度も、リセルナが、姿を見せないのは、不自然過ぎる」
答えた獣人の少女。猫耳、しっぽ付きだが猫ではない。闇を纏う黒豹『ミユウ=リザネール』。黒豹化の『形態変化・黒』は自身の防具を吹き飛ばす欠点があったのだが、それも今では獣人形態のまま闇を纏うことで攻守のバランスを取っている。
ミユウは、防具に仕込んだ12の刃を確認しながら2本のククリナイフを腰の鞘に納めた。
周りの兵は一様に疲れ切っている。
(まずいな、持って二日ってところか……)
「リセルナの交渉、上手くいくと思うか?」
「私達は、祈るだけ」
「まぁ、そうだけどよ。あいつは動きそうなのか?」
ウォボスの問いにミユウは直ぐには返答しなかった。
「……私は、そう信じてる。師匠が認めた人だから」
何にせよこの状況はまずいな。俺達はここを動けねぇ。いや、今の俺なら一人でも支えられるか?そうなると、ミユウが単独行動……。
(いや、危険すぎる。せめてあと一人。やはり、ボルトさえ動けたら)
「ウォボス?」
「ん?何でもねえ。それはそうと、お前の新しい形態……行けるじゃねぇかよ」
「うん、師匠に、教えてもらった。やっぱり、すごい人」
「師匠って『魔女』リテリか?」
「リテリじゃない!師匠!」
「お、おう」
「あと、『魔女』言わないで。バレたら、色々、まずいらしい。迷惑かけたくない」
「お、おう。すまねぇ」
「とにかく今は、私達の出来ることをして、待つしかない」
「だな……」
六翼世界が四翼世界に宣戦布告してから十日余りが過ぎようとしていた。
依然詳しい情報はなく、六翼については何も分かっていなかった。何故、滅んだはずの六翼世界が存在しているのか?
だが、ミユウとウォボスはこれと同じ状況を知っていた。
魔王ルクスに蹂躙され滅んだはずの八翼世界が何もなかったように元に戻ったこと。
世界の『挿げ替え』。
起こったことが只の記憶、記録となり無かったことになる神の御業。
しかし、ミユウはそれの大前提を知らない。それは、『過去の世界』『未来の世界』のない『箱庭世界』だから可能であったことだ。
では、六翼世界も『過去の世界』『未来の世界』無い、『箱庭世界』だったのか?
結論は出ない。
そして、六翼の異質性は他にもあった。魔族、人種が連携を組み、六翼の勇者『ルデスタイン』が背後に控える。魔族が人種を庇い、人種が魔族を庇いあって連携を取る。
四翼世界の兵士からは考えられない事だった。
浮足立つ四翼世界は圧倒的に不利。しかし……。
「一気に、攻めて、こないのは、何故?」
こちらの疲弊を狙っている?いいえ、その必要は無い。
現状、四翼は各国がバラバラに応戦している。戦力から一気に攻め落とされても不思議ではないのだ。
考えられるとすれば……。
ガーン!ガーン!ガーン!
ミユウの思考は銅鑼の音に中断された。
「敵の第二陣かっ!こっちは飯もまだなのによっ!」
「ウォボス、いくよっ!」
「任せておけっ!」
(魔人ファウ=バルド。こちらの勇者を使い物にならなくした責任はキッチリ取ってもらう。それまでは持ちこたえてやる。早いとこ頼むぜ!)
この数時間後、四翼の勇者『ファウ=ボルト』の死亡が伝えられ、戦線は一気に崩壊した。




