104:さようならファウ=バルド(裏)
郊外の『第二十一アンニージェ教会』ではファウ=バルドの葬儀が行われていた。
(さて、ここからが本番だぞ?必ず俺の死を確認しに来る奴がいる。可笑しな行動を取るやつが居たら知らせてくれ)
(…………)
(葵?どうした?)
(いつまで私の中に居るつもりなの?)
(敵の正体と、スタアの行動理由がわかるまでかなぁ?)
(だからって、何故私の中に……)
(説明しただろ?レムリの中ではスタアにバレる。リテリさんは敵が一番マークしている。一番の盲点はメイドである葵なんだよ。それに現状、一番信頼できる)
(バカなの?し、し、信頼とか軽々しく言わないで!)
(軽々しくなんて無いぞ?お前は俺がルクスに消されたとき怒って挑んでくれた。俺を救い出す方法の時間稼ぎに命を懸けてくれた。お前がとった行動の一つ一つが俺の信頼を……)
(も、もう、いいからっ!分かった、分かりましたっ!)
(そ、そうか、たのむぞ?)
ファウはああいっている。しかも、現状……ということは、レムリ様やリテリ様は信用できない可能性があるってことだ。そんなこと有り得るの?
ありえるのか……。現にスタア様がファウに刃を向けている。
「外野は言いたい放題じゃな?まぁ、無責任な女の下りはニージェ殿に聞かせてやりたいが……」
(俺もそう思うよ、ルクス)
ルクス様はどうなんだろう?私なんかより、魔王であるルクス様の力を借りた方が絶対に上手くいきそうだけど……。
「そうだったね。でも、お兄さん、こんなことで死んでしまうなんて……私は、情けないよ。英雄ってガラじゃないし、よくよく考えれば大した活躍もしてないんだけど、居るだけで飽きなかったのに。本当に残念だよ」
(確かに大した活躍はしてないけどな。飽きないって評価はないだろ。ルクス)
(余計なこと言わないで。聞き逃すでしょっ!)
(す、すまん)
「スタアお姉さんの足取りは掴めたの?」
「行き成り未亡人だとーっ!と激怒したソフィア様が人形を総動員していますが未だ……」
「はぁ、未亡人ってお兄さんにサイン貰えてないよね?バカなのかな?ソフィアって……」
(バカだな。腕は立つんだが……)
「私の口からは何とも」
(ファウ、うるさい)
「レムスタリアの犯行になっているからね。しばらく我慢してもらおう。ところで、葵お姉さんも別れの挨拶を済ませたら?この後は火葬だって。それまでは魔力供給を勇者ディアレスがしてくれるらしいから消える心配はないけどね」
「そうですね……」
(もっと、しがみ付く感じで悲しみを表現してくれ。何かお前、淡々とし過ぎて俺が死んでないってバレそうだ。恋人が死んだ感じでよろしくっ!)
「ちょ……ば、バカなの?」
そう言って花を添えた。
(余計なこと言うから声に出ちゃったじゃない!)
(俺のせいか?)
(当たり前でしょっ!協力してほしいなら立場をわきまえる!)
(り、了解……)
ドンっ!!
激しい音と共に教会の入り口が吹き飛んだ。
「ご主人様っ!!」
人をかき分けファウ=バルドの亡骸にすがりついたのは赤い髪と瞳の女性だった。
「愛玩動物として可愛がってくれる約束だったのにっ!」
泣き出す女性。
(ファウ?どういう事?愛玩動物って)
(いやいや、俺はそんな約束してないっ!)
(で、誰?この女性?)
(第一聖女候補、クローリアだ……)
リテリが悲鳴に違い声を上げた。
「クローリアねぇ様ぁ!!」
(ご主人様ねぇ?)
(な、何だ?)
(ファウってもしかして、そういうの好きなの?ディアレス様にもマスターって呼ばれてるし。私も呼んであげようか?メイドだし違和感ないでしょ?)
(別に好きなわけじゃない。たまたまだ)
(ふ~ん、そうなんだ?)
(それより、怪しい動きをしたやつはいたか?)
(あなた以外居ないわよ?)
(そ、そうか。もう数日掛かる可能性も考えないとな……)
え?もう数日?無理無理無理。
ディアレス様がファウの五感を封じてくれてるって知っていてもトイレやお風呂であんなに苦戦したのに、もう数日とか無理っ!
大体、女の子が耐えられる状況を超え過ぎている。魔力補給はいいわよ。別に座って話しているのと変わらない。数時間すれば離れるしそんなに意識しないで済む。
でもこの状況は有り得ない。一日中一緒のこの状態。あくびひとつにも気を使う。食事もいつもより一口を小さくした。無論、食べた気なんて全然しなかった。
眠ろうとしても眠れない。自分の身体なのに見る所に気を使う。変なところに視線が行ってないかとか気になる。
これを数か月続けていたレムリ様は……。
嫌な考えが浮かんでしまった。
いくら性格がよくて、それこそ『聖女様』でも耐えられるはずが無い。それが同性であってもだ。
でも耐えたレムリ様。いいえ、耐えたのではなくファウ=バルドという異性の精神と自然に、当たり前に過ごした。これはもう……。
レムリ様の中で人としての何かが欠けている。そんな失礼な考えが浮かんでしまった。
だが、それは葵ならではの直感。
何故なら、かつては葵も人として持っていて当たり前のモノが欠けていたのだから。
(ファウ……あのさ)
「パパ死んじゃったの?」
「お父様死んだの?」
(ライル、メグミ)
葵は何と言って良いか一瞬悩む。能力はけた外れでもまだ子供だ。今では父と慕って懐いていた。そんな子供にこの状況を告げて良いモノか……。
(どうしたらいい?ファウ)
リテリが偶然、助け舟を出してくれた。
「そうね、ファウ様は死んでしまわれたけど、居なくなったわけでは無いのよ。これからは、わたくし達の心の中にいつまでも居るのよ」
「ふ~ん」
「そうかー」
二人が葵を見上げた。
(ねぇ、もしかして、この子達)
「葵の中にも居るの?」
「葵はお父様を好きなの?」
(バレてるよ?多分バレてるよ?)
(何?お前、俺を好きなの?)
(そっちじゃないわよっ!)
瞬間、ライルとメグミが大袈裟に口を押えた。子供ならではのオーバーリアクションだった。
「だめよ、メグミ~」
「邪魔しちゃだめよ、ライル~」
そう言って離れていく二人。
「パパに勝てるわけないのに」
「うんうん、お父様が負けるはずないからねー」
(うん、お父さん頑張るよ~。知ってるか葵?)
(何?)
(あの二人は未来を巡るって希望の言葉を名前にしたんだぜ~)
(耳にタコよ。親バカ)
「お時間でございます」
いよいよファウ=バルドとの最後の別れが近づいて来た。
火が点火される。シールド内ので高温の火力がファウを灰にする。
(自分の火葬を見るのって変な感じだな……)
(それで?私の中にいた成果は得られたの?)
(あれ、お前気づいてないの?怪しい動きはなかったが、動かな過ぎた人物が一人いるだろう?)
(動かな過ぎた人物?)
(そいつに接触してくれ)
さて、行動開始だ。




