103:さようならファウ=バルド
郊外の『第二十一アンニージェ教会』ではファウ=バルドの葬儀が行われていた。
「聞きました?何でも聖女様を手籠めにした挙句、他の女にも手を出して痴話喧嘩の末に刺されたそうですわ……」
「まぁ、酷い。そんな男は刺されて当然。聖女様は悪くないわ」
「ほら、あそこに集まってる女達がファウ=バルドの犠牲者らしいぜ」
「おいおい、リテリ様もかよ。第二聖女と第三聖女に手を出すなんて、行先が地獄でも生温いぜ!」
「ま、まて、あの幼女もか?」
「ああ、聞いて驚け。そうらしい……」
「あの双子の子供は?」
「奴の子らしいぞ。母親は不明。無責任な女に産ませて押し付けられたんだろ?」
「外野は言いたい放題じゃな?まぁ、無責任な女の下りはニージェ殿に聞かせてやりたいが……」
「ルクス様、今は」
葵の言葉に魔王ルクスが言葉を戻す。子供の外見で老人口調は明らかに浮く。
「そうだったね。でも、お兄さん、こんなことで死んでしまうなんて……私は、情けないよ。英雄ってガラじゃないし、よくよく考えれば大した活躍もしてないんだけど、居るだけで飽きなかったのに。本当に残念だよ」
そしてルクスは花を添えた。
「スタアお姉さんの足取りは掴めたの?」
「行き成り未亡人だとーっ!と激怒したソフィア様が人形を総動員していますが未だ……」
「はぁ、未亡人ってお兄さんにサイン貰えてないよね?バカなのかな?ソフィアって……」
「私の口からは何とも」
葵は返答に困った。
「レムリお姉さんは隠れ家?」
「はい、取り乱しておりましたが、今は落ち着いておられます」
「レムスタリアの犯行になっているからね。しばらく我慢してもらおう。ところで、葵お姉さんも別れの挨拶を済ませたら?この後は火葬だって。それまでは魔力供給を勇者ディアレスがしてくれるらしいから消える心配はないけどね」
「そうですね……」
言いたいことは一杯あった。出会ってからの事。この顔を治してくれたのはファウだったこと、自身の意思で生きる選択をするきっかけになった人。込み上げる思いを押し殺して最後に告げる。
「ちょ……ば、バカなの?」
そう言って花を添えた。
「おい、聞いたか?今の?」
「もしかして、あのメイドもそうなんじゃないか?」
「使用人にまで手を出すとか許せねぇ!」
会場が再びざわつく。
ドンっ!!
激しい音と共に教会の入り口が吹き飛んだ。
「ご主人様っ!!」
人をかき分けファウ=バルドの亡骸にすがりついたのは赤い髪と瞳の女性だった。
「愛玩動物として可愛がってくれる約束だったのにっ!」
泣き出す女性。
「まぁ、奥さん、聞きまして?愛玩動物って」
「何処まで……卑劣な」
「なぁ、俺、むしろすげぇって思い始めてるんだが……オカシイか?」
「奇遇だな、俺も同じこと考えてた」
リテリが悲鳴に違い声を上げた。
「クローリアねぇ様ぁ!!」
クローリアはリテリを見上げた。
「あら、リテリ。ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう、姉様……じゃなくて、塔、塔、塔」
「とうとうとうって何の掛け声ですか?」
呼吸を整えるリテリ。
「塔を出て、大丈夫なのですかっ?」
ああ、そのこと?……と納得した表情を見せる。
「ご主人様が私の為に全て解決してくれたの」
「ご主人様?」
「そう、ご主人様。なのに、なのに……死んでしまわれるなんてっ」
また泣き出す。
「主を無くした愛玩動物はどうすればいいのですかーーーっ」
「なぁ、クローリアって……まさか」
「奇遇だな、俺も同じこと考えてた」
「俺、あいつが生きてるうちに会いたかったよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「「「教えを請いたかった」」」
「パパ死んじゃったの?」
「お父様死んだの?」
『ライル=フェイゼノルン』『メグミ=フェイゼノルン』の双子だ。
葵は何と言って良いか一瞬悩む。能力はけた外れでもまだ子供だ。今では父と慕って懐いていた。そんな子供にこの状況を告げて良いモノか……。
リテリが助け舟を出してくれた。
「そうね、ファウ様は死んでしまわれたけど、居なくなったわけでは無いのよ。これからは、わたくし達の心の中にいつまでも居るのよ」
「ふ~ん」
「そうかー」
二人が葵を見上げた。
「?」
「葵の中にも居るの?」
「葵はお父様を好きなの?」
「え?何を……」
瞬間、ライルとメグミが大袈裟に口を押えた。子供ならではのオーバーリアクションだった。
「だめよ、メグミ~」
「邪魔しちゃだめよ、ライル~」
そう言って離れていく二人。
「パパに勝てるわけないのに」
「うんうん、お父様が負けるはずないからねー」
そんな声が聞こえた。
(ファウ様が死んだ現実を受け止めるには幼過ぎるのね……)
そんな二人を見てリテリは思う。自分にしても未だに信じられないのだ。ファウ様の亡骸をディアレスが運んで来た時には自分を失いかけた。
貴女が居ながらどうして……と、ディアレスを責めそうになった。むしろ言わずに言葉を飲み込めたのが奇跡だ。
そして犯人がスタアと聞き言葉を二度失う。
いくら考えても合理的な結論が出ない。
スタアがファウ様を殺害する理由だ。
男女の仲?痴情の縺れ?有り得ない。
脅されて犯行に?スタアのプライドの高さから言いなりになる事は有り得ない。
精神支配された?普通にいつの通りの会話をしていたとの情報だ。支配されているならこの会話が有り得ない。
前世界のボルトのようにファウ様を殺す結果に相応しいモノへと変えられた?違うと断言できないが、それには『時間の概念』が必要だ。掛ける労力が結果に見合わない。
ファウ様を殺害して、一番得する者はだれ?
「お時間でございます」
いよいよファウ=バルドとの最後の別れが近づいて来た。
火が点火される。シールド内ので高温の火力がファウを灰にする。
「さようなら、ファウ=バルド」




