102:聖女と言う名の暗殺者
さて、どうするか?
解呪を忘れましたと、のこのこ戻るのもどうかと思う。
それに彼女の『呪い』自体は、緊急性を要するものでは無い。むしろ問題になっていたのは暴走の原因。
『フレア召喚』の方だ。
(そりゃ、何もかも焼き尽くすはずだ)
むしろ、八翼世界……よく無事だったね?
だが、ひとまずは解決したと言って良いだろう。『フレア召喚』を封印さえすれば、本来のステータスの高さもあり『下級召喚』でさえも上位級の威力を出せる。
では『上位召喚』なら?
まぁ、そこまで面倒見る義理はないよね?
……と向こうから掛けて来る見知った顔を見つける。
「……あれは……」
(揺れない……から、スタアか)
向こうもこちらを見つけたようだ。速度を上げファウ=バルドの目の前まで来ると呼吸を整える。
「こ、ここに居ましたの?さ、探しましたわ」
大きく深呼吸した。
ふぅ。
(マスター?失礼な事を考えていましたね?)
ディアレスだった。
(な、何のことだ?)
(では、どこでレムリ様とスタア様の区別を?)
それは髪……と言いかけて止めた。何故か今日に限ってポニーテイルでは無かった。いつもは自ら、レムリとの区別化で髪形を変えている。……が今日に限ってソレが無かった。
退路はふさがれた。
(お、俺は、小さいのも良いと思います!)
(マスターがいつものクズで安心しました)
実際はレムリとスタアのサイズは同じだ。何から何まで同じだ。
レムリの身体を元にスタアのドッペルゲンガー体を発現させたのだから当たり前。では何故、サイズで見分けがつくかと言えば……レムリはパット装備だからだ。
俺的には気にする必要は無いと思うのだが、出会った頃から使い続けている。常時、レムリの中に居なければならなかった時も、その話題には触れなかった。
だってそうだろう、知り合いの女子に……。
「俺は小さいのも好きだよ。パットやめたら?」
といえる男子が居ると言うのか?もし居たなら、俺は断言できる。
「君こそ勇者だ!……とっ!」
「はぁ?何言ってますの?」
声に出ていたらしい。何処から?最後だけ?
「や、やぁ、スタア。その髪型も素敵だね」
「……気持ち悪いから止めて」
即答でした。
「そんな事より大変ですわっ!学院に侵入した者が貴方を殺すと言って消えたそうよ!」
俺を殺す?
「女の子だったそうですわ?心当たりは?」
俺を殺したがっていた連中には心当たりがある。『世界鑑定協会』。しかし、今更俺の命を狙うか?と言えば否だ。もはや、メリットが無い。
魔神システム・ディア=レスは俺しか起動できないことを理解したはずだ。俺を殺せばシステムそのものがゴミになる。となれば、金を払ってでも俺と交渉した方が利益になる。この場合の利益とは旧世界の技術だ。
リリスの件での慰謝料も吹っ掛けてやったが、あっけないほどにすんなりと条件を呑んだ。
そんな訳で今の俺には、金もある。肉体も得、金も得て、こんな順調で良いのかって程だ。
「怒らないから正直に言いなさい。何処で何処の子に手を出したの?」
「は?」
「この件には私も少し責任を感じているのですわ。貴方が肉体を得た時点でこうなる可能性は予測できていたのに、手を打たなかった……」
「す、スタア?」
「ファウもファウですわ。欲望に負けてこんな事件を起こすくらいなら私に一言。貴方がどうしてもって言うなら、不本意だけど、私しかいないって言うなら……考えてあげても」
(流石スタア様、ツンデレちゃんですね)
ディアの声がしたが今はツッコミの余裕が無い。
「ちょっとまったっ!」
「なに?」
「神に誓って俺は何もしていないっ!」
スタアは俺をじっと見る。
「何処の神よ?」
「あ、アンニージェ?」
「信用できないですわっ!」
デスヨネー。
スタアは特に『女神アンニージェ』に良い印象を持っていない。それが、自分が誕生するきっかけになった事柄だとしても、レムスタリアを利用したのは女神だ。
「まぁ、良いですわ。屋敷に戻りますわよ。こんな場所にいるなんて狙ってくださいと看板持って立っているようなものよ」
「まぁ、そうだな」
周りを見る。人通りは多く死角になる建物も多い。旧世界と違い『銃』との概念は無いが、魔法による精密攻撃は可能だ。そして魔法の使えない俺には防ぐ手立てがない。
「もどるか」
歩き出した俺の後ろにスタアが続いた。こういった所は古風だよな。
「で、その女の詳しい情報は何かないのか?」
後ろのスタアに訪ねた。
「リテリ姉さまが気づいたけど取り逃がしたそうですわ」
(リテリさんが?おいおい、その時点で何処かの一般人の可能性はゼロだろ)
「ファウ、貴方……こんなことばかりしていたらいつか刺されるわよ?」
「こんな事って俺は……」
胸に激しい痛みと熱さを感じた。
「こんな風にね?」
視線の先には胸から飛び出だ銀の刃。
「スタ……ア?」
振り向いたそこには笑顔のスタアが居た。
「さようなら、ファウ」
状況の異変に気付いた通行人が悲鳴を上げる。
キャーーーーっ!
「お、男が刺されたぞっ!」
「血、血よっ!」
「あの女が刺したっ!俺、見たんだっ!」
「待って、あの女見たことある」
「レ、レムスタリア様だ。間違いねぇ!」
「マスター!マスター!」
ディアレスの声がする。しかし、声の出せないまま……。
俺の意識は闇に沈んだ。




