101:第一聖女候補クローリア
夢を見ていた。
燃え盛る街には敵も味方もない。全てが炎に包まれている。
悲鳴も何も聞こえない。
全ては一瞬で蒸発したから。
せめて苦しまずに逝けたのなら……いや、それが何になるというのか?
自分が奪ってしまった命は、敵味方含めると1000や2000ではない。
夢を見ていた。
但し、これは実際の出来事だ。
完璧な聖女候補と呼ばれ、人として活動した15年目の初陣での出来事だ。
だから、もう二度とこの力が暴走しないようにこうする他になかった。
この塔に居る限りは大丈夫。『決まり事』が守ってくれる。
だから安心していいのよ?
クローリア。
「……さま?」
誰かの声で引き戻される現実。
「クローリア様?」
いつの間にか眠っていたようだった。夢が浅い眠りだった事実を伝える。
「何でしょうか?」
ドアの向こうに声を掛ける。いつも通りの聖女様対応で答えた。
「ファウ=バルド様がお見えになっております。お通ししても?」
一瞬、胸が高鳴った。
(これは期待?)
「ええ、お願いするわ」
あのレムスタリアの『呪い』を解呪した者。絶望的な第三聖女候補を救いあげた者。もしかしたらとの期待が込み上げる。
(過度な期待は禁物よ、クローリア)
そうは思っていても既に6年目。このまま塔の中で一生過ごすのではないかとの不安。一人が嫌で聖女を目指した。だからと言って、アノ再発を恐れて出る勇気もない。
これでは昔と何も変わらない……永い時を孤独に過ごした頃と。
(この状況を打破してくれる者が居るのなら、その者に全てを捧げてもいいわ。何故ならこの私を救ってくれる者こそ真の勇者様なのだから……そしてご主人さま。運命の人に間違いないのだわ)
そんな事を考えながら、第一聖女候補クローリアはファウ=バルドと対面するのであった。
『太陽塔』、その名の通り『太陽の聖女』の為の塔だ。しかし、レムスタリアの『フェイゼノルン邸』やリテリの『ルグルブ邸』とは意味合いが違ってくる。むしろ『厄災の聖女』の為の塔なのだ。
その内部は『決まり事』によって完全防火されているために、内部で事故が起こっても外には一切被害が出ない。良く言えば第一聖女候補の象徴。悪く言えば『隔離場所』だ。
「貴方がファウ=バルド様ですの?」
正に燃えるような真っ赤な髪と瞳の女性がファウに語り掛けた。髪は腰、軽いウェーブ。どちらかと言えば小柄でちゃんと食べてるのか心配になる。第一聖女候補と言われるからには貫禄があるのかと勝手に想像していた。
(ついリリスを見るような兄目線でみてしまった。流石に失礼だったか)
「?」
クローリアが少し首を傾げる。何か間違えたかしら……とでも思っていそうだ。
「……様は、いらないですよ。ファウ=バルドです。えーと、クローリア様とお呼びすれば?」
「クローリアで結構ですよ。レムスタリアの恩人に様付けで呼ばれてはあの子に叱られてしまいます」
そう言って微笑んだ。
「では、クローリアさん……で」
「はい、それで結構ですわ。早速ですが本題に入ってもよろしいですか?」
それはこちらも大歓迎だった。今の俺は肉体を得ているがディアレスが魔力で生み出した紛い物で活動限界がある。活動限界を超えると消滅する。『挿げ替え』がもう起こらない以上それはファウ=バルドにとって確実な死となる。
「ええ、お願いします」
勿論、答えは決まっていた。
「では、貴方からご覧になってわたし『太陽の聖女』はどう映りますか?」
(…………)
一瞬間を置く。
(さて、これは何かのテストか?試されているのか?)
そうであるならば、彼女の求める答えを出すのが正解だ。そもそも彼女は何故、俺を呼んだかだ。ソレは先程の発言が答えになっている。レムスタリアの解呪。それを行った俺に用があるなら答えは一つしかない。そしてそれは真実なのだからこう答えるしかなかった。
「呪われていますね……」
クローリアの反応は俺の予想に反していた。曇っていた表情が華やいだ。それは正に太陽の様に明るくなった。
「そ、そ、そ、それは、ほほほ」
コホン。コン。コン。
「それは本当ですか?本当ならば、残念な事です」
いやいや、全然残念な表情じゃないよね?それ。むしろ、何か期待に胸膨らむ乙女みたいになってますど?
「それで、どの様な呪いなのでしょうか?貴方ならば解呪可能なのでしょうか?」
身を乗り出してした。
勿論、可能だ。むしろ簡単な部類だ。クローリアの『呪い』とは自責の念。過去を悔やむあまりに自ら自分に課した加瀬だ。リリスと同等のモノと言えば分かり易いか。ステータスの高い人間には珍しくない。
だか、答えてはいけないような気がした。何故かは分からないが俺の本能が告げる。この娘はヤバイと。
俺はそんな本能に反抗した。第一聖女様だぞ?パーフェクトと呼ばれた女性だぞ?そんな女性がヤバイはずがない。
(それに嘘は良くない)
お前だけには言われたくないぞと自分からの突っ込みを流す。
「今すぐにでも可能ですよ」
その答えに。
「見つけた。運命の人……逃がしちゃ駄目よクローリア。飼ってもらえるわ」
……とのつぶやきが聞こえた気がした。
(カッテモラエル?)
いや、初対面の人にソレはないだろ?『買って貰える』『勝って貰える』どちらかだ。うん、ただどちらにせよ……。
(はい、ヤバイ人でした。一分前の俺に言ってやりたい。間抜けと!)
「な、何か言いました?」
「イイエ、何もっ!」
クローリアは満面の笑み。
(流石、マスター。何もしないうちからひとり嫁が増えましたね)
ディアレス。嫁とかじゃないからね。しかも増えたって、俺はまだ独身だから。
こうなればサッサと解呪して帰るのが一番だ。そう判断する。
「えーと。解呪しても?」
「その前に聞きたいっ!そしたらクローリアは敵も味方も焼き尽くすことが無くなる?」
(あ……)
うん、理解した。これがクローリアなんだ。
成人しているが15で引きこもった為に精神年齢が止まっている。聖女としての対応は出来るがそれ以外は子供なのだ。
多分俺は見てはいけないモノを見ている気がする。
(あーこれは、最後に消されるパターンですね。王国の見てはいけない秘密を知ったからには……ってお決まりの)
冗談に聞こえないよ?ディア。
だが、話に聞いていたクローリアの全てを焼き尽くす力と呪いは別物だ。何故なら、全てを焼き尽くしてしまったことによって自ら呪ったのだから。だからこそ、現状クローリアが求めているモノを理解した。
(ディア、『解析』。スキル中心で頼む。余計な事はいい)
(はい、マスター)
問題は何故全てを焼き尽くしてしまうかだ。単純に考えればターゲティングが機能していない。味方を味方と認識できないとかだが?
(完了。文字列、出しますか?)
(ああ、頼む)
そして俺は目を疑った。どう見てもパーフェクトと呼ばれた第一聖女候補の物とは思えなかったのだ。
王国のステータス第一主義の弊害とでも言うべきか?
(クローリアの解析で間違いないんだな?)
(私を疑うことはマスターの正気を疑う事ですよ)
分かるような、分からないような理屈だ。
戦技無し、戦魔無し。ただ気になる項目がある。
(幻想種……九尾の加護って……何?)
戦技 :『なし』
『なし』
『なし』
『なし』
戦魔 :『なし』
『なし』
『なし』
『なし』
技能 :聖女の聖域 核熱無効 フレア召喚
魔法 :召喚魔法
属性 :幻想種 依存
加護 :聖女の加護 九尾の加護
(『太陽の聖女』だよな?王国の第一聖女候補は『多重人格』や『魔女』どころか、人ですら無いってことか?いやいや、結論は早い。そう言った願望の属性持ちって線も考えられる。だが、『厄災の聖女』で考えるとパズルのピースが見事に合う)
(現実逃避するマスターも素敵ですっ!)
そして俺は、見なかったことにする。そう、何も見ていないのだから、トラブルには巻き込まれません。
頭を切り替えよう。他の項目についてだ。
(『召喚魔法』と『フレア召喚』)
(まさか……)
(そのまさかの様ですね?)
つまりクローリアは召喚魔法使いだ。
(フレア召喚って……八翼世界を焼く気か?)
四属性魔法すら使えない。ステータスの高さで補ってはいるが、普通は『やればできる子』扱いされかねないスキルの無さ。
見てはいけないものをまた見てしまった以上、何とかする以外ない。俺は腹を決めた。
「あー、クローリアさん?貴女の力と呪いの因果関係は無いんだ」
「え?うそ」
「あーー。だが心配しないでほしい。全てを焼き尽くしてしまう原因は分かった。少しだけ俺の言うことに従ってくれないか?そうすれば、解決できると思うよ」
一瞬陰ったクローリアの顔に再び笑顔が戻る。
「やっぱり、運命の人。私の勇者様っ!飼ってっ!」
(うん、それは違う。そして、最後は聞かなかったことにする)
「先ず約束して欲しいのは『フレア召喚』を使用しないこと。これを使わないだけで敵も味方も焼き尽くすことは無くなる」
「うん、約束するっ!」
即答だった。
元が召喚魔法が解析に出るくらいだ。つまり特化しているのだろう。ならばまずは下級の精霊から呼び出して、徐々にランクを上げていけば『太陽の聖女』と呼ばれなくともいい所まではいくのではないか。
もちろん、魔法の使えない俺が召喚魔法のレクチャーが可能だったのはディアレスが居たからだ。
(本当に性格を除けば完璧だな)
そして、ファウの期待は良い意味でも裏切られた。
呼び出した下級精霊の威力が桁違いなのだ。下級が下級で無くなっている。そして目標のターゲティングが可能となる。それはそうだ、元々出来ていない訳ではなかったのだ。フレアなんてものを召喚していたらターゲットしてもしなくても街ひとつ焼き尽くす。あれは星をも焼き尽くす核熱だ。
もうこれでいいのでは?と思えてきた。十分『聖女候補』としてやっていける。それだけの戦闘火力はある。
「まぁ、後は精霊に慣れていけばいいです。四属性は精霊で補えますから」
そう言いながら俺は帰る準備を始める。長居は無用。
「お帰りですか?」
聖女様対応だった。表情は少し寂しげに見えなくもない。第一印象から随分とかけ離れてしまったが、力になれたのならそれはそれで良かった。
「お礼はどうしたら?」
「いや、いらないですよ」
「それでは私の気が済みません。そうですね……では近い内にこちらの手順に則ったお礼で。それで、よろしいですか?ファウ=バルドさま?」
「ん?ああ、構わないです。了解ですよ、クローリアさん」
多分普通の対応だったはずだ。そして俺はこの対応を直ぐに後悔することになる。
「了承、契約、いただきました」
その声は俺には届いていなかった。そして帰り道にて大切なことを思い出す。
「解呪……してない……」




