第93話 復讐の使者
「…………あの頭だけの存在がエンハンスですの?」
自室でエリーは悪魔達に問いかける。
「ヴィジャの左目で見てたかァ。話しが早ぇなァ。
エンハンスは金髪の魂を取り込んでるゥ。金髪の魂を開放させて殺すゥ。これでどうだァ?」
「……魂を開放させたら……ひょっとしてジェシカは!」
都合の良い妄想を口に出そうとするが白髪の青年。ダーク.ノヴァに止められる。
「死んだら生き返らない。当たり前だろ。
ただ戦鬼の魂はエンハンスに咀嚼し続けられている。
仮に奴が死んでも魂は奴に咀嚼され続けられる。」
ダークの話しを噛み砕くように、誤解を解きつつトルコマンが少しずつエリーに伝える。
「……。ダーク。エンハンスと戦鬼は関係ねぇよォ。
マスター。人間は供養だとか仇討ちを重んじるのは良く知ってるゥ。
ただそれをするなら、お前の心。復讐心を満たせェ。
マスターがダークに力を貸してやれェ。
ダークに殺せさせれば魂帰……魂を天界に送るぐらいはしてやれるゥ。」
「エリー次第だぞぉ〜?エンハンスごと殺すなら別に
適当に血を流せ。それで十分!
アイツ…ドヤ顔してたけど、何処からあそこ迄の自信が来るのかオレには理解できないね!
その……戦鬼じゃないの?余裕があれば
誰かの魂はオレが開放してやるから。
そうだな……+2割……は言い過ぎだし無理だろ〜から
1割でいいだろ?それならそこまで大変じゃないし。
魅せてみろよ?シングルハートのお気に入り。
……ってか戦鬼って言ってなかった?聞き違い?
…………あ!子孫とかそんなか!?
時間がたつのは早いよな〜。戦鬼なんて10秒でーーーー。」
「……ジェシカ。」
喋り続けるダークを無視しながら呟くのは今は亡き存在。
あの子は望んでいないかも知れない。
最後の言葉は全て周りへの心配事だった。
自分の事は『幸せだった』の一言だけ。
短剣を握る。昔その短剣で手首を傷つけ即座に意識を失った。
あの痛みを忘れてはいない。心の痛みを覚えている。
あの時は力がなかったから自分を誤魔化せた。
正当化出来た。
しかし今は
「……仮に。あの時……わたくしがジェシカの側についていたらあの子はどうなってたと思いますの?」
もしも……もしも自分の選択のせいで
それは聞くべき事では無い。聞いてはならない。
しかし聞かなければ進まない。エリーヴァイスは止まる事などしない。どのような答えが返ってこようとも。
「……マスターが死ななかったのは間違いねぇなァ。
金髪は……どうだかなァ?仮にその人形を使ってたら
悪魔の下僕とか雑魚だぞォ?
俺様も下僕とか言う雑魚にあの金髪が殺られたのは
にわかに信じ難いィ。」
「わかりましたわ。」
短剣をテーブルに置く。エリー.ヴァイスがジェシカ.ドーソンを見殺しにした。それがわかれば十分だ。
戸棚から小指程の小さな金属を取り出す。
先端は尖っているが凶器ではない。これを突き刺すのは
どれ程の力でめり込ませなければならないのか?
「弾丸。これはジェシカの言っていた弾丸ですのよね?」
答えてくれる者はいない。左手をテーブルに置き
sorryと刻まれた弾丸を手めがけて突き刺す。
一切の容赦も躊躇いも後悔も懺悔もありはしない。
あるのは血液とともに流れる得体の知れない……
ダークはエリーの血液を手に付着させ顔に色をつける。
滴り落ちる感情を全てを食らいつし。
懐から表情の一切を悟らせない仮面を取り出し
身につける。
左手には1.5Mある大型の悪鬼羅刹の魔剣
右手には千ページをゆうに越える分厚い魔導書。
「なるほどなるほどっと。外れだな。」
ダークの表情はわからないが当てが外れた。
そのような言動が見て取れる。
「無理そうかァ?んな訳ねぇよだろォ?」
トルコマンは満足げに笑みを送る。
ダークは適当なページを開き
「ああ。予想が外れた。どうやって見つけて来たんだ?
たまたま生まれるものかね?
エリー。お前はこの件が終わったら身の振り方を考えとけよ。
何年残ってるか知らないけど寿命で死ぬのは勿体無い。
……とりあえずはエンハンス……5位を殺すから。
代わりにエリーが座れば?上位は全員納得するだろ?
目の前で魅させられてる。ん?どうやって決めてたっけ?多数決?んな訳ないか。そして
どうでもいいか。世界の理次第だ。」
ダークは闇に包まれていく。一瞬の暗黒が部屋内を包み込み。ダークは姿を消した。
エリーは真っ黒に塗りつぶされた人差し指の指輪を見つめながら
「ジェシカの魂だけでも……トルコマン。ダークは大丈夫なんですの?」
「何を心配しているのかわからねぇよォ。
ダークはアホだが殺る時は殺る。俺様達はゆっくり見物してようぜェ。巻き込まれてもゴメンだしなァ!」
ヴィジャは自身の片目を潰しテーブルに添える。
血霧が形を創り何処かの映像が映し出される。
4人だ。女性一人。大男。銀髪の男、亜人の女の子。
その血霧の映像を見つめている。
映像と亜人の女性リアと目が合う。
「ん?行ってねえのかよォ!!」
トルコマンが後ろを振り返ると
仮面の白髪の男。
剣を腰に据え照れるように頭を掻きながら
「いやオレも戻りたくなかったよ?格好つかないじゃん。
『世界の理次第だ。』……ここで退場がベストだったんだよ!
でもトルコ君のツンデレを見れたからそれはそれでプライスレス!オレをそんなに評価してくれてたなんて……
涙腺を攻め倒すのはヤメロー!仮面つけてるんだぞ!?
今取ったら……涙を見せたら……
それこそ格好つかないじゃんか!」
ヴイジャが小声でエリーに話しかける。
「……マスターエリー。ダークが仮面を取ったら顔を見るな。奴は阿呆だ。失念する可能性が否定できん。
万一の時は我がマスターエリーの視界を占有する。」
「ヴイジャく〜ん。わざとオレに聴こえるように言ってない?
オレは聴力人間並だよ?エリーに心波送って伝えればいいのに今のはおかしくない?全く……オレをなんだと思ってるんだよ。もう行くよ!エンハンス殺してくる!」
「……ダーク。貴方、何かあったから
戻って来たんじゃありませんの?」
踵を返そうとしたダークはエリーの言葉に足を止め。
「そうだったよ。流石はエリーだ。
アイツに抱かせたい感情はあるか?
エリーの魔力に対する復讐者からのささやかな礼だ。」
「……感情。」
そんなものは決まっている。
「ダーク……ダーク.ノヴァ!
ジェシカを殺した奴等には何も必要ありませんわ!絶対にジェシカの魂を開放させなさい!」
エリーヴァイスはダークノヴァに指令を下す。




