★ 第82話 第十位 Crescent Nightmare
クレッセントを乗せた馬車は山奥へ入り
一ツの集落にたどり着きやっと進む事を止めた。
日は傾き夕日が今にも沈もうとしていた。
「どうだ?チビィのもいるが、いくらになる?」
御者がさっそく村人に商談を持ちかける。
村人たちが鍵のかかった馬車を覗き込むと。
「……全部で3万ルドン。」
御者の二人から笑みが溢れる。
これが人身売買業者なら一人5千ルドン。
子供が二人もいるから4千ルドンもあり得た。
それが3万。全うな働きでは1年もかかる額を
僅か1日で手にした。
「その額で満足したなら……金を渡す。こちらに来い」
「へいへい。ただいま!」
下手を揉みながら村人に付いていく御者の二人。
ここに至り残りの3人も連れ去られた事に気づく。
おめでたい奴等だとクレッセントは少々呆れる。
「悪魔教。誰付の下僕なのかな?」
悪魔を崇拝する人種。人間と亜人を差別する事なく受け入れるが、悪魔を善とし悪魔を第一に考える異端宗教。
様々に分裂しており10の悪魔教によって。
様々な事柄に取り組んでいる。
簡易な錠前が開き馬車の扉が開き
「一人ずつ出ろ。騒げば腕は切り落とす。
エンハンス様は腕は要らないと仰られた。」
「あぁ……生首か。」
クレッセントは鼻で息をならし立ち上がる。
同時に寄りかかっていた幼女がコテリと頭をぶつけ。
「ん?あれ?着いたの?おじさん達どこだろ?
アンは帰ったって伝えてくれる?」
1番に馬車から降りたところを村人に
連れて行かれた。
「あぁ〜。日が沈んでる………………。サーベラス。
お願いしていいの?………。ありがとう!」
状況の掴めない幼女は独り言を呟きながら呑気に歩き去り。
「ーーーーーー 。」
村人の声が上がり
「 アンのお友達 」
そこから先の光景は連れ去った村人しかわからない。
………………
「次だ。出ろ。」
これから先愉快な光景などなにも起きない。
別にコイツ等に興味はないが生首には恨みがある。
ワタシの事を『銀チビ』って言った。
到底許される事では無い。
しかも2回…………2回も『銀チビ』って言った!!
名前をちゃんと呼ばない奴は罰せられる。
ワタシが下す。愚悪魔とデカブツだってワタシの邪魔をした。
ワタシも邪魔してやる。アイツ等が謝るまで。
沈みかけの夕日に目を向け
「……また怒らないかな?………………うん!」
太陽も許してくれる。ワタシを愛してくれる。
今からはワタシだけを愛してくれる。
夜はワタシの時間。ワタシと貴方だけの時間。
「 さぁ 今夜は存分に愛し合いましょう 」
クレッセントは自ら村の最奥へと連れて行かれた。
…………
……………………
「ああぁ…………いぁあ……いィ……。」
御者の一人が切り刻まれていた。
早々に両腕を破壊され。鼻を削ぎ落とされ。
足を付け根から切断され。
左目をくり抜かれて。
「エンハンス様如何ですか?お眼鏡に叶いますでしょうか?」
分厚い本を持った男性がそれぞれを掲げながら。
虚空に向けて頭を垂れる。
掲げだ足と鼻。左目を桶に捨て去り。
「愚物がぁ!!処理しておきなさい!」
男の一声に応じるように周りの村人は素手で御者の頭を握り潰す。
「次の幸福者は貴方!貴方は第五位様の肉体になれるかもしれないのです!……震えてますね。理解できます。理解できます。理解してます!
この機会は選ばれた人間だけが与えられるのですよ。
貴方は選ばれた。その幸福に震えることは恥ずかしくない。」
「たたた助けて。誰にも言いませんから。」
残された御者は震えながらも命の懇願を男にする。
「敬虔な者よ。さぁエンハンス様は左目と両足。
鼻を欲してらっしゃる。貴方が捧げるのです!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌だ!!」
叫びなど届かない。全て闇に掻き消され。
御者の命は簡単に散らされる。
………………
「また愚物かぁ!!エンハンス様が許しても吾輩は許してはやらぬぞ!……次。もう最後ですか?
女性の子供。期待薄ですね。
……ん?貴方はこちら側ですか?何位の所属ですか?」
本を片手に持った男がクレッセントの異質さを看破まではいかなくとも見抜く。
「第十位。」
一言。クレッセントは己の順位を告げる。
「十位……最悪の悪魔に仕えておいでですね。交流見学というやつでしょうか?
宜しい。存分に見ておいきなさい!」
男は本を開きある一文を指でなぞりながら
「後は任せます。我輩はエンハンス様の為に新たに補充に行きますので
この子供に第五位様の素晴らしさを
見せつけてやりなさい。」
頭に血管を浮かべ……破裂させ
男は萎むように死んでしまった。
液状化させ消え去るのに自身の肉体全て使う愚か者。
新しい肉体があるのだろうが、そうまでして悪魔の真似事がしたいのかと…
クレッセントは嘲笑う
「良かった 一人だけ 生かすつもり だったけど、
手 間がはぶけた。……手間が はぶけた。」
ゆっくりと慎重に喋っていたつもりでも小さな間違いに多少顔を赤らめつつ
銀の悪魔は人差し指を月に掲げ
クルリと小さな円を描く。
「こんな場所なら一周で十分。
ワタシの悪口を言った後悔をしろ 生首!」
月の光が悪魔の指に呼応する。
キラリと月から何かが零れ落ち
「 月雫 」
こぼれ落ちた光は徐々に大きく……近付いてくる。
高熱を帯び燃え盛りながら悪魔の円陣に向けて一直線に向かい。
誰もが成すすべも無く衝突した。
空よりも遥かに天。天上より降り注いだ災厄。
直径10メートルの隕石が無慈悲に集落の中心に炸裂する。
圧倒的なエネルギー量は灼熱の雨を降らせ生物という生物全てを蒸発させ霧散させ。魂を天に還す。
残ったのは大きなクレーターと
「あの子居なかった。あの子だけは
助けてあげようと思ってたのに……」
月光を一身に浴びた悪魔の少女。




