第7話 あり得ない少女
アサミが怪物達にユラユラと揺れながら近づく
ユラユラとフラフラと
「だ……ダメよ!アサミちゃん!」
シェリルはアサミを庇うように覆い被さり
「おぉ〜!?前が見えない」
こんな事をしても無駄だと解っている。
ただ順番が決まるだけだ。
私の後にこの子が食われる。その順番が……
それでも私は……この子を見殺しには出来ない。
殺すなら……私から……私だけを…………神様……
アサミはシェリルに抱かれてジタバタ藻掻いている
「シェリルちゃん……後でお願い聞いてくれる?」
「うん!大丈夫だから!お姉さんが守るからね!」
噛み合わない会話を挟みつつ
かろうじて出した左手をクルクル廻す
人差し指をクルクル クルクル
螺旋を描く
グルグル グルグル
螺旋を刻む
グニャ
アサミの小さな声。間近に居た
シェリルには勿論聴こえた
「飛んじゃえ」
ズズズズドオォォォオン
凄まじい衝撃音が洞窟内で反響する
大鬼が吹き飛ばされたのだ
爆発する暴風に巻き込まれて
洞窟内に練り込まれた大鬼は原型も保たずに
断末魔1つあげずに、緑色の体液を壁から垂れ流す
洞窟が軋みをあげる。しかし決して崩落などしない。
この少女が洞窟内にいるのだ。あり得ない
「…………え?」
シェリルが慌てて振り向き轟音を確認する
と同時に
抱擁から開放されたアサミがピョンと飛び出し
洞窟内の土塊を
軽く踏み潰す
「 大地押潰〜! 」
ズズズ ズドォォン
グチャア
轟音と共に不快な音を奏で
怪物達が突如天井からの大岩に押し潰される
「あ……あり得ない……」
シェリルの驚きの声。あり得ない。
少女が扱ったのは神術だ。あり得ないのは威力。
キレイに怪物だけを押し潰し、洞窟は未だ健在
あり得ないのは詠唱。少女は何も祈っていない。
心の中で呟いてすらいない。
過程を省略し結果だけを引き出している。
そのような怠惰を神が許す訳がない。
力を貸すはずが無かった……
これは……なんの術なのだろうか……?
大岩はゆっくりと大地にのめり込んで
洞窟と一体化してしまった
「ァ……アサミちゃん……あなたいったい……」
驚愕するシェリルを他所に
アサミはモジモジと上目遣いで見つめながら
「シェリルちゃん…………おっぱい ちょうだい」
「…………え?なに!?」
少女の言った言葉が瞬時には理解出来なかった。
何?おっぱい?この状況で?
「あの……アサミちゃん。
お姉さん。おっぱいは出ないのよ」
「でも…『うん。大丈夫だから』って言ってたよ?」
「いや……それはアサミちゃんを守るって意味……で……」
シェリルは気付く。アサミの眼差しに
汚れを知らない無垢な眼差し
何故洞窟内が暗いのに彼女だけは良く見えるのか?
解らない。解るのは…………
断れば…………何か、良くない事が起きる
シェリルは軽くため息を吐き
「ハァ……母乳は出ないけど……それでもいい?」
「うん!」少女は大きな声で頷く
シェリルは服をはだけ豊満な胸を露わにした。
日々己を磨き、手にした自慢の身体。
いつか大事な殿方に魅せる為に
座り込むシェリルに抱き着き、左胸に口を当てる
別に良いか……もう危険は無さそうだし。
誰が見ている訳でもない。
何より私は、この子に命を救われたのだ。
……そもそも私がアサミちゃんを連れて来なければ……
ごめんね……ごめんね……危ない目にあわせて……
私が嫉妬したせいで……ごめんね。
「………………」
トクン トクン
聴こえてくる……この子の鼓動
伝わってくる……この子の想い
アサミちゃんは母乳が欲しいのではない……
おっぱいが欲しいのではない……
私に与えてくれている。とても大事なモノを
…………
……………………
アサミが口を離し
「おねぇちゃんのおっぱいみたいに
とっても美味しかったです!」
感謝の気持ちを口にする
「アサミちゃん……他所で言わないでね。
特に魔狩人にはこの事を言わないで。」
「うん!」
……魔狩人に知られたら軽蔑されてしまう。
少女を危険な目にあわせたのは、
事実だから告げ口されても構わない。 しかし
私が10歳程の子供に、出ない母乳を与えようとした。
これがマズい。色々と……倫理的に……
…………
…………………………
その後洞窟内で隠れていた人達を救出し
私は少女の手を握りながら斡旋所へ帰還した。
何故洞窟内に人がいたのか?
その人達は怪我をせずに洞窟奥で隅で震えていた。
たまたま怪物達に見つからなかったのか?
……報告書を作る必要がある
「……まぁ。考えても仕方ないわね。」
その後の仕事はまた別の人達の仕事だ。
私にはもう関係ない。
流石に魔狩人はまだ戻って来てないだろう。
それまでこの子は私が責任をもって面倒を見よう
「アサミちゃん!食べたい物ある?
後でお姉さんが作ってあげる」
その1言に少女は満面の笑みを浮かべ
「あるある〜!あたしアレが飲みたい!」
握ッた手をブンブン振りながら
シェリルに期待の眼差しを向ける
「…………おっぱいはダメよ。
他の人も帰ってきてるかも知れないし」
「違うよ〜。ゴンちゃんが飲みたがってる!」
噛み合わない会話を交えつつ
2人は大きな家へと戻る