表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOD HAND  作者: ホムポム
第5章
69/184

第69話 許されざる者


思えば私はいつも怪我をしている。

いつからだろうか?少し前は怪我をしないように

傷つかないようにすごして来た筈だ。


私は変わったのか?多分そうだ。

私は変われた。あの時……アカリさんのおかげで私の中の何かが変わった。その代償が死にかけるというのなら……


       安い物だ。



「……目が覚めたか?まだ動かない方が良い。」


意識の覚醒と共に背を向けた隻腕の男がリアを気遣う。

張り詰められた空気。男は彼女が目覚めるまで。

ずっと背を向け顔を見る事なく守り続けた。



「貴方……多分ですけど、私を治療してくれた人ですよね?

ありがとうございます。」


リアに微かに残る記憶。片腕で起用に傷薬を塗り、

包帯を巻き。片腕を固定し。

力強く抱いて守ってくれた人。


「また眠ると良い。腹が減ったのなら用意させよう。」

隻腕の男はリアを見ずにブッキラ棒に答える。


リアは大きなベッドから起き上がり。

右腕に鈍い痛みが走る。お腹、身体の節々も痛い。

軽く熱も出ている。


……《停滞》が使用されている!?

何故!?どうやって使われた!?

本人ですら使えないのに……まさか先生?


先生が近くに……そんな筈はない。イーディス先生でも

他人の《停滞》を、無理矢理使用するなんて無理だ。

追々考えるとしよう。絶対に答えが出ないと思うが。



今は……


「あの……お礼を言いたいので顔を見せてくれませんか?

私は見ての通りなので人間に優しくされるのは珍しくて……」

リアは自分の獣の耳を左手で撫でる。

ピョコピョコ動き。耳だけは何時も元気が良い。


隻腕の男はゆっくりとリアに向き直り

「久しぶりだな。リア……リア.カーティス殿。」

瞳を閉じ頭を深々と下げる。


これから起こりうる事を全て受け止めるかのように。



「ドグマさ……ドグマ.マグナス!!」

後悔した。自分を治療した人間が寄りにも寄って

この男とは……これなら死んだ方がマシだった!



「失礼します。」

許可も得ずに扉が開かれる。兵士が三人。

目の覚めた亜人を睨みつけながら


「亜人の声が聴こえましたので、

目覚め次第お連れせよと。王女の命令です。

こちらにお引き渡し下さい。」


二人が隻腕の男を囲み、

一人がリアの腕を持とうと手を伸ばす。


「俺も言った筈だぞ?お嬢様に敵意を抱いた

お前達は信用出来ん。エリザベス王女を直接連れて来い。」


ただの雇われ傭兵がとんでもない命令を降す。

しかし兵士達は刻まれている。

隻腕の男がお嬢様と呼んだ者に対しての無礼の数々。



「失礼しました……。エリザベス王女には伝えますが……

こちらの意も汲んでいただきたい。」


兵士達は部屋を後にする。王女に伝えに。

しかし王女は来るだろうか?プライド、品位に関わる。

絶対に来ない。断言出来る。

それでも、兵士に出来る事は王女に伝えるか……

無理矢理連れ去り……王女に殺されるか……

それ以前に隻腕の男…もしくは金髪の少女に殺されるか。


兵士達が部屋を出て行くと再び隻腕の男は

窓を向き亜人の女性に背を向ける。



「……私を助けたつもりですか?」

憎しみが喉を通して声となる。


「……。」

隻腕の男は答えない。ただ背中で受け止める。


「……エリスさんも助けてほしかった筈だ。

お前を恨んでいる筈だ」


「ッ…………。」

僅かな動揺が見られた。この男は後悔してるのか?

だからこそ許せない。


男はリアの瞳を真剣に見つめ事実を

「……それは違う。エリス殿は俺を」

述べる事も許されず。亜人の怒りを一身に受ける。



「お前がエリスさんの名を口にするな!

エリスさんの葬儀にも来なかったお前が!

お前だけが良い思いをした!お前が奪ったんだ!

あれだけエリスさんに世話になっておいて……

返せ!私の……私の(エリス)さんを返せ!!」


リアは鼻息を荒げドグマの服に掴みかかる。

身長が足りないのか胸倉を掴む事は出来ず

胴の部分を掴み男を見上げる情けない姿になってしまった。


「……あの時の俺は勇気がなかった。本当に済まない。」


「うっ………。あ…あや……謝るな!あやま……うぅ〜〜」

リアは掴んだ服を手放し泣き崩れる。



エリスさんが死んで何度も考えた。

どうすれば良いのか。皆答えを出したのに。

私だけが答えを見つけられなかった。


エリスさんの弟は逃げ出した。それも答えだ。

このままだと火の粉が自身を焼き尽くすのは時間の問題だった。


     きっと正解の1つだ


イーディス先生は認めなかった。

認めない事で前を向き神の法ではなく

悪魔の法に頼る事を選んだ。


    きっと正解の1つだ。



私だけが選ばなかった。何をしたいのか。

無理矢理心の片隅に押し込めた。嫌な事は見ない。

本当は選びたかった。皆が救われない道を。

誰も喜ばない道を……ひたすら隠し続けた。


機会なんてある訳がない。そのうち私は死ぬと思っていたからだ。


    正解の筈だと思った。



でも正解の筈がない。ヴァイス国王の言葉を聞いて。

ドグマ.マグナスの、謝罪を聴いて。

心の悪魔が顔を出す。


「許さない……」


目的は限定的に絞る。


エリスさんは私を迎えてくれる。

生きたいように生きた私を抱きしめてくれる。





忘れていた感情が叫びを上げる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ