第68話 互いの想い
「………………。」
「………。かなり酷いですね。
右腕は1ヶ月は動かさない方がいいでしょう。」
森で倒れている亜人の女性リアと
意識を失ったエリザベス王女を発見した
金髪の少女ジェシカと隻腕の男ドグマ。
王女は命に別状は無いと判断しリアの体を調べる。
怪我の状態を隅々まで。
それを訝しげな目で見つめるジェシカ。
「………………ねぇ。ドグマ」
ジェシカは耐えきれず、ついに聞き出す。
「なんでしょうか?この治療薬はお使いしても
よろしいのでしょうか?」
一旦リアから目を離しジェシカに向き直る。
「それは勿論いいわよ。それより、
その布……ケモ耳が裸だからあたしが着せてあげたのよ。
」
「そうでしたか。しかしこの傷だと雑菌が既に……
見た所かなりの汚布……
これなら裸のほうがいくらかマシです。」
リアの隣にはボロ布が畳まれもせずに放置させられていた。
男が脱がせたのだ。
隻腕の男は少女の真意には気づかない。
男はその手の事に興味がなかった。
ジェシカは闇夜でもわかるほど顔を赤らめつつ、
「アナタは……レディの裸をみてるのよ!?マジマジと!
そのアタリはどう思ってるの!!」
男は理解する
「ご安心を……この程度で心揺さぶられる私ではございません。
お心遣い。痛み入ります。」
真意を気付けぬままに誤解してしまう
「……もういいわよ。好きにしなさい。」
少女は生首を持ち上げ衛兵のそばに置き
「悪い事しちゃったわね……せめて安らかに送ってあげるわ」
指を広げながらマジマジと考える。答えはわからない。
「ドグマ!一番良い埋葬ってどの神に言えばいいの?」
男は傷薬と薬草を混ぜ合わせながら
「……大地と生命に火神……後は……
転生の意味を込めるなら器もでしょうか?」
「はいはい……大地……生命……火に……器……と
この男を最大限に暖かく迎えてあげて。」
少女の言葉に神々が応える。
衛兵の身体は途端に燃え盛り、煙となり風に運ばれ天へと登る。
骨は大地と一体となり……衛兵は完全に死んだ。
………………
…………………………
「まだ?こっちは終わったわよ。」
衛兵を天に送って10分後。少女は男に声をかける。
「後は……お待たせしました。終わりましたので……
お嬢様?そういったお遊びは流石に不謹慎かと……」
「ハァ!?何言ってるのよ!?
暇だったから、しょうがないじゃないの!
あたし本当ならもう寝てるんだからね!」
ドグマはエリザベス王女に歩み寄り
包帯を外していく。全身これでもかと巻かれた包帯。
東邦のミイラという死者蘇生法らしいが……
生きている者にそれを施すのは流石と言うべきか。
最も包帯をいくら巻こうがミイラは造れない。
少女もそれは理解している。
そして二人はミイラの作り方を知っている。
隻腕の男は自分の服をリアに着せて
「お嬢様……これからどうなされますか?
そろそろこの場にも兵士が来ます。
逃げるのならお供させていただきますが……」
これからについてを少女に確認をとる。
「……あたしはマリーってのに用事があったのよ。
レッグ.ヴァイスにもいいたい事が出来たし、
ケモ耳もほっとけないわね。……でもどうなの?
ケモ耳は悪い事をしたの?あたしは思わない。
だから逃げる選択肢はないわ。」
少女の辺り一体の空気が冷たくなっていく。
それは一瞬だけ。気のせいと錯覚するほどの時間。
「責任は取らせるわよ。」
………………
ドグマがエリザベスを背負いリアを抱きかかえ
「ん?……。」
「アナタもわかる?ケモ耳って見た目より重いのよね。
あたしも引きづる時にビックリしたわ。」
「えぇ。32.5キロだと推測しましたが、
43キロありますね。全体の肉の付き方から言って
かなり不自然ですが。」
「ホント。見た目はガリガリなのに……。
あぁ。多分お腹に赤ちゃんがいるのね!
不自然な重さはお腹だもの!なんだかめでたいわね!」
「私は何も言えません。」
ジェシカが手をパンパンと叩きながら上機嫌に微笑む。
ドグマはそれに頷くだけ。
ドグマは生粋の武人。服や鎧を着ていようが一目で身長と体重の把握など容易いと自負していたが
裸体を目にしてまさか見誤るとは。
そして赤子などあり得ない。
まず腹が膨れていない。
獣亜人の赤子は2000グラム以下が普通。
プラス1万グラムなど聞いたことがない。
ドグマは知っている。
ジェシカは赤子が出来る仕組みを知らない。
好きな人が出来たら神が授けてくれると本気で信じてる。
だから神を軽視する自分には赤子は出来ないとも思っている。
それを教える役は自分ではない。
誰かがいずれ教えるだろう。
王宮へと戻る。すぐにに王女は他の兵に引き渡したが
「ドグマ様!そちらの賊も捕えるとは流石です!
手錠を付けますのでこちらにお引き渡しください!」
エリザベス王女に『亜人は客人として迎えろ』と命じられた。
それは聞くしかないだろう。
しかし金髪の少女は別だ。
捕らえた後存分に痛めつけて牢屋にブチ込む。
ドグマが殺気を放とうとするも片手で少女が制する。
「いいわよアナタ達。大人しくしてあげるわ」
自ら手足を差し出し両手に鋼鉄を繋がれる。
「最後の忠告よ……あたしは殺したくないし
アナタ達も死にたくなかったらどうしたら良いのか
自分達で考えなさい。殺したくないだけで……」
少女は繋がれたままポケットに手をやり引き摺り出す。
L字に折れ曲がったかのような精巧な小さな鉄の筒を。筒を正面門に向けて人差し指を引き絞る。
閃光と共に炸裂音が闇夜に響く。
一連の行動を隻腕の男以外認識出来ていなかった。
あまりにも速すぎて…人間の限界を超えた速度。
少女は自ら王宮内へと足を踏み入れる。
賊を牢屋に入れる為に、
兵士が何人もついていなければならない。
しかし兵士達はそれどころではなかった。
高さ12メートル横幅10メートル厚さ30センチ。
ヴァイス王国の一枚岩を象徴する鉄の正門。
建国50年の記念に作られたらしいが、
一度として開かれる事はついになかった。
閃光が収まると国の象徴する正門は崩壊していた。
両手を縛る錠は崩れ落ち少女は優雅に歩きながら告げる。
誰に向けて……全てに向けて
「 殺せない訳じゃないのよ 」