第5話 斡旋所の休息
ギギィィイ 耳障りな扉の開閉音と共に
男と少女が大きな一軒家に入る
男は椅子に腰掛けテーブルに伏せ
「あー……疲れた」
少女も向かいに座り
「おぉ……誰かのお家なの?」
キョロキョロと広間を見渡す
「ここが斡旋所だよ。表に出せない仕事を
扱ってるから場所も、辺ぴな所にあるんだ。
この斡旋所も多分二週間後には
移動するんじゃないのか?」
「魔狩人!早かったわね。」
奥から、長い髪を揺らしながら
やけに胸を強調した服を着た女性が近づいて来る
「シェリルか……報告はシェリルで問題なかったか?」
「えぇ!その為に私が待ってたのよ!」
ニコニコしながら魔狩人の隣に腰を下ろす
「一応纏めてきた。不備や質問あったら言ってくれ」
男は1枚の紙をシェリルと呼ばれる女性に手渡す
「んー。あれ?誰も殺してないの?珍しいわね?」
胸を男に押し当てようとしながら質問するが
スッ と男が立ち上がり
「アサミ。ミルクぐらいなら多分あるぞ。飲むか?」
「あたしミルク大好き!」
少女も立ち上がり魔狩人に付いて行く
シェリルはムッとしながらも
「魔狩人さーん。仕事の質問なんですけどー?」
男は女性の方を見ずに
「聞いてるよ。小さい子……この子が居たから
殺すのは止めといた。子供に殺人現場なんて
見せたくないからな」
男は淡々と事実を述べる
「……その子は?拾ったの?」
「あたしはアサミ!
マー君が100万ルドンであたしを買ったの!」
少女は元気よく事実を述べる
シェリルが椅子から立ち上がり後ずさる
「魔狩人……貴方…………
道理で私の色気が通じない訳だわ。
……胸を小さくするなんて無理よ!
それに100万って……どれだけ好きなのよ!?」
ダンッ 1人テーブルを叩きながら
男を睨みつける。
ミルクをグラスに注ぎながら
「シェリル……誤解がある。
100万ルドンはジョークだ。俺はアサミを……か……」
魔狩人の言葉が不意に途切れる。
ミルクを受け取ったアサミが見ている。
「……アサミ……残り99万9千ルドンだ。
そんな訳で……割の良い仕事をくれ」
魔狩人がアサミに目をやるとニコニコと微笑んでいた
アサミは椅子に改めて腰掛け
手を合わせて……お辞儀を済ませ
ゴキュ ゴキュ ゴキュ
「プフゥ〜!おねぇちゃんの
おっぱいのほうが美味しいです!」
なんとも良くわからない感想を洩らし
「…………ねぇ。アサミ…ちゃんは幾つなの?」
シェリルが訝しげな瞳で少女の年齢を聞こうとする
「ん〜?2歳になったばかりだよ!」
アサミはシェリルにVサインで答える
「……そ、そうなの!キチンと喋れてお利口ねー」
そのまま立ち上がり魔狩人を奥まで引っ張り込む
………………
「魔狩人!あの子おかしいわよ?」
「ああおかしい。俺もそう思う。」
確かにおかしい。どう見ても10歳未満だ。
それを2歳……あり得ない。
母乳を飲む為の嘘なのか解らないが
その見た目で2歳と答える精神も、あり得ない
確かにおかしい。少女の体力では5日……
最悪一週間はかかると魔狩人は踏んでいた
それをしっかり夜は休憩して2日。
明らかに子供の体力を凌駕していた
「……にしても、久しぶりにシェリルと意見があったな」
男の言葉にシェリルは顔を赤らめ
「そ……そう?私は何時も貴方と意見があってるわよ!
そそそ……そうだ!これを機に一緒に仕事に行かない?」
シェリルの提案に男は頷く
「それは良いな!二人の方が早く済む。
報酬は…………」
シェリルは心ここにあらずだった。
今まで何度誘おうと乗って来なかった男が……
しかしその心を引き戻す1言
「10対0だ!俺が10貰う」
「…………なんで?貴方お金に執着なかったじゃない?」
「なんでって……俺はアサミに早く
金を支払いたいんだ。別に一人でも仕事は出来るから
嫌なら無理して来なくていいぞ。」
そう言って魔狩人は机に置かれた
書類に目を通し始める
「ぬぬぬ……ぬぬ」
残されたシェリルは奥歯を噛み締める
勿論10対0でも構わない。
けれどそれを了承すればシェリルは
尻軽女として扱われてしまう
彼女のプライドに関わる
せめて…………9対1なら……そう思い
男に声をかけようとしたが、
「俺この仕事行ってくるから……多分1〜2日だ。
アサミは…………危ないから此処に居てくれ」
「……うん。」
そう。危ない。アサミを連れて行くなど危険過ぎる。
魔狩人は僅かな期間でそれを理解していた。
残されたシェリルとアサミ
「……ねぇアサミちゃん。
良かったらお姉さんと仕事に行かない?」
アサミはピョンと立ち上がり
「行く行く〜!アサミ。外大好き〜!」
アサミの手を握り2人家を出る
シェリルは知らないのだ。
少女を連れて行くことは危険という事を