第4話 お別れの仮宿
朝日が昇り始める。日の光は全てを
平等に見守ってくれる
獣が目覚め鳥類が目覚め……当然。人間も目覚める
「おっはよ〜!マー君!」
アサミが魔狩人の布団を剥ぎ取る
「……もう朝……まだ夜明けか……もう少し寝とけ……」
魔狩人は日の光を拒否するかのように背を向ける
家に着いて5時間しか寝ていない。
別に用事も無いのだから構わないだろう。
そう思い二度寝を決め込もうとするが
「…………スゥ〜〜……」
少女は大きく息を吸い始める
ガバァ 瞬時に起き上がり
「おはよう……アサミ。起きたから……
起きたからそれを」
プクーと膨らませた口から
ゆっくりと空気が漏れていく
嫌な予感がした。殺気では無い。もっと別の……
何処かの器官が破壊されかねない……そんな
具体的な予感。
…………
「お風呂借りちゃったけど良かった?」
少女は濡れた紅髪を手拭いで吸収させながら
椅子にちょこんと腰を下ろした。
服は昨晩と同じ白いワンピース。
少女は変えの服を持っていないし、
男の家にも女の子の服など有りはしない。
不思議な事に昨晩より少女の服はキレイになっていた。
洗濯でもしたかのように。
「別に構わないけど、1人で火を起こせたのか?
凄いな……いや…………」
起せそうな気がする。
男は見ている。少女が鉄の錠を溶かしている瞬間を。
男は体験している。少女が地団駄を踏むだけで
奈落の底を出現させた恐怖を
男は少し考え
「なぁアサミが昨日やった術って神術か?」
神術
文字通り神の力を借りる事で
人間には本来不可能な現象を発動する術
何年もの祈りを重ねる事で少しずつ
威力を高められる人間特有の能力。
少女が発動した神術は明らかに
術の最高峰に、近かったのだ。
少女はパンと水を交互に口に含みながら
「ん〜?解かんない。
勝手に神様がやってくれるから」
「へー。」魔狩人は特に気にしない。
そもそも神術の発動条件が解らないのだ。
知り合いの神官も詳しくは教えてくれない。
「仮に……この家を破壊したいって
頼めば出来たりするのか?」
少女はパンを口に押し込み
「ふぉえはらははにはもへばふぐふぇひふふぉ」
「……俺が悪かったから。ゆっくり喋ってくれ。」
男はドス黒い液体を口につけ
少女が食べ終わるのを待つ
「それ何?あたしも飲みたい!」
少女は男の質問を忘れ、その液体に興味を持ち始める
「これは珈琲って言って南の国の産品だ。
好き嫌い別れる飲み物だから、
一口飲んで美味かったら、一杯淹れてやるよ」
そう言って飲みかけのカップを少女に手渡す
クンクンと薫りを楽しみ ゴクリ と一口
「うん!苦い!」
「ハハハ!そうだろう子供にはまだ……」
「でもクセになる味で美味しい〜!」
男は何に喜んだのか
「そ……そうか!?良し!もう一杯淹れてやるから
遠慮せずに飲んでくれ!」
……………
………………………………
朝食を終えた二人は準備をする。
少女に準備などはないが男は色々な持ち物を背負い
「こんな物かな?アサミ。
俺はこの家の痕跡を残したくないんだ。
無理なら良いけど…………」
少女は当たり前のように
「全部壊せばいいの?」
「頼むよ!闇業者に頼むのも金がかかる。
少しでも早くアサミに金を払わなきゃな!」
少女は家を軽く見渡し
「……一周でいっか。」
そう呟くと、指を頭上にかざし。小さく円を描く
「 内爆発 」
少女の指が薄っすらと輝いたように見えた。
まるでそれは太陽の輝き
「ハイお終い!早く家から出よ〜!」
少女は魔狩人を外へと促す
「?まだ何も起こってないけど……
これから起きるのか?」
男は家を何度も見直す。
何も起きなければ闇業者に頼むしかない。
そもそもどれぐらいの規模で破壊するのか……
少女の破壊と男の破壊の基準は絶対に違う
そんな不安を他所に約束の時は来る
ドォォォォオオオオン
凄まじい爆発音 魔狩人の仮宿は
灰となり煙となり……家ではなくなった。
どう見ても襲撃され焼き払われたかのような
悲惨な光景。
「…………まぁ……いいか。十分過ぎる」
「おぉ〜!でっかい雲。」
少女はその光景をマジマジと見つめる
………………
…………………………
「俺は今から斡旋所に行くから。
そこで新しい家を、紹介してもらうけど、
アサミはどうする?」
「ん〜。遠くなら一緒に、行こうかな?
近くなら此処でお別れ!」
…………魔狩人の男は考える
正直に遠くだと言い少女と共に行くか……
嘘を吐き、近くと言い少女と別れるか……
少女と別れれば、太陽の島に移住する手段は絶望的だ
「…………1番近くでも、俺のペースで丸2日は歩く。
アサミと一緒なら…………5日は見る必要があるな」
「おぉ〜〜!あたしの島を何周も出来ちゃうよ!
あたしも一緒に行く!」
遠目だと太陽の島の全容は把握出来ない。
そこまで狭い島なのか?
男でも5日で島一周は無理だろうと考えていた
こればかりは行ってみなければ解らない。
魔狩人自身が行くしかないのだ。
太陽の島へ