第114話 抗えぬ力
南の王国 国王の命によって住人達。
兵士達は数百人単位で大広間へと集められていた。
数十年ぶりの龍神の帰還。
それに一目あやかろうと
竜人族が押し寄せて来たのだ。
玉座に座る者はいない。
竜王フェイラーが下々を睨みつけ。
その隣。紅い髪の女の子。
アサミが右目だけで住人達を見渡していた。
「龍神様!竜王様!
王国近辺の住人はこれで最後ですです!」
ビッと片手を上げ敬礼をしたのは竜人の女性。
四肢……鱗は片手。それも手首まで。膝から先のみ。
限定された鱗は竜人の中でも出来損ない。
それもロングブーツで鱗を隠し、
常にグローブを身に着け逆に
素肌を見せつける様に短いスカートを着用していた。
「…………終わったカ……」
紅い髪の女の子は深いため息を漏らし
自身の髪を掻き上げる。
「龍神様ぁ〜。お疲れ様ッス!」
「ニーチェ!……龍神様に無礼な口を聞くな!」
気軽に話しかける姿にフェイラーは激怒するが
「……構わン。この娘だけは特別ダ。」
目の前に存在するのは竜人達が神。崇める存在。
「おぉ〜会った事もない龍神さまに
特別扱いとかとか……あっしは龍神様の直系子孫?
神様の力が秘められてるッスか〜?」
ニーチェは竜人としての血が薄い。
ニーチェのように他の者よりも
人間の血が多く見られる者は存在する。
しかし人間特有の弱さ脆さ故に
兵士になる事などなかったのだが……。
彼女は例外に位置していた。
恐怖心を億尾にも出さないニーチェに
龍神は微笑ましく笑う。
「申し遅れましたけど龍神様直々のご指名により
本日よりこのニーチェ.ランカスターが
しばらく龍神様の身の回りのお世話を
させて頂きますます!
何か用があればご遠慮なく
お申し付けくださいさい!」
再び敬礼を済ませニーチェは三歩後ろに下がった。
「……面白い娘だナ。」
「……彼奴は真面目では御座いません。
粗相があれば直ぐに首を跳ねて……
龍神様が手を下すまでもなく
私共には仰ってくだされば処刑致します故。」
国が一丸となって信仰する龍神に付ける者が、
寄りにもよって不真面目な娘。
実力だけなら名も知られぬ一般兵の女性。
「真面目たる事の何たるつまらぬ物カ。」
…………
……………………。
龍神の通された部屋は小さな一室。
俗に言う四畳半。
国が最高の部屋を用意したが
アサミが広いと落ち着かないという理由で断っていた。
「龍神様って〜何処にいたんすかすか?
あっし達ずっと探してたんすよ?
来てもらう為に。酒とかもバンバン造って。
全然来てくれないから
竜王様もう毎日カンカンッスよ。」
「……現在は太陽の島と呼ばれた場所に居タ。
貴様達の造る酒は不味イ。
人間の造る酒とは乖離しておル。
最高の酒が造れるのならこの場に永住しておるワ。」
痛い所を付かれたのかニーチェは頰を掻き
「あっしも3ヶ月ぐらい旅行にいった事ありますます。
名前が根付き始めた頃ッスけどけど。
……確かに珈琲で造った酒はちょっと
クセがありますですです。
そもそもあっし達は味覚がちょっと違いますからから。
でもでもあっしは龍神様の為にこっそり輸入しましたよ。……見ますかすか?」
ニーチェはパパッと扉を開け僅か30秒で戻って来た。
片手に大きな麻袋を携え。
龍神相手にあくどい笑みを浮かべる。
そして取り出したのは透明な瓶。
終始表情を変えなかった龍神の顔つきが変わる。
「……東方連邦の酒カ!?」
「ニシシ!ご名答〜ッス!
でも竜王様には内緒っスよすよ!
流石に南の国に来て頂いて1番に出したのが
東邦の酒って知られたら、
あっしの首はお別れの可能性ありますからから。」
ニーチェは確認も取らずに栓を開け
木枠で造られた桶に酒を注ぐ。溢れるまで。
こぼれるまで。しかしこぼれない。
東邦酒の奇跡。
酒は器からこぼれる事なく満たし続ける。
「……我が半身も寝ておル……一杯だけならよかろウ!娘!貴様も付き合エ!」
「勿論ッス!元々あっしが飲む為に
ワザワザ危険な東邦まで足を運んだんすからから!」
「我の為の酒ではなかったのカ?」
並々注がれた酒は取らずニーチェを
射殺すような眼差しで見つめる龍神。
「そんなのさっき思いついた方便っすよ〜。
龍神様来るとは思わなかったですしですし。」
ニーチェは懐からもう一つの木枠を取り出し
自ら酒を注ごうとしたが、
今度は龍神が木枠の枡に酒を注ぐ。
「おぉ〜。龍神様自らとは恐れ多いッスねすね。」
「龍の身ではこのような芸当は出来ぬのでナ。
人の身ならばこそヨ。」
「龍神様も苦労してるんですねすね〜。」
今にもこぼれそうな酒を二人は慎重に口に運び……
…………
……………………
1時間も経たないうちに部屋は空瓶が散乱していた。
「娘……酒がきれたゾ!もう一本ダ。」
「龍神様ぁ〜〜ペース速いっすよ〜。
もっとゆっくり飲みましょ〜よぉ〜〜イヒヒ!
時間は無限に!有限に!大事に大切に!
酒に逃げても逃げられるなぁぁ〜!ヒァッホウ!」
酒に溺れた者に訪れる至福それに伴い
ダメ竜人と化し不気味な笑い声をあげるニーチェ。
部屋内の適当な空瓶を持ち上げ
「これは……からかぁ〜。こっちはぁ…………。アハハハ!
全部空っぽ〜ぉぉ!!フェヒヒヒ!!!
あっしの分飲んでいいッスよよよよ〜〜。
でも最後に一口ぃ〜〜……
……汚くなければど〜ぞ〜〜。」
フラフラに、なりながら龍神に木枠の枡を差し出す。
「……名残り惜しい物ヨ。」
「あれれれっすよよよよ!またあっしが東邦へ行けばいいいいいいいんすよよぉお………………。休暇ぁぁもららららって本場のぉぉ………東邦酒は………………。」
ニーチェはどさりとその場に崩れ落ちた。




