第112話 理解しましたわ
ダークは視線は魔導書に向けたまま真実を語る。
トルコマンとヴィジャはダークを強い力と言っていた。
それが10秒。エリーは戦いの事はてんでわからない。
10秒が長いのか短いのか。善戦したのか。相手にすらならなかったのか。
「……ダークって……弱いんですのね。」
ならばエリーは素直に思った事を口に出すしかない。
エリーの歯に絹を着せない物言いに
魔導書をパタリと閉じ勢い良く起き上がり
「はぁ〜!?嘘だろ?
なんで弱いになんの?戦鬼が異常だったの!
あとちょっと舐めてめてかかっちゃったの!
ハンスくんとか余裕で圧倒してたじゃん!」
エリーの顔の間近でまくしたてるダーク。
顔は赤くなり必死に言い訳をしている。
「……わたくし見てましたけど。なんですの?
自分で斬り掛かって貴方が半分にされて……
そうこうしてる間に占い師様が来るとか言って……
結局、貴方なにもしてませんわよね?
魔法数字数えてただけですわよね?
お喋りしながら、ワン・ツー・スリーって」
エリーは見たままの感想を言っているだけ。
結果論だ。その間になにが起こっていたのか。
彼女には理解できない。
しかし彼女の言うことは全て事実だった。
エリーの瞳は冷めきっている。
更に思い出したかのように
「…………そう言えば、
貴方の半身も怪物ども見て逃げ出しちゃいましたわよ?
消滅だったかしら?どちらでも一緒ですけども、
野次飛ばし以外してませんわ。」
ダークは絶句している。
チラリと助けを求めるようにエンハンスに目をやり。
「……是はシングルハート様が来たから
エビィルにも従ってるし魂も返した。
2位だけならならそんな事しなかった。
……加えて言うなら2位相手なら殺されなかった。
あのままやってても…………是が勝ってたし。」
「お前……ホントにふざけんなよ!
Count止めてやっただろうが!
別に大口叩くのは構わないけどよ……
エリーの前でオレをカッコ悪く言うの止めてくれない?
ハンスくんに助けを求めようとした
オレもダメダメだけどさ。」
怒りに打ち震えるダークの肩にエリーは優しく触れ
「ダーク。弱くてもわたくしは気にしませんわよ?
ちょっと背伸びしたい年頃なんですのよね?
わかりますわ。」
「…………あ。……」
「貴方が弱い事は理解しましたわ!!」
エリーの微笑む顔を間近で見てダークは理解した。
エリーの『なんですの?』を弄り倒した報い。
その報復の時が今なのだと。
ダークは顔を手で隠し空を見上げ
「そうだな……機会があればオレの強いとこ見せてやるよ。見せられるほどの相手がいればな……
その時はオレに惚れろよ?」
「…期待してますわ。ダーク。……エンハンスも。」
「オレだけでよくない!?」
…………
………………
しばらくの休憩を挟んでいると馬の足音が二頭。ガラガラと台車をひき、御者は男と女の2名。
エリー達の手前で馬を止め男がひとり。
多少警戒しながらも近づく。
「マスターが言ってた人?他に人なんて居なかったから合ってると嬉しいんだけど……。」
黒いローブを纏った青年。
対してダークは寝転がりながら
「マスターって誰だよ?名前言え名前。
あれか?新手の人攫いか?オレは用心深いぞ!
怪しい奴にはついて行かない!お菓子も用意せずに……
もっとマシな誘い方学んで来い!
エリー!コイツ敵だぜ!失神させちまえ!」
ローブの青年は頬を掻きながら後ろを振り返り。
「シェリル!マスターの名前って何?
そういえば俺知らない!」
エリーも釣られて青年の視線の先をみる。
女性も降り立ち
「ん〜。アグニス……
アグニス……セカンドネームはなんだったかしら?
私も一度しか聞かされた事なかったから覚えてないわ。というか誰にも言っちゃダメだった気もするけど……」
「おぉ〜それそれアグニスだよ!
なんだよ。ちゃんと迎え寄越してくれるのに
その辺りズボラ過ぎるだろ?
紳士なアグニスは何処に行ったのやら。
……あれに乗っていけばいいの?
うほほ〜い!馬車だ馬車だ!ドナドナ!ドナドナ!
エリーが売られるよ〜」
ダークは鼻歌混じりに飛び起き
我先へと荷台に腰をおろし。
「粗末な馬車しか用意出来なかったけど……
文句はマスターに言ってね。」
エリーは軽く会釈を済ませ。エンハンスを担ぎ。
リアのフードを更に深く被せ、荷台に乗り込んだ。
…………
荷台に揺られる事数時間。
普段は積荷を運ぶ為の馬車なのか小さな石で
荷台がガクンとバランスを崩し
エリーの三半規管に異常がおき始めた。
「…………ちょっと止めてくださる?気分が……。」
エリーは御者の二人に訴えたが
「ここで休憩するのは危険よ。
貴方達、このご時世に良く道のど真ん中で
座ってたわね。……少し待ってて。」
御者の女性は懐から取り出した杖を
大地に突き刺し両手を合わせ天に祈る。
ほんの数瞬。大地が僅かに光輝き。
先程までの揺れはなくなり。エリーの吐き気も収まっていた。
「神術……ですの?」
エリーの問いに御者の女性は振り返らず
「そうよ。大地の大神様の力で震動を極力無くしてもらってるの。」
「……お姉さんみたいな術士って
その辺にゴロゴロ居る訳?」
ダークは揺れなくなった荷台に多少不満顔になりつつも
術の威力に驚いている節があった。
「……さぁ?私以外の術士は隣の男以外
殆ど見てないわね。でも沢山いるわよ。」
「……マジかよ……。」
ダークは小声で呟くと自身の魔導書に
何かを記していた。暇を持て余していたエリーが
魔導書を覗き込むが……
魔法文字で書かれた文章はエリーには読み解けない。
「……ダーク。わたくしの王宮にいる術士もあれぐらいは出来ましてよ。」
ほんの少し鼻を高く言い放ったエリーだったが
すぐに考えを改めてさせられる。
「あのお姉さんがやった術は遺産経由だ。
お漏らし女も珍しい遺産を持ってた。
神の遺産が相当数発掘されたのか?」
「……神の遺産は……全部で105個だった筈……。
2年前にユウゴ.カーティスが97個の遺産を発掘したらしいですけど……あの女性も持ってますの?」
「……97って……それ……シングルハートが
保管してる奴だろ!?
諦めたのか?なぁ、お姉さん。
その懐にしまってる神の遺産って……
えぇ〜っと……
しわくちゃで自己中な婆さんから貰ったって事ないか?両手に指輪沢山つけてる婆さん。」
「二位……シングルハート様は慈悲深く
全てを愛する是の希望そのもの。
そんな言い方は許さない。」
敬愛する一位を乏しめる言動に
エンハンスがダークを睨みつける。
「面倒だなぁ。わかってるよ。
じゃあハンスくんが特徴言ってくれよ?
何かある?わかりやすい特徴。」
「…………今回だけだよ。」
エンハンスも老婆の特徴を教える術がなかったのか
ガックリと項垂れた。
御者の女性は後ろを振り返らずに
「私が貰った相手はカーティス卿よ。
と言っても元は小さな女の子の物だったかもしれないけど…………見えてきたわよ。」




