第110話 お人形さんですの
「……で?なにがおこるんですの?」
膨れ面を隠そうともせずに
ダークをジト目で見つめるエリー。
その言葉に待っていたかのように
嬉しそうに眉を上げるダーク。
薄々感じていたが、からかわれている。
わからない事があるから聞いているだけなのに……
断じて
「口癖ではありませんわよ!」
「はいはい。魔導書の落書きは別にいいや。
いずれ誰かに見られた時に『これが噂に聞いたダーク.ノヴァの魔導書……うわっ!罫線ばかりでクソダセぇ!』って思われるのが嫌だったのよ。」
「……なんですのよ……その理由は。
わたくしが読んでた本は罫線ばかりですわよ。」
フン!と鼻で息を鳴らしテーブルから離れ。
「エビィル。本は自分だけの持ち物ではない。
次の者に繋ぐ為の物。次の者もまた次へ。受け継がれる質量ある魂そのもの。それを汚したらダメだ。
二位なりの注意だと思うよ。」
エンハンスの諭すような言葉に押し黙る。
そのような考え方。いやあたり前なのか……。
王国図書館では流石に文字を書き足すなんて愚行はしなかった。あくまで私物の本だけ。しかしそれも巡り巡って誰かの手に渡るのだろう。
その人物が魂をかけて書いた本。
「エンハンスの言う通りですわね。
……ダーク。ごめんなさい。
どうにか消す方法はございませんの?」
ダークに向き直り改めて謝罪し
ダークはそれを無視するようにエンハンス時にエリーを交互に見つめ。
「え?なに?なんで二人はそんな信頼関係厚くなってんの?あれ?昨日の敵は今日の恋人?オレキューピット役だった訳?ピエロ?ピエロ.ノヴァとでも名乗ればいいの?どちらかと言うとダークピエロがマシかなぁ……」
「貴方と話すと頭がおかしくなりそうですわ。」
…………
「エリーは暇な時はその魔導書読んでて。
とりあえず……左目は眼帯でもつけるか?
人形はトルコくん主体だろうけど
アイツ性格悪いからなぁ……
オレが寝てても悪事働くから最早手遅れだわ。
停滞の使用許可を与えなきゃ大丈夫なんだけど。
専門家に聞いたがいいか?」
少し落ち着いたダークはようやく話しの進展を開始する。
「……どうするん……………………。」
いいかけて口を噤むエリー。
しかし言い出したからには
「ですの!?」
ダークは笑顔で続きを紡ぎ
「言ってませんわよ!」
ダークのエリーイジりを冷ややかな目で見つつ
エンハンスが亜人に目を向け。
「……8位に頼む気?」
「……………………。」
「言わねぇか。まぁいいや。
アグニスに見せようぜ!ってかこれ造ったのアグニスだろ?トルコくん苦手の筈だし。」
ダークは手を叩き魔導書を広げ
「ん。近いな。さっさと行こうぜ!
オラ!起きろ亜人!もう昼だぞ!朝飯はちゃんと食え!なんだ!そのガリガリは!?」
訳のわからない言葉で
リアの頭をグリグリと撫で回し。
「あ あ う〜〜う〜〜!!」
乱暴に起こされたリアがダークを睨みつけ。
「お〜……一丁前だ!無知は強いな!
お前オレの正体知ったら絶対ビビッて漏らすからな!
オシメ忘れんなよ!」
犬歯を剥き唸るリアにダークは全く怯む事もなく
更に頭をワシワシと振り回し、
「ダーク!リアを虐めないで!
あとリアはもう、お漏らししませんわよ!
ちゃんと覚えましたから!」
エリーに一喝された。
「エリーはオレを知らないから んな事が言える。
エリーに喚ばれる前に女と知り合ったんだけどさ。
ソイツはオレを見ただけで漏らしやがっだぜ!
しかもバレてねぇと思って隠してやんの!
ソイツそれでも真顔で喋りかけるから
こっちは笑い堪えるのに必至!
ワザワザ気を利かせて後ろ向いてやってたのに。
この亜人も平然を装って隠すタイプと見たね!」
「リアは正直な子ですから隠したりしません!
……エンハンス!リアが怖がるから
姿をなんとかなさい!」
エリーのイライラがエンハンスにも飛び火した。
「……是は関係ない。なんともできない。」
エンハンスは瞳を閉じ、顎を引きなんとか自分を小さく見せようと頑張っている。
しかし削がれた鼻。潰された眼球。
痛々しい姿の生首は変わらない。
「ホラっ!お人形さんの服を作る時に余った布で作りましたの。これを…………悪くないですわ!」
「これ……作ったって言ったら造形に対する侮辱だろ?
ホントに余り布じゃん……
あれだよ……あれ…戦場で首を運ぶ時の奴。」
エンハンスに被せられたのは布。
ホッカムリのように顔を隠され
別の意味で怪しさが増してしまった。
それでも素顔よりは断然マシである。
鏡などない部屋でエンハンスは自身の姿を確認できず。しかし布の感触に心を踊らせ
「ありがとう。エビィル。」
小さく礼を述べた。
………
……………………
宿屋からエリー達が出ると町人達が待ち構えていたように……どこかそわそわしながらも
「あ……あの…町の外の怪物達もひょっとして貴方様が?」
小首を傾げるエリー。見に覚えがない。
「……知りませんわ。」
町の外に出ようとすると
異様な光景がエリーの視界を占拠した。
夥しい怪物の亡骸。小山のように沢山に
積み上げられ尽く頭を潰され。
三百はくだらない。数えるのがバカバカしくなるほど。
町人達は困惑しながらもその光景に唖然としている。
今のエリーと同じように。
「この人形だ!……
この人形が怪物を殺してくれてたのを俺は見たんだ!
……でも着てる服が違う気がする……勘違いかも…」
若い男がエリーの抱える黒髪人形を指さした。
「お人形さん……本当ですの?」
「マスターノ命令ヲ全ウ。」
人形の声は聴こえない。エリー以外には。
エリーは人形の頭を撫でる。
「ありがとう。わたくしが……余計な命令をしたせいで……大変でしたわよね?」
エリーが人形に与えた命令『町に入ろうとした怪物を殲滅せよ』それを人形は全うした。
犠牲にしたのは、かけがえのないリアの命炎。
その事がわかるからこそ……エリー人形を抱きしめ
ひたすら感謝を口にする。




