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蛇足の話:お見合い編 03 「告白」

先週投稿予定だったこの話。

リアルで色々とあって、結局一週飛ばしてのアップになってしまいました。


01.山河の義勇軍時代


 キキさんとモコは、光を反射しやすい生地で織られた一枚の大きな毛布に身を包み、ドアの前に座っていた。

 モコが光を操る術を使い、毛布の外側を光学的に周囲と完全に同化させており、外から二人の姿は見えない。スキルで気配も消している。


 そこまでしながらキキさんとモコは、ドアの外から聞き耳を立てていた。

 部屋の中からは、二人きりで残されたゲーエルーとルサが会話が聞こえてきた。


「実はルサさん……あなたには興味があった」


 ゲーエルーの言葉に、思わずルサの後輩二人が息を呑む。

 もともとはルサの一方的な恋心を成就させようとして設けたお見合いの席。そこでまさかの逆告白か。

 そんな仕掛け人二人の心中など知らずに、ゲーエルーは言葉を続けた。


「キキさんが砦跡に努めていた頃、彼女から昔パーティを組んで冒険者をしていたとは聞いていた。そこには手がかかるが有能な後輩とか、喧嘩もするが頼りになる先輩の話もあったんだ」


 手がかかる……という言葉に反応して、毛布の内側でモコが薄笑いをしながらキキさんを見る。キキさんはツンとすまして、本当のことを言ったまでですと表情で語った。


「キキがそんな事を話すあたり、信頼されていたんですね」

「そうかな? オレは偶に現れる厄介な客でしかなかったと思うが」

「キキは、あれで人見知りが激しいと言うか、仲間と認めた相手以外にはあまり心を開かないタイプなんですよ?」

「意外だな。割りと最初から友好的に接してもらっていたと思うけどな。まあ、それはプリームラやクークラを気に入ってもらっていたからかもしれないな」


 ドアの外の毛布の中で、キキさんあ少し照れくさそうにうつむいていた。


「それに……」

 とゲーエルーは更に会話を進める。

「キキさんの話とは別に、山河の義勇軍にも興味があった。その頃は、まさかキキさんが話していた“先輩”が義勇軍リーダーだとは思わなかった……キキさんも知らなかったようだが」

「まあ、私がそういう事をし始めたのは、家を離れた後でしたから」

「ともかくも、山河の義勇軍と名乗るヒトならざるもの達の勢力が、人間たちと……時には国教会ともやりあい、押し勝ったような話を聞いて胸のすく思いをしたこともしばしばだった」

「割と、買ったり負けたりだったりもしましたが」

「そうそう。そう言えば、一度山河の義勇軍の作戦に参加したことがある」

「……え? それはどんな状況で……」

「……それこそ負け戦だったな」

 ゲーエルーは少し寂しそうな笑い方をして、説明を始めた。




02.義勇兵


「あれは、カザンカ川支流の戦いだ。ちょうど路銀が底をついていて、時間ばかり持て余していた時だった。現地で義勇兵を募っていたので路銀稼ぎと腕試しのつもりで参加した」

「カザンガ川ですか。あれは自分にとっても苦い思い出のある戦いですね。あの頃は先を見据えることができずに他の戦場で手駒を使い果たし、十分な戦力や輜重を送ることができなかった……現地招集ということはゲーエルーさんは一兵卒として?」

「まあそうするつもりだったのだが、どういう訳か能力を見込まれて、指揮官の護衛を命じられた。オレとしては最も得意とするところだし、二つ返事で引き受けた」

「指揮官……護衛対象はマーフカでしたか?」

「そうそう。そういう名前だった。ルサさんと同じ、褐色の肌に金色の瞳の女性だったな。オレの能力を見抜いたこともそうだが、あれは良い指揮官だったな。敗走で士気がガタ落ちした……それも大部分はカザンカ川流域の故郷を失った者たちばかりの寄せ集めを、しっかりとまとめて最小限の被害で安全圏まで落ち延びさせていた」

「マーフカは、攻撃に秀でたタイプではありませんが、防衛戦や撤退戦をやらせたら右に出るものがいない、優秀で重要な仲間でした。今は義勇軍幹部の一人で、新しい時代でも有用な役割を担う人材です」

「ほう。ならばオレも後の歴史に繋がるいい仕事をしたのかもしれん。というのも、撤退中に襲ってきた敵の中に手練が一人いてな」

 言いながら、ゲーエルーはニヤリと笑った。

「自慢になるが、あれはオレが居なければマーフカ嬢の首が落ちていてもおかしくなかった。次代を担う逸材を護り切れたことは誇りに思っても良いのかもしれん……などと、今だから笑って話せるが、いやあれには本当に参った。一歩間違っていたら、オレの首が飛んでいた」

「……ゲーエルーさんにそこまで言わせる……どんな相手だったんです?」

「人間ではなくヒトならざる者で、短髪のねーちゃんだったな。最初は鞭と短剣を二刀流で使っていたが、オレと対峙したときには八節の蛇腹刀を手にしていた」


 ドアの外では、二人が……それって……まさか……と、顔を見合わせていた。

 ルサもまた、引きつったような表情を浮かべている。

 その短髪のねーちゃんに、心当たりがあったのだ。


「どうしたルサさん。変な顔をして……」

「いえ……その相手に……ちょっと思い当たるところが……」

「そうか……結局、正体こそ知れなかったがアレだけの腕前だ。もしかしたら凄腕の冒険者だったのかもしれない。その界隈の有名人だったとしたら、あるいは知っている相手なのかもしれないな」


(ルギエ……何てことしてくれてんだ……)

(ルギエってば、何をやってるんですかあの娘ってば……)

(ルギエ先輩ぃ……噛みつく相手はちゃんと見極めましょうよぅ……)


「まあ、そんなこんなで山河の義勇軍には思い入れもあったんだ。義勇軍リーダーの話も聞いていた。まさかこうして「お見合い」をすることになるとは、その頃には思いもしなかったが」

 ゲーエルーの言葉で、ルサはルギエ絡みで引きつらせていた表情を改め、真面目な顔つきになって答えた。

「最初は成り行きで身を投じた戦いでしたが。でもあれは自分にとっても重要な100年(ルサたちの時間間隔を人間のソレに直しても10年程度)になりました」





03.ルサの慨嘆


「釣書にも書いた通り、最初は偶然に訪れたとある森が人間の開発の手に晒されていて……それから自衛するための戦いだったんです。しかし、あの戦いがなければ、辺境の山河の民たちに抵抗運動のうねりが波及することもなく、同胞である「ヒトならざる者たち」は今頃活動範囲を大幅に狭めてしまっていたかもしれません」

「……あの時代に、人間たちが活気づいたのは、俺たちが起こした戦争に勝利したことが原因だ。俺たち氷の種族もまた「ヒトならざる者たち」だけに、それで余計に同胞達への差別が進行した面もある。つくづく、疫病神だったんだなオレたちは。人間にとっても、同胞にとっても」

 すまないな。と、ゲーエルーはルサに頭を下げた。

「山河の義勇軍リーダーには、その後始末を任せることになってしまった」

 それに対して、ルサは慌てて手を振って否定する。

「いいえ。人間たちの横暴はあれに始まったものではありません。もともと数が多く、平地は彼らのものでした。人口が増えれば、我々の領域に手を出してくることは、遅かれ早かれ避けられなかったでしょう」

 歴史の流れが、ああいう形になったに過ぎません。と、ルサは言う。


 そんな会話が続く「外」では、モコが歯噛みをしていた。

(何、恋愛と関係のない話に持って行っているんですかルサ先輩……!!)

(落ち着きなさいモコ。気配を消しきれていませんよ)


 後輩たちの思いなど知らず、ルサは話す。

「それに、戦をこう表現するのはなんですが……リーダー……ああ、私達パーティのリーダーですが、あの人がこの世界での冒険を終えて異世界に旅立った後、自由を得たものの目的を見失っていた私にとって、あれは充実した時間ではありました。家族に準ずると思うほどの仲間も出来ましたし」


(ルサ先輩って、こういう話し方もできるんですね……)

(私達に対してはぁ……もっとガッハッハって感じですよねぇ……)




04.告白


「そうか。まあ歴史ってのは善悪で測れるものではないのかもしれん」

 ゲーエルーが、そう言ってからため息をついた。

「だが、大きく関わったオレ個人としては、やはり自責と後悔ばかりが募るな」

「それは……戦後のことに対して……?」

「いや、それもあるが、人間たちと戦争を起こしたこと……あの頃のオレたちは若くてバカだったからな。好き嫌いを優先して、負の感情を抑えることも出来なかった」

「……」

「姉御……ミティシェーリは、その中でも人間との衝突を避けようと動いていたが、なんせアイドル的な存在だった事もあって、姉御に良いところを見せようと人間相手にバカをするようなのも少なからず居て」

「……ミティシェーリは、冷静な人だったんですね」

「いや、どちらかと言えばむしろ激情家だった。それでも責任感も意思も強くて、頭も良かった。人間たちと戦争になったらどうなるか、予想できていたんだろうな。さっき言ったバカな真似をした連中には激怒していたよ」

 ゲーエルーが珍しく沈んだ表情になった。

「……結局、衝突は止められず戦争になった。あれだけ影響力のある姉御でも止められなかったんだ。……オレの後悔は、なぜ北の地から降りてきたのか、だな。変に下の大地に興味など持たずに暮らしていれば、あんな思いをすることも、疫病神として迷惑を振りまく事もなかったな……と」

「……そうなのかもしれません。でも」

 答えるルサの声に熱がこもった。

「でも、北の地から降りてきてくれなければ、今、私はこうして“お見合い”をすることはなかったでしょう」


(!!)

(!!)


 ルサの言葉に、真摯なものを感じ取り、顔を伏せていたゲーエルーが思わずルサの目を見た。

 ルサは居住まいを正して、その視線を受け止める。


「初めてお見かけしたときから……好きでした」


 ルサは真剣な表情で告白した。


「私は、このお見合いをセッティングしてくれた後輩たちに心から感謝しています。ゲーエルーさん。よろしければ、ただ一対の男女として、お付き合いをお願いします」

 

次回

キキさんのアルバイト蛇足の話:お見合い編 04 「過去」


2023年8月10日投稿予定。

お盆にはもう少し頻度を多めに投稿できたらいいなと思います。

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