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蛇足の話:お見合い編 02 「お見合い(実施)」

ゲーエルーとルサのお見合い開始です。


01.お見合い当日


 ルサとゲーエルーのお見合い当日。

 もとよりモコが「人間が結婚の下準備として行う儀式」として存在を知っていただけの「お見合い」。

 それなりの情報収集をしてどのような儀式なのかを学んだが、キキさんたちと人間とでは生態も文化も違う。「お見合い」も状況に合わせてアジャストするしかなく、式次第に関してはほぼ見様見真似。下準備はしっかりとやったが、ルサ、ゲーエルー双方の陣営ともややぎこちない始まりになるのは仕方がないことだった。


 会場はキキさんたちの館の一室。

 普段は使わないが適度な広さがある客間の中央に長方形の大きなテーブルを設置。

 その来客側にゲーエルーが、その向かい側にルサが座る。

 二人の両隣にはそれぞれの関係者が着席していた。ゲーエルー側にはハクとクークラ、ルサの周りはキキさんとモコが囲む。


 主役の一人であるルサは、キキさんが作ったパンツスーツを着込んでいる。派手さのないシックで上品な装いだが、その表情には緊張がうかがえる。

 相対するゲーエルーはルサに比べると余裕があるが、しかしいまいち自分の立ち位置やお見合い自体の意味を理解しかねているらしい。とは言え、参加するからにはしっかりと役目をこなそうという意気込みはあるようだ。

 着ているものは飾り気のない薄い布地のズボンとタンクトップ。

 これはやる気が無いわけでも、TPOを弁えていないわけでもなく、氷の種族は本来厚い衣服を着用せず、むしろ正装としてこうした格好をするのである。これは隣に座るハクも同じで、薄い灰色のスキニーパンツに丈の短い白シャツのみを着ている。


 キキさんとモコ、そしてクークラは、地味で目立たないワンピースで主役たちの邪魔にならないよう配慮していた。


「皆様、お忙しいところご足労をいただきありがとうございます」

 六人とは別に、議長席で起立した存在が、発声して一礼した。

「参加される方全員が揃いましたので、これよりゲーエルー、ルサご両人のお見合いの義を執り行わせていただきます」


 それは、かつてクークラが身体として使っていた「少女人形」。

 今は、クークラが掛けた「判断力を持つアニメート」にて仮初めの命を与えられて動いている。


「なお司会進行は私、クークラ様の少女人形ことアジフシャヤが務めさせて頂きます。まずは一同起立……礼……着席」


 




02.ルサの釣書


「では双方のご挨拶も終わりましたので、お見合いのメインプログラムに入らせて頂きます。まずはルサ様の釣書の発表。ルサ様側付添人代表キキ様、お願いします」


 六人の目線に晒されながらもなんら動じることなく、少女人形アジフシャヤは役目に則り司会を続けた。

 参加者全員に、まだお見合いへの戸惑いがある中で、ただ彼女(?)のみが粛々と議事進行に努めている。


 アジフシャヤの指示に従い、キキさんが白い封筒から清書された手紙のような書類を取り出した。

「それでは、ルサ本人に成り代わりまして、僭越ながらわたくしが釣書の方を読み上げさせて頂きます」

 上質な便箋数枚に渡るルサの履歴の紹介が始まる。

 

 それは、要約すると以下のようなものだった。


 ルサは最初、死産した赤子や社会から祝福されなかった子供が秘密裏に捨てられる血塗られた沼で、それらの嘆きの魂と水面に映る月影が習合し、矮小な水妖として発生した。

 その沼に棲み、人を引き込んで害していたが、彼女を討伐に来た冒険者にルサという名前を授けられ、現在の自我を持つに至る。

 ルサはその冒険者の最初の仲間となり、後に合流する4人のメンバーとともに、様々なクエストをこなすことになる。

 最初は力弱く、冒険者であるリーダーに守られる存在だったが、経験を積み、術の研鑽に励み、やがてパーティ全体を率いるようになった。パーティのレベルは高く、最終的には悪意ある竜を倒し、邪悪なダークリッチを封印するに至る。

 その後、リーダーが別の世界へと渡りパーティは解散。

 自由を愛するルサは単騎で世界をめぐり、人間たちに荒らされる森にたどり着く。

 彼女は人間たちの横暴に怒り、森の民たちの怯懦を叱咤し、義侠心によりその森を守る。彼女がまとめた森の民たちの組織は、人間たちを破りついには森を取り戻した。

 そして、その防衛戦は一大ムーブメントとなり下の大地全土に広がった。

 今の「山河の義勇軍」は彼女の子供でもある。


 確かにルサの足跡を語っているのだが、良い面ばかりが大げさに書かれた釣書に、ルサは顔をしかめた。

 ルサが書いてキキさんに渡した履歴書が元にはなっているようなのだが、キキさんとモコがかなり手を加えたようだ。


 キキさんの読み上げが終わり、ルサは小声で二人に文句を言った。

(おい……私はこんなこと書いてないぞ……いや、あからさまに目をそらすな二人とも……)


 ルサの抗議が無視される中、アジフシャヤが粛々と次のプログラムに進んでいく。


「では、次はゲーエルー様の釣書の発表に移ります。ゲーエルー様付添代表、ハク様、お願い致します」




03.ゲーエルーの釣書


 少女人形の言葉に従い、ハクは机に置いてあった便箋を手に取った。

 キキさんとモコが二人で手を加えたルサの釣書に比べれば、紙の枚数は少ない。ゲーエルーの釣書も、基本的にはゲーエルー本人が書いたものにハクが手を加え清書したもので、内容を盛りに盛られた自分の釣書にブツクサと言っていたルサも、ゲーエルーのそれは気になるのか、文句をやめてハクを見つめる。


 注目を集めていることを自覚したハクは、少し緊張しながらそこに書かれた文面を読み上げ始めた。

 

 北の大地において、100年に一度の大吹雪の日、風雪に御霊が宿った存在としてミティシェーリに続いて顕現したゲーエルーは、幼くして武の道に目覚め、木刀を振るう日々を送る。

 長じて、握る得物はやがて鋼の剣となり、氷の種族の果たし合いでは百戦百勝。下の大地に着てからはミティシェーリの護衛官としての役割を果たし、名だたる人間たちの兵士、時には勇者の刃をも打ち返して仲間を護った。

 しかし戦況は人間たちに有利となり、個人の武勇ではどうしようもないところに追い込まれ、ついには大将であったミティシェーリも護りきれずに討たれてしまう。その悲しみを背負いながらゲーエルーは生き延び、戦後世界で国教会の追手を追い払いながら、武の道を極めようと志す。

 彼の剣は、大切な仲間たちを護るための剣。

 故に、その刃は常に己が身に降りかかる災いを打ち払い、弱きものを守護するために振るわれた。

 今、国教会が力を失い、ゲーエルーは自由を得た。

 だが、並び立つものが無いほどに研ぎ澄まされたその剣は、これからも護り刀としてのみ存在し続けるだろう。


 ハクが読み上げた釣書は、そのような内容が叙情的に書かれたもので、そこにはハクの意外な文才が現れていた。

 とは言え、こちらもゲーエルー本人が書いたものからはかなり遠ざかっており、当の本人は苦笑いを浮かべている。目をキラキラさせながらゲーエルーを見上げているクークラに、(いや、剣に関してそんな崇高な考えを持っているわけではないぞ……)と、ルサと同じくこちらも小声で言い訳をしていた。

 

「さて」


 盛りすぎたり、あるいは理想化されていたりする釣書の発表が終わり、変に浮ついてしまっている空気を断つかのように、アジフシャヤが鋭い声で宣言する。


「ご両人の紹介も終わりまして、お互いの付添人の方々も、お二人のお人柄をご理解いただけたものと思います。何か、ご質問等ある方はいらっしゃいますか?」

 言って、アジフシャヤが両陣営の面々を見回す。

 普通のお見合いであれば、大抵の場合は初対面の相手同士なのだが、今回はすでに顔を合わせそれなりに交流している間柄。人柄について、質問などあるわけもない。

 特に発言がなかったため、アジフシャヤは一つ頷いてから言葉を続けた。

「それでは、お見合いの伝統に基づきまして“あとは若いお二人に任せて、邪魔者は退出いたしましょう”」

 

 それは、キキさんたちが集めてきた情報にあった「お見合いで使われる常套句」だったのだが。


 そこに集まっていた全員が「残るのは一番年齢が上の二人なんだけど……」と、思った。





04.進行中


 うやうやしくドアを開けるアジフシャヤに促され、付添人役のキキさんとモコ、ハクとクークラが部屋から退出した。


 四人とアジフシャヤは、控室でもある円卓の間に戻る。

 緊張から開放されてホッとするハクを尻目に、クークラはお見合い会場に残ったゲーエルーとルサがどのような会話をしているのか興味津々と言った様子で落ち着きがない。

 

「ディエヴァチカには悪いけど、この身体でなかったら別のなにかに乗り移って盗み聞きをしに行ったのに……」

 そんな独り言を聞いて、キキさんとモコは苦笑いを返したが、保護者であるハクはもう少し強い対応をした。

 ポカリと、クークラの頭にゲンコツを落としたのである。

「イタタ……」

「いつまでも、いたずら好きの子供のままで居てはいけません。大人としての節度を身に付けていきなさい」

 クークラは何か言いたそうにハクを見たが、結局は反論せずに頷いた。

「はい……でも、ハクもあの二人の様子を知りたくない?」

「……そりゃまぁ……それは……いいえ。下手に干渉せずに二人に任せるのが大人というものでしょう」

 後ろ髪を引かれながらも、そう言い切る。

 だが、クークラがふと気づいた。

「あれ? キキさんとモコ先生は?」

「え? さっきまでそこに……」

 いつの間にか二人きりになっていたハクとクークラが顔を見合わせた。

「……まさかね?……」


 そのまさかである。

 キキさんとモコは、お見合いが進行中である客間のドアのすぐ前に居た。


 姿は見えない。

 反射効率のよい布で作られた大きなマントを二人で頭からかぶり、モコが光を操って光学的な迷彩をかけているため、視覚的には完全に存在を消し去っている。


 気配もほとんど感じない。

 二人とも、そもそもが高レベルの冒険者であり、隠密行動に関してのスキルも超一流である。


 ドアの向こうからは、わずかにルサとゲーエルーが談笑している声が聞こえてきていた。


 ゲーエルーが笑いながら言った。


 いや、お見合いをする……とだけ説明されていたのだが、そのお見合いがなんなのかよく分かっていなかった。ハクもギリギリまで説明してくれなかったのだが、あるいはオレが断ると思っていたのかもしれない。


 ルサの苦笑が漏れる。

 後輩たちが暴走してしまったようです。申し訳ありません。

 さっきの紹介文も、あれは自分が書いたものが元にはなっているものの、かなり盛られています。話半分で考えてもらえれば……。


 わかった。自分のもそうだ。あんな高尚な事を考えながら、オレは剣を振るっているわけではない。

 とは言え、それはそれとして。


 実はルサさん、あなたには興味があった。


 ゲーエルーが発した言葉に、ドアの外ではキキさんとモコが驚いていた。


 ……これはまさかの……

 ……逆告白ぅ?

 

 


次回。

蛇足の話:お見合い編 03 「告白」


更新は2023年7月27日(木)の予定です。

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