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◇ 番外編 往きて還りしルサの物語 その三 「山河の義勇軍」 ◇

人間たちの開拓の手から森を守りきったルサたち。

しかし、氷の種族との戦争に勝利した人間たちは、その滾ったエネルギーを外へ外へと発散する。

それまでは「人ならざる者たち」が住んでいた山河が、人間たちによって開拓の手に晒され、住処を追われた者たちがルサたちに助力を求めに来るようになります。

ルサは、自分や仲間たちを人間の「フロンティア」と接する山河へと派遣し、彼らを護ろうと奮闘するのですが……。


その3:山河の義勇軍


 ルサたちが抗戦した結果、森は街に住む人間たちに神域として祀られるようになり、侵略の脅威は消え去った。

「森に住む者たち」は団結して植林を行い、森は戦争で受けたダメージを回復していった。


 しかし、森の再生には、破壊にかかった時間の百倍もの年月が必要となる。


 森がその力を蓄え直す間、ルサたちのもとには様々な「人ならざる者たち」が訪れた。彼らは皆、人間の手により住処である山河を追われそうになっている者たちだった。


 氷の種族を追い払って意気を上げた人間たちは、国中のいたるところでその生息域を広げつつあった。

 山河を拓き、そこに住む者たちを追い払いながら、フロンティアと呼ばれる開拓前線を形成していったのである。


 拡がりつつある人間たちのフロンティアと接する山河の住民たちは、ルサたちに助力を願いに来た。森を守り抜き、ついに人間の侵攻を完全に押し返したルサたちは、彼らの間では有名だったのだ。

 ルサは、来るものは拒まず、それぞれの山河の状況をよく聞いて、アドバイスをし、必要とあれば軍事的な指導者になる者たちを派遣した。

 時には、自分が実戦指揮官として他の山河に出向くこともあった。


 ルサは頼られるとそれに応えようとする性格だったし、さらに傍若無人な人間たちへの怒りも、彼女の義憤を煽ったのだ。


 ルサは、その場その場での戦闘に勝利するための戦術眼に優れていた。

 状況を読み取る能力、部下たちの力を測る能力、そして周囲の仲間の士気を上げるカリスマ性などがずば抜けて高い。優れた軍事指導者だった。


 人間たちとの抗争を余儀なくされた山河に、ルサは積極的に肩入れした。

 開拓されている土地の者達の性格や、地勢、人間の開拓者たちの規模。それらを調査し、人材を派遣し、前線を回った。


 そして、人間たちが山河を侵した際には、ルサたちはその山河に住まう者たちを率いて徹底的に抗った。


 だが、ルサは長い目で物事を見たり、戦略を立てるのは苦手だった。

 先を考えずに人材を派遣してしまい別の山河に送るための人員が不足するなど、適材適所の配置が出来なくなることもあった。

 そこはルサの戦略面での弱点が出た。


 それでも、参謀のベレギーニャを始めとした仲間たちの助言、あるいは苦言もあって、ルサ自身もまた自分が決めるべき事柄と、人の意見を聞くべき時を誤らなくなっていった。


 もっとも、その直情径行は変わらなかったが。


 山河を巡る攻防戦は、勝つ時もあったし負ける時もあった。


 勝てば、その土地にはさらに人員を派遣し、もはや人間に攻めさせないだけの防御を整える。

 負ければ、そこは完全に明け渡し、住んでいた者たちを森で受け入れ、別の山河の攻防戦に参加させたり、勝ち取った山河に新たに住まわせるなどして、再配置を行った。


 奪われた山河を攻めて取り返すことは厳禁とした。

 負けは負け。

 ルサはその点はあっさりとしていた。

 負けた山河の住人たちの恨みを買うこともあったが、ルサは取り合わなかった。

 そもそも「人ならざる者たち」は人数が少なく、山河の防衛戦もその土地の地形を頼りに行わねば人間の数と軍事力には対抗できない。

 取り返すような余裕は無かったのだ。


 そんな事を繰り返すうち、ルサたちは幾多の戦闘経験を積むことになる。

 派遣する人員の軍事指導力も上がり、いわゆる歴戦の猛者たちが多く育った。


 そして。

 時が経つに連れて、戦後の勢いが人間たちから失われていった。


 新たなフロンティアはやがて生まれなくなり、人間たちの領域と「森に棲む者たち」の領域は、だんだんと固定化されていく。


 その頃には「森に棲む者たち」は一つの勢力として人間たちに認識されるようになっていた。

 人間たちの政治には積極的に関わらないものの、山河を侵す場合には徹底的に抗戦してくる第三勢力。彼らはいつしか「山河の義勇軍」と呼ばれるようになっていた。


 戦闘は絶え、人間たちとの関係は小康状態に入る。


 ルサが森に来て、人間たちと攻防戦を繰り広げてから80年以上(ルサや「森に棲む者たち」の時間感覚を人間のそれに置き換えても8年以上)が過ぎ、深手を負った森もついに回復した頃。


 慌ただしい時代はいつの間にか過ぎ去っていて。

 戦時指導者として有能だったルサの立場が、その価値を失い始めた。


 時代が変わったが、まだ指導者は以前のまま。

 政治を考えなければいけなくなってきたのに、リーダーとして立つルサの本質は軍事の前線指揮官だった。


 見えないところで、様々な歪が生まれ始めていた。


 そのような時期に、人間たちの国が突如、大波乱を迎えるのだが。


 それはまた、別の話。

引き続き、第四話第三章「ある春の日」をお楽しみください。

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