◇ 閑話休題その4 スヴェシに関して ◇
前回初登場した主教「スヴェシ」の紹介。
完全に悪役の彼。
しかし、彼が好んでいるものや、その行動原理になっている欲求はかなり意外なものだったり……。
キキさんやハクなど、作中人物が決して知ることのない、彼の心の内を紹介します。
幼いころに、ハクの作った氷結晶を見たことが、スヴェシの人生を決定づけた。
彼に氷結晶を見せたのは、ハク付きとしては二代目の主教であったスヴェシの祖父だった。
氷結晶は、国教会にとっても秘跡中の秘跡。本来ならば、例え主教の孫であっても子供が見られるものではないが、しかし彼の祖父は非常におおらかな性格の人物だった。
幾何学的に、立体的に、透かし彫りを施されたその氷結晶はあまりにも美しく。
少年スヴェシは魅了される。
以来、スヴェシは迷いの森があるレビリンリェス地区の主教となるべく努力を始めた。
主教という地位は、その土地の信者と聖職者の推薦、そして他区域の主教三人以上の支持を得て初めて叙聖される。決して血統で選ばれるわけではない。
スヴェシは自身の能力と努力、さらには祖父の持っていた人脈までも活用し、時には対立候補に凄惨な政争を仕掛けることすら躊躇わず、若くして主教の座を勝ち取った。
その過程において、彼の知力、精神力は鋭く磨かれることになる。
人々を導く宗教的指導者としての責任感が弱いわけでは決して無い。
だが、彼をそこまで突き動かしたのは、氷結晶をもう一度見たいという想い。そして、それを創った魔王の娘に会いたいという憧れであった。
主教として初めてハクと対面した日。
彼の魂は夢を叶えたことで舞い上がる。この時の興奮は、後に彼の行動の原動力となった。
しかし、昂りのままに振る舞えば、スヴェシは早晩に失脚していたであろう。
彼の最も強い願いであり、心を激しく昂ぶらせる妄想は、氷結晶を我が物にしてしまうことだったが、そのような横領を国教会が許すはずもない。
超人的なまでに鍛え上げられた精神力を以ってこれを制御したからこそ、スヴェシは宗教的指導者としての役目を完全に果たし得た。
スヴェシにとって、主教の位は手段である。
最優先の目的は、氷結晶と、創り手のハクのもっとも近くに居ること。
主教として人を導く事への責任感も他の神品(聖職者)以上に強いが、しかしそれは氷結晶よりも優先されることは無かった。まして現世での出世や、国教会という組織内の政争など、スヴェシの中ではただ目的を果たすための手段でしかなかった。
そのため、能力的優秀さと、(周りからは)宗教的使命感(として見られている情熱)を評価され、いつかは国教会のトップである総主教の座に登り詰める可能性があったにも関わらず、スヴェシは出世レースには目もくれなくなり、異例の長期に渡りレビリンリェス地区の主教の座にあり続けることになるのである。
そんなスヴェシだが、己が魂の昂りを制御しきれなかったことが、二度ある。
一度目は、ハクに氷結晶を定期的に創らせるという提案を、国教会上層部へと上げた事。
本来、氷結晶は氷の種族を下の大地へと導いた、国教会にとって禍々しいものであった。
そのため、宗教的理由から必要な時にのみ限られた数の氷結晶をハクに創らせるだけだった国教会に、定期的に作成させるよう仕向けたのはスヴェシである。
理由は、もちろん氷結晶を見、触れる機会を増やしたかったから。
もう一度は、形骸化していた「砦改め」や砦跡の整備に関しての義務からハクを開放し、氷結晶作成に集中させるという案を出したこと。
砦跡の整備義務は、もともと勇者の言いつけでもあったためさすがに廃止は承認されなかったが、既に氷結晶の経済的価値に眼がくらんでいた国教会総主教庁の意向もあり、アルバイトを雇いこれを委任するという許可が降ろされることになった。
氷結晶の経済的価値は総主教府を始めとした国教会を増長させ、資力増強に舵を切る第一歩となり、砦跡に務めることになった家政婦は、それまで国教会に屈服するしか無かったハクの精神に少なからぬ影響を与えるのだが、そのような些事にスヴェシは興味を抱かない。
そして。
ついに欲望を制御できずに、ある行動を起こすのだが。
それはこの時点ではまだ未来に属する話である。
ハクが砦跡に幽閉されて以来、四代目にして最後の主教となるスヴェシ。
宗教的指導者としての役割を超える情熱をハクと氷結晶に注ぎ、人間としてそこに最も近づく事ができる地位を、スヴェシという稀有な人物が勝ち取った。
それが物語の最後、どのような意味を持ち、誰にとっての幸せに繋がるのか。
世界に。歴史に。どのような影響をおよぼすのか。
それはまだ誰も知らない。
次いで、第二話エンディング「氷結晶」をお楽しみください。
あくまで第二話のエンディングであって、物語はまだまだ続きますので、よろしくお願いします。




