表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
便利屋『魔喰』の怪日々録  作者: 葉劉ジン
第1章 便利屋『魔喰』
15/15

死神は願う

エピローグの続き

 神秘的な光輝く黄金の神殿広間。

 装飾品など要らんとばかりに何一つも置かれていないが、それでも十分すぎるほど美しい建築美。

 まさに、神々が住まう神殿と言えるモノだった。

 だが、今は無数の背から真っ白な翼を持った甲冑を纏う兵士、天使達の死体が転がっている。

 首がない、真横に縦に断ち斬られていたり、手足を全てへし折られて殺されている者もいる。

 誰一人生かさない、逃がさない、という殺意が感じ取れる。

 そして、その凄惨と言える光景の側では、数多の天使達が何かと戦っているようだ。その相手はこの惨状を生み出した張本人()

 数という圧倒的力を物ともせずに、蹴散らす二人。

 傷だらけの黒髪の少年と銀の髪色を持った女性。

 憎悪と殺意を放つ少年は襤褸切れのような外套を羽織り、光すら呑み込むような黒く禍々しい黒刀を振るう。

 その隣では美しく気高い高貴な雰囲気の女性が、赤く輝くパルチザンと呼ばれる幅広で大型な三角形の穂先を持つ長槍を片手で軽々と速く豪快に振り回す。

 二人ともその背をお互いに預け、怒濤の勢いで襲いかかる天使の軍団を一撃で屠っていく。

 その動きには疲労すら見えず、底すらも見えない。

 異常すぎる強さの二人。ここが通常の戦場であれば、相手が降参か皆殺しにされて終わっている。

 しかし、相手は神の使いである天使。その数を段々と増えていく一方で、何度殺しても減ることがない。

 底知れぬ圧倒的物量と圧倒的個の暴力。

 永遠と続くと思えるほどの両者の戦いだったが、唐突にピタリと止まった。

 天使達はその場で平伏し、少年と女性は天を見上げる。

 そこには、一柱の神がいた。

 神々しいまでの後光を背にし、見惚れるほどの美しい完璧な容姿。放たれる威圧感は、貴く偉大。それは、たとえ傲慢無恥な王であろうと恐れ戦き地に伏してしまう。

 他を寄せ付けない圧倒的な神秘の存在。

 この世界の本当の頂点が、そこに降臨していた。

 その美丈夫の男神がゆっくりと口を開く。


「我が名は、ゼウスなり」


 ―――ゼウス。その名は最も知名度の高い神の名。

 ギリシア神話上に登場する神の一人であり、全知全能を司る神。

 全宇宙と天候を支配し、人と神の秩序を守護する天空神。

 オリュンポス十二神を始めとする神々達の主。

 神雷『雷霆』を操る、絶対的強者。

 それがこの男神、天空神にして神の王ゼウスであった。そして、平伏しない片方、黒髪の少年へ視線を向けて言う。


「人よ。我が城で暴れた事、我は咎めはしない。手っ取り早く我、このゼウスを呼ぶための事だろう?であれば、我は赦す。我は寛大だからな。それで、我の下に何用なのか述べるが良い」


 だが、ゼウスはまったくと言って良いほどに怒っている様子がなく、高圧的な口調ではあるが穏やかな雰囲気であった。慈悲深いと言われただけあるが、流石に程度があるだろう。

 オリュンポス十二神の主神は心が広すぎである。

 それには少年も、ポカンと口を開けて信じられないといった表情をしながら、隣に並び立つ女性に顔を近付けて聞く。


「………おいおい、マジかよ。アテナ、お前の予想通りの反応だぞ………。なぁ、お前の親……主神がこれで本当に良いのか?ちょっと、不安になったんだが………」

「し、心配ない……と思うぞ?」

「いや、そこは自信を持って答えてくれよ……」


 目が泳ぐ不自然な女性に、少年はジト目を向けながら呟く。そこには、あの天使と戦っていた時のような憎悪と殺意を振り撒いていた姿はない。

 親しげな雰囲気で二人は、至近距離で話している。

 それを何か勘違いしたゼウスから憤怒の気配がして、少年と女性はバッと離れる。すると、ゼウスの憤怒がスッと収まっていった。

 少年がホッと安心して胸を撫で下ろすと、気を取り直し少年が頭をガシガシとかきながら口を開く。


「あー、無礼承知で頼む。俺の『特別』を、レナを生き返らせてくれ」


 そう言って頭を下げる少年。


「私からもお願いします、父上いえ、我が王」


 同じように隣にいる女性も、頭を下げて言った。

 二人の願いを聞いたゼウスは見定めるように、静かに少年を注視する。

 重苦しい沈黙。

 もう何時間もそうであったかのような気疲れを感じれる三十秒がゆっくりと経ち、駄目かと思った少年が頭を上げようとした時、


「ふむ。条件付きなら、良かろう」


 微笑を浮かべたゼウスはそう答えた。

 少年は目を見開き呟くような声で言う。


「………良い、のか?」

「あぁ、良いとも。条件付きだがな」

「それでも、それでも良い!ありがとう、感謝する!」

「クハハハハッ!良い良い。久方ぶりの人からの心からの願いだ。それがたとえ、世界の理外の行為だとしても、叶えてやるのが神だろう」


 〈それに、だ。地獄のような人生を歩んだ少年には、どうか幸せになって欲しいからな〉


 年相応に無邪気な笑みをして嬉しそうに喜ぶ少年を見つめながらそう思う。

 あのような憎悪と殺意をもう二度と持つこともなく、ただの人として生きて欲しいと。

 人と神々の秩序を護る者として、ゼウスはそう思った。

 その気持ちは少年と共に来た女性も同じであるが、それを今は表に出す訳にもいかず諌めるような口調で少年へ言う。


「おい、喜び過ぎだ。まだ、ゼウス様から生き返らせる条件とやらを教えて頂いていないのだぞ?」

「あぁ、そうだったそうだった。悪い、またアイツと会えると思うとつい、な」

「まったく、仕方ない奴だな」


 恥ずかしそうに少し赤くなった少年は頬をかく。

 その様子に女性は笑みを溢しつつ、傍観しているゼウスの方を横目で見る。

 背筋が凍るほど冷えきった目で。

 内心大慌ててしながらわざとらしく咳払いをして、平伏していた天使達を下がらせゼウスが喋り出す。


「さて、人よ。生き返らせる条件だが、かなり難しく厳しいモノだ。何時終わるかも分からない。だが、お前は断る事を出来ない、必ず受けるだろう」


 二人と一柱の神だけとなった神殿広間。

 戦闘により残った傷も、無数の死体も消え失せて、何一つ物がない広く静かな場所となっている。

 ゼウスは声を響かせながら続ける。


「それは、記憶の探索。ある者に奪われたお前の『特別』の記憶を探し出す事だ」

「………その『ある者』とは?」

「お前がよく知る、いや、憎む者だ」


 ゼウスがそう口にした瞬間、少年の身体から黒いオーラと共に、空間を軋ませるほどの壮絶な覇気を放出した。

 ここにはいない、ある者への強い憎しみ。

 神々を統べるゼウスですら息を呑むほどの感情の暴風。

 だが、それも一瞬のことで少年の深呼吸と共に収まった。


「ふぅ………悪い。騒がせた」

「別に気にするでない。では、続けるが、そのある者はハデスが管理する記憶の保管庫からその記憶奪い、物質化させた。十の欠片へと、な。そして、世界中の何処かに隠したのだ。また、その理由が『彼ともっと遊ぶため』というふざけたモノでな……!」


 ゼウスは怒りで身体を震わせながらそう言い切った。想像でしかないが、記憶を奪われる際に何かあったのだろう。

 それが何なのかは分からないが、少年はその気持ちは理解できると思った。


「それで、俺はその記憶を集めれば良いんだな。そしたら、レナは生き返らる事が出来る………」

「いや、生き返らせる事自体には、記憶はいらん」

「は?なら、何で集める必要が……」

「大事な者の記憶が無くても良いのか?」


 ゼウスの問いに少年は何も言えなかった。


「それに、奪われてばかりでは悔しいであろう?」

「それ、はそうだが………」

「ならば、取り戻してこい。なに、時には待つだけでなく、迎いに行くのも良いぞ」

「………あぁ、そうだな。分かった、その条件を呑もう!」


 少年は真っ直ぐ逸らすことなくゼウスの目を見る。

 覚悟の決めた男の瞳を。今度こそ、この誓いを果たすという強い意志が宿った瞳を。

 ゼウスは不敵に笑うと、高らかに叫んだ。


「よし、ここに我とお前の契約は成った!では、お前の『特別』を蘇らせよう!」


 広間の中心。少年と女性、ゼウスの間に黄金と純白の極光の柱が立ち上がる。

 神秘を極限まで秘めた、美しい輝き。

 少年がそれを呆然と眺めていると、光に反射して銀色に輝く長い髪を揺らし女性が、アテナが真剣な表情で聞いてきた。


「お前はこれで良かったのか?」


 少年は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑みを浮かべるとこう返した。


「さぁ、どうだろうな?」


 少年は少し哀しそうに嗤っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ