ハルルシア、家庭菜園を始める。
タイトル通りの回になっています。(いつもお読み下さりありがとうございます!)
それから、一週間の時が過ぎて。今日の日付は春の月、三十六日。春の日の光が暖かい良い天気じゃ。(ちなみに、この世界では春夏秋冬を、それぞれ月の名とし、一月は六十日あるそうじゃ。一年、二百四十日と言う訳じゃの)
念の為にと、あれからも養生させられていたワシは今。家(と言うより豪邸じゃわい)の前から、用意して貰っておいた野良仕事用の服を身に着け、庭師頭のお爺さんであるベンジャミンさん(しかし、ベンジャミンさんと呼ぶのは長いので、ワシはベンさんと呼ばせて貰っておる)そして、ワシ付きのメイドさんのアメリアさんの三人で空いている花壇までやって来た。
花壇は家の正面玄関から見て右端。目立たない場所にあった。
畳ニ帖分位の長方形となっている場所が二箇所空いていたのじゃが、他にも数日前。家の裏を散歩がてら歩いてみたら案外陽のあたる場所もあったので、そこも使わせて貰おうかと思っていたりする。
ま、とりあえず花壇の二箇所は家庭菜園と言うのに丁度良い広さじゃな。
「さてと、それじゃあ始めますかいのう」
ちなみに。他の家族は今日はおらんのじゃ。お父さまは仕事。お母さまは今日はどこぞかの侯爵家のお茶会に以前より招かれていた為『こんな事なら欠席のお返事を出しておけば良かったわ…』と言いながら少し前に出掛けて行って、お兄さまも『僕もリューと剣術の稽古の約束するんじゃなかったなぁ』と。お友達との約束の為、出掛けて行ったのじゃった。
「ふむ。こっちは直ぐに耕しても大丈夫そうじゃな。どれ、よっこら――…」
土の状態を見て、畑(花壇じゃが畑と呼ぶ事にしたよ。ややこしいからのう)を耕すのに鍬を持とうとしたが。
「…――しまった!!」
幾ら身体能力が上がった(らしい)とは言え普通、鍬を持つのは大抵大人な訳じゃ。
「は、激しく使い難いわい!」
三歳児のワシ。身長も体重も普通の三歳児と変わらん訳で、女神様の恩恵で鍬を持つ事は出来ても扱い難い事この上なかった…! なんたることじゃ!
「いやー、お嬢様は力持ちですなぁー。あー、そうじゃ、お嬢様ー。わしが花壇の土を耕しますからー、お嬢様は隣の花壇の草抜きをアメリアちゃんと、して下さいますかのー? なぁに、老いぼれでもこん位の花壇耕す事位、容易なもんですじゃー」
「ベンさん、すまんのう。ワシには難しいし、お言葉に甘えてよろしくお願いしますのじゃ」
「カッカッカ! 任せて下されー!」
「おお! ベンさん、頼もしいのう!」
「お、お年寄りの会話にしか聞こえないのは何故なのかしら?」
そりゃ、今のワシは年寄りに近いからじゃ、アメリアさん。
カラカラと笑い『任せてくれ』と言ってくれたベンさんの言葉に甘える事にし、鍬をベンさんに渡したワシは、アメリアさんと少し離れた隣の花壇に移動したのじゃった。
「さあ! それじゃあ、やりますかいの。アメリアさんや、持って来た袋を広げけてくれるかの? そうじゃ、開いた口の方は終わったら縛るから、袋半分位まで草を抜いたら次の袋を開けて下され」
「かしこまりました」
開いた袋(スーパーで使う位の大きさのビニール袋と同じ位の大きさの麻袋じゃった)を傍らに置き、小さな軍手をアメリアさんに手渡された。
「おお! ワシの手にピッタリの寸法じゃ! 態々用意して置いてくれたのかの? ありがとうのう、アメリアさん!」
「いいえ、お嬢様のお手に合わせた物をご用意するのは当然の事です。勿体なきお言葉です」
ワシの言葉遣いにも慣れてきたようで、アメリアさんは綺麗な紫の瞳を細めて微笑んだ。ふむ。アメリアさんは、べっぴんさんじゃのう。
「ふう、まずはこんなもんかのう」
花壇二箇所はワシとベンさん、アメリアさんの三人により、小さな畑二箇所となった。
今日のところは草取りと、耕した土に肥料を混ぜたところで終了じゃ。明後日辺り、天気が良ければじゃがの。
養生している時、ベンさんと相談していた野菜…枝豆と小カブとミニ大根、ジャガイモ(そういやぁ、都季が好きじゃった野菜ばかりじゃのう)を植える予定となっている。
おお、そうじゃ。ジャガイモは、すぐには植えん方が良いのう。種芋を切っておかなきゃいかん。確かニ、三日お日様の光に当てると芽が育ちやすいんじゃった。
明後日辺り、晴れれば(種は取り寄せて置いて貰っているからの)他の野菜は種まきが出来るのう。楽しみじゃ!
「お嬢様、楽しそうですね」
丁度、昼頃の時間帯になり、鍬などの道具の片付けをしておいてくれると言うベンさんを見送って家に向かう時。雑草の入った袋を持って隣を歩くアメリアさんに言われて、ワシは自分がニヤニヤしていた事に気がついた。
「フォフォフォ、明後日が楽しみでの。浮かれてしまっていたのが顔に出てしまったようじゃのう」
照れ笑いを浮かべたワシにアメリアさんは――…
「そうでしたか。明後日、楽しみですね。私もまた、お嬢様の野菜作りのお手伝いをさせて下さいませ」
…――何だか嬉しそうな様子で答えたので、ワシは大きく頷き、土を落としてから家に入るのじゃった。
『わぁ! ふかふかの良い土になって良かったねっ! あの子、明後日って言ってたよね? 明後日また来るのかなっ? ふふふっ、ボクも楽しみ〜!』
ワシらが畑を後にしてから。『そう言やー、小さな緑色の光がフヨフヨと畑の周りを八の字に飛んで消えた所を目撃したのですじゃー』と。
この日、ジョウロを片付け忘れて畑に戻ったベンさんから。その事を聞いたのは少しばかり後の話となる。
ここまでお読み下さりありがとうございます!!
次回辺りか、その次辺りにメインキャラ(ベンさんはサブキャラですので/笑)の新キャラが出る…予定です。