ハルコ婆ちゃんの記憶を持つハルルシアと、家族の話。
基本短めで書いているのですが、今回長ゼリフがいくつかある為、そして誰だか丸わかりの人物が関わる会話が少し入るので、少しだけ長いです^^;
後程、加筆修正予定です。
「ハルルシア、お父様達にお話とは何かな?」
アメリアさんに茶(紅茶じゃの)と、茶受けを用意してもらっていると。
お父さま、お母さま、お兄さまがワシの部屋にやって来た。
「お呼び立てして申し訳ないのう。実は…うっ」
お? おおお…なんと。お兄さまは攻略対象者だったようじゃな。早速、女神様のご加護が発動しおった! 頭の中に何やらお兄さまの情報が入って来たぞ!?
乙女の為のゲームでの基本的な情報なんじゃろうが一気に流すのは止めて貰えんかの。
ワシ、前世の時は車でも酔わん体質じゃったのに、ちいとばかし酔いそうじゃ。
たたらを踏むワシに兄が走り寄り、転ばぬように助けてくれた。
「大丈夫? ハル」
「おお。すまんのう、お兄さま。助かったのじゃ」
ニコリと笑って礼を言っただけなんじゃがのう。
「「「……」」」
…――む。なんじゃ? 場が凍りついたように皆動かないぞ。
「し、失礼致します。お、お茶のご用意が整いました」
「おお、ありがとうの。アメリアさん」
「お嬢様。他に何か御用はございますか?」
「ふむ、特に無いのう」
「それでしたら、私は部屋の外に控えておりますので、御用の際はそちらのベルでお知らせ下さいませ」
そう言い、ワシのベッド脇の小さな机の上にあるベルの存在を知らせてから、お父さま達にも頭を下げて部屋から出て行った。
普段は部屋に残ってワシの相手をしてくれたりもしていたが、今はワシが皆に話があると言ったから気遣って出てくれたんじゃな。出来るメイドさんじゃ。
「さて、立ち話もなんじゃしな。皆様座って頂けますかな?」
やはり目を真ん丸にしている皆。ワシは日当たりの良い窓側に設置されていたまま、殆ど使った事のなかった四人がけのテーブルセットへと皆を促した。
「いよっ、こらしょ…おお、お父さま。手伝って下さりありがとうございますの。いやー、あまり使わんかったから、椅子が高めな事を忘れておりましたわい! ふぉふぉふぉ」
椅子によじ登ろうとした所を、お父さまが抱えて座らせてくれたのでの。礼を言ったら、戸惑った様子を見せながらも頷いてくれた。
「あ、あの、ハルルシア? それで話したい事とは何かな?」
「そうね、早速用件を聞いた方が良さそうね。まだ調子があまり良くないみたいだし…」
心配そうな顔をする両親。いつものハルルシアなら“ワシ”のような話し方は間違ってもしないじゃろうからな。うぬう。どうしたものか?
以前のハルルシアの話し方も出来ぬ事はないが――…今更変えるのもなぁ。やっぱりワシは、この言葉遣いの方が楽じゃし。
考え込むワシの横に座っていた兄が――…
「あの、君はハルルシア、だよね?」
…――そう問い掛けてきた。
その言葉の後、両親もワシを見ていた。
「……」
彼らは悪い人達でないと言える(ハルルシアの記憶もしっかりある今なら、そう言えるわい)。
じゃが。もしかしたら、頭がおかしくなったのかと思われてしまうかもしれん。いや、既に思われているかものう?
むむむ、どうしたものか。
おかしくなったと思われておった場合は…そうじゃのう。ガードレッド家には居られんようになるじゃろうな。
エルシオンのワルガキに意趣返しは出来んが婚約は解消されるじゃろうし、その後は遠くの親戚に預けられるか、孤児院辺りでお世話になる事になるのかもしれんなぁ。
しかし、ずっと“前世”について隠し続けるのはワシの性には合わんしな――…
「うむ。ハルルシア・ガードレッドじゃ。ただのう、信じて貰えるかは解らんが…聞いて貰えるかの? ワシな、この間エルシオンさまに池に落とされたじゃろ? その時に前世の記憶が蘇ったみたいでのう。まず、その前世での名は――…」
ワシは思い切って家族の皆には打ち明けてみる事にした。
乙女の為のゲームについては、ワシもよく解らんかったから伏せて置いたが、日本人の新堂ハルコの記憶がある事、ハルルシアの記憶もちゃんとある事などを打ち明けた結果は――…
「まあまあまあ、百二歳ですって!? ハルコさんは凄い長生きだったのねえ! ハルちゃんの記憶もちゃんとあるのね? 良かったわ〜、母様達の事もしかしてハルコさんの記憶が蘇ったから忘れられちゃってる? なんて内心ハラハラしたのだけれど安心したわ」
すまぬ、お母さま。目覚めたばかりの時は、ちいとばかし…お父さまも、お兄さまもじゃが解らんかったんじゃ。
「えっとー、あのう。ワシは今後どうなりますかいのう?」
何やら、思っていたよりもな? かーなーり、あっさりと信じてくれているように見えるんじゃが、どうなんじゃろ? 信じてくれたなら嬉しいが…むむむ。
「うん? 今後とはどういう意味だい?」
「ですから、そのう…ワシは、この家に居ても良いんですかいの? もし出ていかなきゃならんなら――…」
ワシは自分が異質な事は、もう理解しておる。だから、異質と判断され家を出されても仕方ない事じゃと考え、そこまで言い掛けた時。
「ハル、何言ってるの! 君は僕の妹だ! 出て行く必要なんてない! ハルコさんて人の記憶を持っているとしても、君は“ハルルシア”だ。変わらず僕の妹だよ! っ、ごめんね、僕の聞き方が悪かった。ハルコさんの記憶もあるからだとは思うけど。その…おかしな話し方をするようになったけれど、ハルルシアは明るくなったし、僕と目が合っても、嫌そうに目を逸らさないでいてくれるようになって――…嬉しかったんだ」
「お兄さま…」
あ。そう言えば『お兄様は優秀でいらっしゃるのに、妹君は冴えないわねぇ』やら『ラギル様とハルルシア様って、あまり似ていらっしゃらないのね。あのラギル様の妹様なら、もっと愛嬌のある可愛らしい方だと思っていたのに、まるでお人形のようですわね』などなど。
ワシは、いつもお兄さまと比べられるのが嫌で…お兄さまが悪い訳ではなかったのも解ってはいたが、いつからか家でもお兄さまを避けるようになり、会えば気まずさ(別に嫌とは思ってなかったんじゃがの)から視線を合わせる事もしようとしなかったのう。
「すまんかったのじゃ。ワシ、お兄さまの気持ちまで考えておらんかった…ワシの態度は、お兄さまを傷付けていたのう」
これからは仲良くして欲しいと言うのは虫がいい話かのう? そう迷っているワシの手を、隣から小さな温かい手が掬い上げ、その手にワシの手は優しく握られた。
「そうだよ! だから…だから。これからは僕と、たくさん仲良くして欲しい」
だめかな? と問うお兄さま。駄目なもんかい! ワシはブンブンと頭を左右に振り、その手を握り返す。
「駄目じゃないわい。ワシこそ仲良くして欲しい。お兄さま、よろしくお願いしますのじゃ!」
ワシ達は、この時。初めて、しっかりと互いに目を合わせて笑い合った。
「おやおや。ラギルに先を越されてしまったね。ハルルシア、君は私達二人の大切な娘だよ。何があっても、それは変わらない」
それから、お父さまは驚くべき事を語った。“前世の記憶保持者”は過去にも何人か居た上、最近では三年前にも現れているらしい。(どこの誰とまでは教えてはくれんかったが、少なくとも今知る必要はないのじゃろ)だからかの、ワシの言葉をあっさり信じてくれたようじゃった。
「そうだなぁ、ハルルシアの話し方がお婆さんみたいになろうと、記憶の影響で急に大人びてしまったとしても。君は私達のハルルシアなんだよ。あっ、もちろんラギルも大切な息子だぞ。その事に変わりはないんだ。だからね。正直行かせたくはないが…安心して、お嫁に行くまで家に居なさい。いいね? 私達の可愛いハル」
お母さまがお父さまの言葉にしっかり頷き、お父さまは椅子から立ち上がり、ワシとお兄さまの頭をポンポンと優しく軽く叩いた。
なんじゃあ、もう…こんな事、言われたら。
「くひっ、ま、ったく。いかんの、う。年を取ると弱くなって…いかんのう…うっ、う」
皆の優しい気持ちが嬉しくて。ホロホロと次から次へと溢れ出て来る涙をお母さまが『ふふふっ、あらあらハルちゃん。可愛らしいお顔が台無しじゃないの。さあ、涙を拭きましょうね』と、ワシの横に来てから。優しくハンカチで涙を拭ってくれた。
前世の時も家族には恵まれてきたと思うが、今世でもそれは変わらんかったようじゃ。
(温かい、のう。ありがたいのう――…)
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「ふんふん♪ まずはぁ、家族仲の改善とぉ、お兄チャンとの確執を回避だねっ! この調子で頑張ってねぇん☆」
「すみませーん! 下界ばかり見ていないで仕事して下さいよー! ほらっ、見て下さい、この書類の束をっ!」
「わあー! ぶっ厚ぅい! はいっ、見たよ!」
「へ、屁理屈だ…。あのー、余計な事かもしれませんが、あの転生者…前世の記憶保持者に何かあるのですか?」
「んー? べっつにー? 何もないんじゃなぁい? さーてとっ、お散歩でもして来よーっと!」
「あっ!? ちょっ、どこに行かれるんですか!?」
「ちょっと、そこまでっ☆」
「えっ!? ええぇええ! お待ち下さい〜っ!!」
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ここまでお読み下さりありがとうございます!!
家族とのほのぼのエピソード(ハルコ婆ちゃんの記憶がまだ無い、少し前のハルルシア三歳視点も含め)も、どこかで入れたいと思います。
色々詰め込んでるせいか中々、婚約解消まで辿り着かない…!! 次回ようやく解消へ話が動きます。動くけど、ある意味まだ解消にはなりませ、ん…すみません。