ハルコ婆ちゃん、ハルルシアになる。
後ほど加筆修正します…!
『ばあちゃん、ばあちゃん! 見てみてー! ついに、リュシオン様がデレたよー!』
末の息子の孫娘であり、ワシの可愛いひ孫の都季が、それはもう上機嫌な様子で、すりーでーえす? とかいうゲームの機械の画面をワシに向けて見せてくる。
それを受け取り、画面をじーっと見てみれば。
うむう、りゅしおん様とやら―…金色の髪を一つにくくり、目は青い。どうやら異人さんのようじゃ。身なりは…白と金を基調としたキラキラした軍服を身に着けておる。
りゅしおん様とやらは軍人さんなのかの? そんな彼は照れた様な顔で口元に笑みを浮かべておる…ようじゃの。
はっきり言えないのは目の老化のせいで三重に、ぼや〜っとしか見えんからじゃ。ワシの老眼鏡はどこだったかの…うむう、見当たらんな。
ぼや〜っとしか見えん、りゅしおん様をもう一度見て、都季の嬉しそうな顔を見てワシも笑った。
『ほうほう、良かったのう。都季ちゃんは、本当にりゅしおん様が好きじゃのう』
そういや、思い出したぞ。何日か前にも口をへの字に曲げたりゅしおん様を見たのう。その時も、男前な異人さんじゃと思ったのじゃった。ふむ、ワシも年だからの、忘れておったわ。
ぷるぷる震える手で、すりーでーえす(ゲームの機械は意外と重たいのう)を都季に返す。
『うん! あとね〜! ロイド様と、グレン様とー、ラギ様も好きー! でも、エルシオンはキラーイ!』
『ほう、嫌いな人も居るのか』
『うん、エルシオンも攻略対象だけどアイツ性格最悪なんだー。途中で攻略止めちゃったー!』
(…――ああー、確かにのう。都季の言う通り、性悪じゃの)
ふむ。何故かワシは見た事も無い筈(…都季に見せて貰ったのかもしれんが、とんと覚えとらんのう)の“えるしおん”とやらを嫌う都季に同意の意を示していた―――…。
「む。ここ、は…?」
パチりと両目を開けたら見覚えの無い天井が見えた。しかし、随分高い天井だのう。
「お嬢様…!? お目覚めですかっ! お嬢様が目を覚まされました! 貴女は、すぐにお医者様と旦那様、奥様にご報告を!」
「は、はい! かしこまりましたっ!」
バタバタと誰かが掛けて行く音をぼんやり耳にしながら。ワシは、いつの間にやら寝ていたらしい、ふかふかのベッドの上で『あ、よっこらせぇ…』と、年を重ねる毎に重たく感じるようになった体を起こした。
…んん? 今日は重い感じが全然無いのじゃが?
不思議な事もあるのう、と。首を傾げると――…
視界の端に、ふわふわとした明るい色の長い髪の毛が揺れた。
「む?」
それは、りゅしおん様程ではなく、少し翠混じりの金色の髪…じゃと? それに――…
「な、なな、ななな…」
ワシの手! しわしわだった筈のワシの手、手がぁああっ!! 小さくて可愛らしい紅葉の様なおててになっておるじゃとーっ!!?
ぷるぷる震え出した、ワシに『大丈夫ですか!? お嬢様、お気をしっかり! 今、お医者様がいらっしゃいますからね!』と。
テレビで見た事がある、メイドカフェーの給仕さんが声を掛けてきた。
はて? なんで、わしはメイドカフェーに居るんじゃろうか?? それに『お嬢様』? ああ、メイドカフェーじゃからかの?
…――しかし、やっぱりおかしいぞ。
掛け布団を捲ってみれば、白くて小さなあんよが二本。プラプラと足を動かせば――…
「ふえぇええぇ!? わ、わわわ!?」
…――しっかり、動くぞ!? つまり、ワシのあんよかっ!?!
「なんだ、今の声は! どうしたんだ!? ハルルシア! 大丈夫かいっ?!」
「ハルちゃんっ!? 先生っ、先生! お早く! ハルちゃんを診て下さいませ!」
「は、はいいぃ!」
バタバタと慌しく、見知らぬ大人達(なんと!? 全員異人さんじゃー!! ハッ!? 給仕さんもよく見たら髪は黒いが目が紫!!)が部屋に入って来た。
「ハルルシア!! ああ、可愛い私達のハル!! 良かった、目が覚めたのだね!!」
おおう。優男風な見た目の割に声量がある、お若いのにギュッと抱き締められたぞ。ん? お若いのは…もしや、ワシの父親?? いや、待ってくれ。ふとそう感じたが、ワシの父は黒髪黒目の日本人だった…だった?? うむむ…。
「ハルちゃんっ、良かった! 目が覚めて本当に良かったわ!! 私、心配で…うっ、ううっ―…」
おう。ワシと同じように長くてふわふわの翠混じりの金髪の可愛らしいお嬢さんが泣き笑いのような顔をしたかと思うたら、泣き出してしもうたではないか。うぬう、涙を拭ってやろうにも手が届かぬの。どうしたものじゃ。
「母様、泣かないで下さい。ハルも心配していますから。 どうぞ、これで涙を拭いて下さい」
おおう。大人達で見えんかったが、小さな坊も居たんじゃの。半ズボンのポケットから白いハンカチを取り出し、お嬢さん(何となくだが、お嬢さんがワシの母のような気がして来たのじゃが…うむむ。おかしい。ワシの母と言ったら黒髪、黒目じゃった…筈じゃ。しかし――…むむむむ)に手渡しているではないか。小さいのに、しっかりしておるのう。
「え、ええとー、そろそろ、お嬢様の診察を始めても宜しいでしょうかぁ?」
若いの(父かもしれん?)や、お嬢さん(母かもしれん?)達の後ろから白衣を着た青い短髪に糸目の青年が、オロオロとしながら声を掛けて来て、彼らはワシと青年から少し距離を開けた。
「では、お名前は言えますか?」
「あー、はる…はるるしあ?」
と、呼ばれておったの。それに、その名が何故かしっくりくる。
「はい。次に、貴女様のお年を教えて下さい」
「らいげつで、百三さ……む。三さい(くらいかのう。この見た目ならば)」
「ん? 百は言い間違いかな…? ええと。それでは、ここがどこか解りますか?」
「……びょういん?」
メイドカフェーにしては広いし、他のお客さんは見当たらんし、両親と兄(小さいが、今のワシよりは年上じゃろう)らしき人も居る。
「こちらはガードレッド邸のハルルシア様のお部屋です。まだ、目覚めたばかりですから、少々ぼんやりとしていらっしゃるのでしょう。さて、ハルルシア様。貴女様は三日間、熱に魘されておりました。どうしてかは覚えておられますか?」
「三日も…」
それは、この小さな体には酷な事じゃったろうに。まあ、老体にもきついがの。
原因、原因か――…はて。
「――…たしか、おしろで…」
そうじゃ、ワシは――…わたしは、お父さまと、お城に行った。
謁見の間で婚約者となった王子…エルシオン様と初めて顔を合わせて――…
天気も良いから、わたしに庭を案内してあげなさいと王様に言われたエルシオン様は、つまらなさそうなお顔だったけれど従者の方と一緒にお庭へ案内してくれて、そこで――…
『お前みたいな、にんぎょうみたいに笑わない、喋らないつまらないヤツなんかと、おれケッコンしたくない!』
む。
ふと、脳裏に金色の髪、水色の目の顔立ちの良い小さな男の子(何となくじゃが、りゅしおん様と似ているような? 目の色が若干違うがの)が、目を吊り上げて近づいて来て――…
ドンッ、と。両腕で、わたし…ワシを突き飛ばしたんじゃ。
それだけなら、ワシは尻もちをつくだけで済んだのじゃが、運悪く。後方には小さな池があった。
そこへ、ワシ…わたしは落とされてしまった――…
「っ、く!?」
…――うむ。頭が少々キリキリする上、目が回りだして来たのじゃが何やら色々と思い出して来たぞ!
とりあえず、あの坊主。小さな女の子を突き飛ばしたんじゃ、池に落とすつもりは無かったのだとしても。とっちめてやらなければならんの!
「ハルルシア!?」
「ハルちゃんっ!?」
「ハル!?」
そんな事を考えていたのじゃが、いつの間にかまた気を失ってしまったワシじゃった――…。
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