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9.作り笑いの狭間で
あの頃の世界で、私が、唯一、求めたのは、現実逃避だったと思う。
現実逃避が難しければ、物語の世界に沈んだ。
あの頃の私が嵌っていたものは、口頭でする、お話づくりだった。
怖い話風のそれは、全て即興で。
きょうだいにせがまれるままに、私は、口頭でお話を語った。
必ず終わらないといけないお話たちは、不思議と口にして声に出すと、私を様々な世界に連れて行った。
物語の切り出し口は、その時々で、様々に変化して、
私は、その度に、私の物語に私自身が夢中になった。
その頃口に出していた物語は、全て口に出す度に意思をもって、物語が巡りだす。
だから、それらはいつもいつも長くなりがちで
不思議な感覚を私に与えた。




