(グランデール社・異世界帰還者保護事業部創設者)ルシエル・グランデールの祝福
リ・スタート〜人間になりたいスライムは見た!勇者達の結末〜
短編第二弾です。
普通の話ですが、暇つぶしにでもなったらいいかと書いてみました。
稚拙な文章ですが、是非お付き合い下さい。
出逢いは世界樹の下だった。
「もしかして、貴方達が噂の勇者さん?」
「「「「スライムが喋った!?」」」」
私に話し掛けられた四人の男女は、各々驚いた表情で私を見つめ、声を揃えて大声で叫んだ。
(そうなるよね・・・普通のスライムは話出来ないからなぁ。)
私はそんな四人の様子に溜息混じりで、再び話し出した。
「今は確かにスライムだけど、本来はこの世界樹の世話をしていた妖精だったから話す事位出来るわ。前に魔王の誕生を阻止した時に色々あってね。こんな姿になっちゃったけど、今でも世界樹の世話をしているのよ。そんなに驚かれると流石にショックね。それはいいとして、貴方達は魔王を倒そうとしている勇者さんよね?」
「は、はい。そうです。ちょっと驚いてしまって・・・」
スライムの姿で話掛ける私に驚いていた四人だったけど、落ち着いてきたようね。
一人の男がようやく答えてくれた。
「やっぱり勇者さんだったのね。私はアリーよ。歳はヒ・ミ・ツよ。宜しくね。」
「先程は驚いてしまいすいません。俺はハルといいます。そして、こちらから順にナツとアキ、最後がフユです。皆18歳の幼馴染みで、異世界の日本という所から此方のシンドールに召喚され、魔王を倒す為に、このシンドールの世界中を旅しているところです。こちらこそ宜しくお願いします。」
ハルが私に宜しくと頭を下げると、ナツ、アキ、フユの三人も頭を下げた。
皆、とても礼儀正しく好感が持てる四人ね。
全員、黒目・黒髪で整った顔立ちで、全身から力が満ち溢れている。
流石勇者ってところね。
ハルは背が高くスラリとしているが、かなり鍛えているようで全身が引き締まっている。
優しそうな色男ね。
ナツは短髪で背丈はハルと同じ位かしら。
筋骨隆々で、力と体力はかなり有りそうね。
その割には気品がある顔立ちをしており、武骨な男という印象は感じない。
アキはショートヘアーで優しい感じの美人さんね。
ハル達より背が少し低いけどスタイル抜群で、健康的な娘ね。
それにしても、あの無駄に大きな胸は必要なのかしら?
フユは他の三人より背丈が低く、クリクリした目のカワイイ感じの娘ね。
髪が長くて凄く綺麗で、髪が無い私には羨ましいわ。
大人しそうな娘で、守ってあげたくなるようなタイプね。
(皆、思ってた以上に良い子達だわ。)
私はそんな四人に声を掛けた理由を話す事にした。
「賢者エニシって知ってるかしら?実はその爺さんから、勇者達が来たら一緒に魔王を倒して欲しいって頼まれてるのよ。私も魔王には因縁が有るし、世界樹の力も宿しているからそれもいいかなと思ってたの。そうしたら、貴方達が現れたのよね。だから声を掛けてみたの。」
「そうだったのですか・・・賢者エニシ様は、魔王を倒す為に召喚された俺達を色々と助けてくれる恩人ですよ。実は俺達もエニシ様に、ここで出会った者と一緒に行けと言われたんですよ。まさかスライムだとは思いませんでしたが・・・エニシ様の知り合いなら従うべきだと思います。なら、俺達からお願いしますよ。アリーさん、俺達と一緒に魔王を倒しに行きませんか?」
ハルが正直に答えた。彼がリーダーのようね。
皆もウンウン頷いて私を見つめ、私の返事を待っている。
話し振りから彼の誠実さが伝わってくるし、そんな綺麗な瞳で見つめられたら断れないじゃない。
「そうねぇ、エニシの爺さんの頼みだし、皆とても良い子達みたいだしね。これから宜しくね。それとハル・ナツ・アキ・フユ、私の事はアリーでいいわ。敬語も無しね。」
「「「「宜しくお願いします。」」」」
四人が屈託の無い笑顔で声を揃えて私に返事をした。
もう。敬語は無しねって言ったのに・・・
こうして私とハル達四人の旅が始まった。
「凄ーい。アリーは無限収納が使えるのねー。便利ねー。」
アキは私の無限収納に興味津々で、ピョンピョンしながら喜んでいる。
私はアキが飛び跳ねる度に激しく揺れる大きな胸が気になった。
「アキの胸はどうしてそんなに大きいの?邪魔にしか思えないわ?」
「そうなのよー。出来れば小さくしたいわー。でもね・・・」
そう言いながら、アキは私に小声で囁いた。
「ハルはね、大きい方が好きなんだってー。だからこの方が喜ぶんだー。ナツは小さい方がいいんだって。内緒だよー。」
アキは悪戯っぽく微笑んで教えてくれた。
良く分からないけど、人間の男は女の胸の大きさに好き嫌いが有るようね。
皆の事をもっと色々と聞いておきましょう。
私達は旅をしながら、自分の事やハル達の事、この世界の事やエニシの爺さんの事等、互いに沢山の話をした。
此方の世界に召喚される前のハル達は、昼間は学生で、学校が終わると、親の居ない子供達が集まる施設で子供達の世話をしていた。
その施設はグランデール社という所が運営していて、両親が異世界に召喚されてしまった子供達を保護する特殊な所だったみたい。
ハル達も素晴らしいけど、その施設を作った人は凄い人だと思うわ。
どんな人だったのかしら?
この世界シンドールのミレニアム王国に召喚された後は、暫くはソコで基礎を学んで旅立ったのだけど、魔物に襲われ家も親も失った子供達があまりにも多く、何とか出来ないかと領主や貴族に願い出たけど取り合ってくれなかったみたい。
そんなときにエニシの爺さんに合ったらしい。
エニシは世界樹の森の近くに何人かの仲間と共に、ロストタウンという街を作り、ハル達と子供達を保護し、賛同者を集め、学校も建て面倒を見てくれているようね。
街には魔物の住む迷宮があり、冒険者として独り立ち出来る様に支援もしているみたい。
だからハル達は、エニシに頭が上がらないんだって。
私と出会う前の事を聞いたけど、ハル達は本当に良い子達だわ。
でも、もっと驚いた事は、ハルとアキ、ナツとフユが恋人同士だった事ね。
本当にビックリしたわ。
スライムだから驚いた顔は見せられないけど・・・
私もハル達と同じ人間だったら良かったのに・・・
私もハル達に自分の事を話したら、ハル達も驚いていたわね。
無限収納や妖精の能力だった転移魔法。
スライムの能力の進化覚醒版である、収納空間に取り込んだモノを分析・吸収し、自分の力に出来る能力。
その能力で、世界樹の力を体内に取り込んだから、回復魔法は無尽蔵な事。
更に妖精だった頃に、破壊神によって魔王にされかけた時にエニシに助けられた事。
その時私の中には魔王の力が宿ってしまい、スライムになってしまったが、エニシに助言を貰い、今の能力まで使えるようになった事。
そこまで話したらハル達が固まってしまったわ。
私が想像以上のスライムだったのかしら?
分からなくは無いけど・・・
旅をしながらお互いに充分話したお陰で、仲良くなれた気がするわ。
これでやっと、本当の仲間になれたのかな?
旅は順調だった。
ハル達は本当に強く、魔物に負ける事は無かった。
ただ、本当に優しい心の持ち主で真っ直ぐな性格だったので、知性の高い魔物との戦いは注意が必要だった。
村を人質にされたり、人を操られたりされるとハル達は手が出せなくなってしまう。
そんな時は私の出番。
魔物だけをハル達の所へ転移させたり、操られた者は世界樹の力で正気に戻しなんとかしていたわ。
きっとエニシはこんな事を予想していたから私を一緒に行かせたのね。
もしかしたら、人間相手だとハル達は負けてしまうかも・・・
幸いな事に道中にそんな事は無かった。
私達は、旅の途中で魔物に襲われ、家や親を無くした子供達を保護しながらロストタウンへ転移させていった。
かなりの人数で、魔王軍との戦いが如何に激しく、厳しかったのかが嫌でも判る。
早く魔王を倒さないと大変だわ。
私達は先を急いだ・・・
そして、私達は魔王の所へ遂にたどり着いた。
遂に魔王との最終決戦が始まった。
魔王は強大な力を持っていて、私達は苦戦を強いられた。
その一撃はとても強く、必死で戦っているハル達に次々と傷を負わせていく・・・
私も必死に回復しているけど、一撃が大きく油断出来ない。
厳しい戦いになりそうな気がして、ゾッとする。
ハル達は全力で攻撃しているけど、魔王の強固な外郭に阻まれ、なかなか魔王に大きなダメージを与えられないようだ。
折角与えたダメージもあっという間に回復していく・・・
それでもハル達は傷を負いながらも必死で魔王に食らい付く。
予想を越える魔王の強さに、皆の顔に焦りの表情が浮かぶ。
一体、何度攻撃したのだろうか?
どれだけ繰り返しても出口が見えない。
延々と続く魔王との戦いに、此方の余裕が無くなっていく。
強すぎる・・・何か仕掛けが有るのでは?
私には前魔王の力が宿っている・・・スライムの身体では力に身体が付いていけず使えないけど、その力と比べても異常な強さだわ。
私は皆の回復をしながら魔王の異常な強さの理由を探した。
注意深く調べていると、魔王の背後に魔力の高まりを感じる。
「聞いて、魔王の背後の壁から何か感じるの。」
「よし、俺が行く。」
私の話にハルが答え、飛び出していく・・・
そして、壁に向かって剣撃を放つと、壁が崩れ中から巨大な塊が現れた。
それは・・・漆黒の巨大な魔石だった。
魔石からは禍々しい力が溢れ出し、魔王に注ぎ込まれていた。
アレが魔王の異常な強さの原因に違いないわ。
「ハル、その魔石を破壊して。」
私はハルに向かって叫んだ。
「了解だ。行っけぇーっ、砕けろー。」
ハルが叫び、魔石に再び剣撃を放った。
『パリィーン』
ハルの攻撃で魔石が音を立て砕けた・・・
「やったぞ。どうだ。」
魔石を破壊し、ハルが戻って来た。
魔力の供給源であった魔石が破壊されたからだろう、魔王からの攻撃が先程と違う事がハッキリと判る。
明らかに弱くなっている。
此方の攻撃も先程とは違い、確実にダメージを与えている。
これならいけそうね。
するとハルが皆に叫んだ。
「皆、一気に畳み掛けるぞ。限界突破。」
「「「限界突破。」」」
ハルに続き、ナツ、アキ、フユも叫んだ。
ハル達の体が光り耀くと同時に強大な魔力が吹き出した。
限界突破は時間に制限が有るけど、爆発的に身体能力を上げる究極技だ。
ここで勝負を掛けるつもりらしいわね。
ハル達が魔王に飛び込んでいく・・・
魔王も迎え撃とうと身構える・・・
私はハル達全員に回復を掛け続ける・・・
「グオォォォォーーッ。」
轟音と閃光の中、魔王の叫びが響き渡った。
今、私の目の前には倒れて動かなくなった魔王がいる。
「「「「「やったーー。」」」」」
遂に魔王を倒したのね。
皆、抱き合って喜んでいる。
私もフユに抱えられてその中に混ざっていた。
私も人間の姿で一緒に喜びを分かち合いたかった・・・
生まれ変われるなら次は人間になりたいわ・・・
こうして魔王は、勇者ハル、ナツ、アキ、フユと私によって倒された。
「さて、私はエニシとの約束を果たさなきゃ。」
私は魔王に世界樹の力を使い、浄化を実行する。
すると、魔王の体から先程と同じ巨大な漆黒の魔石が現れた。
魔石は魔王から立ち登る禍々しい魔力を吸い取っている。
私はエニシとの約束通りに魔王を収納し、残った魔石から魔力を吸収する。
段々と魔石の色が変わっていく・・・
更に吸収していくと、魔石は透明になった。
「エニシが言っていたのよ。こうしないと魔石が魔王の体から魔力を吸収してしまい、次の魔王の誕生が早まってしまうらしいのよ。」
私はハル達に説明したら、理解したのかウンウン頷いている。
「ここからは私とエニシの実験なの。魔王の空の魔石に世界樹の力を注いだらどうなるかを試したいのよ。その時、一緒に清い心を持ったハル達が浄化してくれたら悪い結果にはならないと思うのよね。協力してくれないかしら?」
ハル達はニッコリと笑いながら了承してくれた。
「じゃあ、始めましょ。」
私が魔石に世界樹の力を注ぎ込み、ハル達が魔石に浄化を掛ける。
魔石は徐々に白く輝き出し、どんどん輝きが増していく・・・
そのまま続けていくと、キーンという甲高い音がして輝きが薄れていき、最後は真っ白な魔石となった。
「これで終わりね。皆、協力してくれて有り難う。それにしても真っ白で綺麗な魔石ね。こんな魔石、見た事が無いわ。」
私が話すと、アキとフユは真っ白な魔石を見て、うっとりとしていた。
やっぱり、女は綺麗な物が好きなようね。
ハルとナツは興味が無いみたい。
「さあ、そろそろ帰りましょう。転移が使えるから何処でも良いわよ。」
私は魔石を仕舞い、皆に聞いた。
「まずはミレニアム王国と言いたいところだけど、子供達が気になるからロストタウンで。」
ハルが答える。皆、同じ意見のようね。
「子供達が気になるなんて、ハル達は本当に優しいわね。じゃあロストタウンへ転移するわよ。」
そう言いながら、私達はロストタウンへ転移した。
「随分と様変わりしたな・・・」
「凄いじゃないか。立派な街になってるぞ。」
「子供達も笑顔だよー。嬉しいなー。」
「平和・・・良い・・・」
四人が各々の感想を呟いているわ。
皆、満足そうな顔で微笑んでいる。
街には子供達だけでなく、大人も沢山居たわ。
エニシ達が、相当頑張ったみたいね。
あの爺さん、本当に何者なのかしら?
そんな事を考えながら、街を探索したわ。
ハル達はこの街の創設に活躍していた勇者だから、大人気だわ。
歩くのも大変な位の人気振りね。
街は本当に良く出来ていて、東側の海岸沿いには漁港が有り、街に海産物を供給していた。
南には広大な農耕地帯が広がり、街の食糧を支えている。
北には鉱山や学校、工房等が有り、一般教養の他にも農業・薬学・鍛冶・錬金・建築等様々な事が学べる様になっていたわ。
西側には自給自足ながらも、商業施設や冒険者ギルド等も有り、迷宮と合わせて街の経済を支えている。
住宅地も街を取り囲む様に潤沢に存在している。
領主や貴族が居ない、一般人の統治で成り立つ街が此処に存在していたわ。
規模こそ小さいが、ミレニアム王国の王都より充実してる様な気がするのは私だけかしら?
ハル達に聞いてみたけど、日本では一般人が街を統治するのが当たり前らしく、この街の仕組みを喜んでいたわ。
もしかしたら、エニシはハル達と同郷なんじゃないかしら?
「ところで、肝心のエニシの爺さんはどこかしら?」
ハル達も分からないと言うので、街の人に聞いてみたら北の工房区の先の山の反対側に居るみたいね。
あの爺さん、大賢者エニシ様って呼ばれ、街の英雄扱いになってたわ。
こうして私達はエニシに会いに北の山の向こうへ向かった。
「無事に魔王を倒したようだね。おめでとう。」
山を抜け、小さな村に着いた私達にエニシが話し掛けてきた。
「エニシ様、お久し振りです。まだミレニアム王国へ報告しておりませんが、魔王を倒す事ができました。ロストタウンの事も感謝しております。有難う御座います。」
ハルが深々と頭を下げると、残りの三人も同じ様に頭を下げた。
本当にこの子達は純粋な心を持った優しい子達ね。
私は感心してしまった。
「王国への報告なら私がしておいたよ。今頃は大騒ぎだ。各国のお偉いさんが集まるまで一週間ってとこだから、それまでのんびりするといいよ。」
「エニシが魔王討伐の報告をしてくれたのね。助かるわ。じゃあ私はゆっくりさせて貰うわね。ハル達もゆっくりしたら?」
私がそう言うと、ハル達も嬉しそうにソワソワし始めた。
「じゃ、じゃあ俺達は街にでも行こうかな?」
ハルとアキが寄り添って照れながら話した。
なんか初々しくて微笑ましいわね。
「フユ、俺達も行くか?」
「ん・・・」
ナツの問いにフユが頷いた。
ムキムキのナツと小さく可愛いフユの組み合わせって意外だけど何か良い感じね。
「しょうがないわね。皆、送るわ。」
「「「「有り難う。」」」」
私はハル達を街に送り、またこの村に戻って来た。
スライムが一匹で街には居られないもの。
「エニシ、戻ったわよ。」
「早かったね。アリー。御苦労様。」
「これが例の魔石よ。」
私はエニシに魔王の魔石で作成した真っ白な魔石を渡した。
「これは凄いじゃないか。想像以上だよ。アリー、有り難う。」
エニシは満足そうに魔石を眺め、エニシ自身の無限収納にしまった。
「さて、私はここまでかな。アリー、君に頼みが有る。」
「何かしら?」
エニシが私に語り出した・・・
エニシの事と今後のハル達の事だった・・・
今は私の心の中に留めておくだけにした方がいいわね。
「エニシって何者かと思ってたけど、納得したわ。だから私もあの時助かったのね。ハル達の事は何とかしてみるわ。でも、エニシにはもう会えないわね・・・今まで有り難う。」
「後は頼んだよ。もしかしたら来世でまた会えるかもね。何故かアリーとはまた会える気がするよ。だから、またね。」
「その時は私も同じ人間として、生まれ変わって会いたいわね。」
「そうだね。じゃ行くよ。」
エニシが光に包まれ消えていった・・・
さようなら、エニシ。そして、有り難う。
あれから一週間・・・
私とハル達はミレニアム王国で、魔王討伐の勇者達として王都を凱旋している。
私は見た目魔物なので、存在は内緒にしていて、最近覚えた分裂の能力を使用して四人各々の腰鞄に隠れている。
この能力は、この間私の無限収納空間に取り込んだ魔王の能力の一つみたい。
ハル達には秘密だけれど、私の分身は他にも居て、王宮に潜入して情報を集めているの。
エニシの最後の頼みだった、ハル達の身の安全を確認する為よ。
魔物は居るけど、魔王が居なくなり、脅威はほぼ無くなった今、各国が脅威を感じる戦力といえば、ハル達だもの・・・
今は普通の人達に魔王を倒した勇者を全面に出して、平和になった事アピールする為にハル達を凱旋させているけど、各国の上層部がその後どうするのかが未知数なのよね。
ハル達は純粋が故に、人を疑う事が出来ないから・・・
何も起こらなければいいけど・・・
そんな私の心配など知らないハル達はというと、ニコニコ顔で手を振り声援に答えているわ。
元々四人共、顔立ちが整っているから人気に拍車がかかって凄い声援ね。
あんなに嬉しそうにしているんだもの、怒る訳にもいかないし。
ストレスが溜まるけど、凱旋はもうすぐ終わるから我慢するわ。
「皆、凄く喜んでいたな。頑張った甲斐が有ったな。」
「これで俺達も安心だな。ハル、今までリーダーお疲れ。」
「日本じゃ当たり前だったけど、平和ってこんなに幸せな事なんだねー。」
「ん、戦い・・・無い・・・良い事。」
凱旋が終わり、ハル達が余韻に浸っている。
安心するには、未だ早いわよ。
「皆、お疲れ様ね。次は晩餐会よ。」
私が晩餐会と言ったので、ハル達は嬉しそうにしていた。
きっと食べてる暇なんて無いと思うけど・・・
王宮の晩餐会では、ハル達は皆に取り囲まれていたわ。
だから食べてる暇は無いのよね。
ハル達は気が付いていないが、彼等の飲み物には、眠り薬や痺れ薬が混入していた。
ハル達以外の飲み物には入っていない様だ。
やっぱり、何か有るわね。
私はコッソリとハル達を回復しながら、分身体からの情報を整理した。
どうやら今晩は、ハル達を逃がさないよう、部屋に監禁しておきたいらしいわね。
明日の朝食で同じように薬を混ぜ、部屋から出さない予定ね。
後は、明日の各国のお偉いさんの会議次第って事ね。
やっぱり、疑う事を知らないハル達にとっての脅威は魔王では無く、人間だったわね。
ようやく全貌が見えて来たところで、晩餐会が終了した。
食事が出来ない程忙しかったハル達は、取り置きしてあった分を貰って会場で食べていたけど、眠り薬入りだわ。
後は部屋に行くだけだから、怪しまれない様にそのままにしておきましょう。
案内された部屋は一部屋だった。
中で区切られていて、一応男女で分かれていた。
ハル達は薬の効果で眠たそうにしていたが、ハルとアキ、ナツとフユという部屋割りにしていたわ。
相変わらず仲が良いわね。
でも、気を付けて、毒を混ぜられていたらこの部屋に来ることは無かったんだからね。
ハル達はベッドに入ると直ぐに眠ってしまった。
はい、残念でしたねー。
私が周辺を警戒すると、窓の外に二人、ドアの向こうに二人見張りが居た。
やはり部屋から出したく無いらしい。
全ては明日ね。
私も少し休んでおきましょう。
朝になり、ハル達が起き始めた頃、朝食が運ばれてきた。
「流石王宮。朝食も豪華だな。」
「旨そうだな。早く食べようぜ。」
「わあ、おいしそうだねー。」
「ん・・・朝御飯」
豪華な朝食に感動しているハル達だけど、かなり強めの眠り薬と痺れ薬が混ざっているわ。
私は取り込んだ魔王の能力の1つである感覚共有を使い、皆と聴覚を共有して小声で囁いた。
『皆、このまま聞いて。朝食に眠り薬と痺れ薬が混ざっているわ。実は昨日の食事や飲み物にも入っていたのよ。』
ハル達が動揺している。
何故自分達がそんな事されるのかが分かっていないようね。
人を疑う事を知らない人達だから、しょうがないわね。
『慌てないで。私が回復するからそのまま食べて欲しいの。食べ終わったら薬が効いた振りをしながら、使いの人に食器を片付けて貰って頂戴。後はベッドで寝た振りをしていてね。』
『『『『分かった。』』』』
ハル達は感覚共有が理解出来たみたいね。
でも、演技が大根役者のようね。ぎこちないわ。
まあ、何とか食事も終わって、薬が効いてるようにはみえたわね。
『多分誰かが様子を見に来ると思うけど、そのまま寝た振りしていてね。あと、私の視覚を共有させるけど、何があっても驚かないでね。』
『『『『・・・』』』』
皆、真剣に寝た振りをしてるわ。
本当にド真面目なんだから・・・
そんな事を考えながら、王宮のとある部屋に潜ませている私の分身体の視覚を共有させた・・・
今皆に見えているのは、各国の代表者が集まり会合する予定の部屋だ。
もうすぐ始まるのだろう。昨日見た他国の代表者が勢揃いしている。
私達の部屋にも動きが有った。
何回かドアをノックする音がしたが、無視していたら鍵を開けて男が入ってきて、ガタガタと大きな音を立てたり、声を上げたりして、私達に反応が無い事を確認した後、部屋を出ていった。
その後、会合の部屋では、先程私達の部屋に来た男が現れた。
「御報告申し上げます。勇者達一行は薬の効果で眠っておりました。」
「うむ。皆、聞いての通りだ。では早速始めるとしよう。」
国王が開始の宣言をしたわ。
どうなるかしらね。
会合はハル達の事などお構い無しで、自分達の損得だけしか考えていない酷いものだった。
『ミレニアム王国が召喚したのだから、勇者達は自分達の物だ。何処にも渡さん。』
『勇者の一人でも居れば、自国のうるさい貴族達を黙らせる事が出来る。一人寄越せ。』
『彼等を洗脳して魔王の居た未開拓エリアの魔物の討伐をさせるべきだ。新たな土地を増やして皆で分ければいいだろ。』
『魔王を倒す程の力を持った勇者達が反乱を企てたら、誰が止められるのだ?今のうちに始末しておくべきだ。』
『勇者達は魔王を倒せば用済みだ。アイツらは各国の戦力バランスを壊すだけだ。ミレニアム王国は戦争でも始めるのか?』
こんな感じて会合が延々と続いたわ。
でも結局、勇者達の力は欲しいが、他国との戦争はしたくはないから、元の世界に戻った事にして、始末するという事で纏まりそうだ。
『皆、どうする?そろそろアイツらが動き出すわよ。』
『『『『・・・』』』』
ハル達は何も答えない・・・
突き付けられた現実を、純粋なハル達は受け止めきれないのだろう。
このまま放っておけば、アイツらに始末されるか、戦うかのどちらかだろう。
今のハル達の様子では、結末は前者になるわね。
でも、そんな事にはさせないわ。
だって此処には私が居るもの・・・
ドアの向こうに兵士達が集まっている。
『転移。』
私達はエニシが居たロストタウン北の小さな村に転移した。
ハル達は転移に驚く事も無く、無言のまま俯いていた・・・
「ハル、ナツ、アキ、フユ、これが現実よ。」
「「「「・・・」」」」
私は続ける。
「貴方達はこうなる事を予想出来なかったでしょ?」
「何で俺達が命を狙われたんだ?何かしたか?」
ハルがようやく口を開いた。
「魔王を倒したでしょ。私達はあの魔王より強いのよ。この意味が分かる?もし、人間同士の戦争が起きたら私達の敵は誰?味方は誰?分からないでしょ?」
「俺達は世界を救おうとして魔王と戦って倒しただけだよ。戦争なんかに加担しないよ。そんな事当たり前じゃないか。」
ハルの言いたい事は分かるわ。
でも・・・
「当たり前なの?じゃあ、ロストタウンが襲われたら?加担しないのね?」
「えっ・・・戦っちゃうかも・・・って、あれっ?、俺達は誰かの敵になってる。」
「そういう事よ。国の代表者達は、ハル達が敵になるかもしれないって事が怖いのよ。だったらどうする?」
「だから俺達を始末しようとした・・・でも、納得出来ないよ。」
いつの間にかハル達全員が話を聞いていたわ。
「当然だわ。ハル達は魔王を倒して世界を救ったし、子供達の為にロストタウンも造ったのよ。もっと感謝するべきだわ。だから私はハル達を逃がした。彼等の行いは手段の一つであって、正解とは限らないわ。」
「そうだったね。アリーが居なかったら俺達は既に・・・本当に有り難う。」
「仲間なんだから当然でしょ。」
ハル達が皆で頭を下げた。
そして、スッキリしたのか、皆いい笑顔になっていた。
「俺達も国の代表者達も、力を持つという事は大変な事だったんだね。今回の件で、痛感したよ。」
どうやらハル達は立ち直ったみたいね。
本当に良かった・・・
「まあ、暫くはここで大人しくしておかないとね。」
「「「「はい。」」」」
時は流れ・・・
結局私達はずっとあの小さな村で暮らしたわ・・・
あれからは魔王も現れないし、戦争も無く、平和だったわ。
ハルとアキ、ナツとフユは結婚して子供も産まれて幸せな日々を過ごしたわね。
追っ手も来なかったしね。
私の転移でシンドール中を見て回った事も有ったっけ。
エニシやハル達が造ったロストタウンも大きくなって、近々ロスト国になるかもしれないって。
ハル達を最後に見送った時に預かった勇者達の力は、結局使う事は無かったわよ。
私はスライムだったけど、ハル達と出逢えて幸せだったかな。
私も人間だったらもっと・・・
あっ、もう時間が無いようね・・・
みんな・・・あり・・・が・・・とう・・・
私の体が光に包まれ消えていった・・・
「久し振りだね。アリー。」
「エニシ?」
真っ白な空間にエニシの姿が有った。
「ハル達の事を伝えたくてね。」
「ハル達?私も彼等も、もうこの世に居ないんじゃ?」
「ハル達の魂を元の世界に戻せたんだよ。ほら。」
真っ白な空間に、まるで出逢った頃の様なハル達が写し出された。
「召喚された時代に魂を戻せたんだよ。こっちの記憶も残ったままなんだけどね。」
ハル達は子供達と楽しそうにしていた。
あれが前に話してくれたグランデール社の施設なのね。
みんな元の世界に戻れて良かったね・・・
「アリーもよく頑張ってくれたみたいだね。」
「お陰様で思い残す事は無いわ。」
「いい生涯を送れたようだね。そうだ、アリー。真っ白な魔石の事なんだけど、アリーと一緒に転生するみたいなんだ。だから、アリーに面倒を見て欲しいんだ。」
「えっ?エニシ?どういう事?」
「詳しい事は転生してからね。また会えるから。じゃあ、またね。」
エニシが挨拶すると、私の意識が薄れていく・・・
『来世のアリーは人間だからねー!』
エニシの声が聞こえた気がした・・・
ちょっと、どういうことー!
アリーの新たな物語がリスタートする。
お・わ・り
最後までお読み頂き有り難う御座いました。
今後も幾つか投稿していく予定です。
感想・評価は私のエネルギー源ですので、ドシドシ補給をお願いします。
宜しかったら他の作品も読んでやってくださいまし。