超長文鳥
しょっぱなから長文を読ませるなど大変心苦しいのですが
わたくし物事を短くまとめることが不得手でございまして
語りたいことが次々湧き起こってしまう身勝手さは
生来変わらない一種のメカニズムのようなものと存じます
さてわたくしが現在こうして文をしたためているのは
このところ顔色の優れない飼い主様のご様子が気にかかってのこと
人間様の抱えるしがらみについては疎いものですから
一体どのような出来事によるものかは測りかねるのですが
彼女の吐く溜め息の重さが日々増してゆくのだけは
わたくしとしても心が痛むのです
ケージの中で鳴いてみます
何が飼い主様を困らせているのでしょう と
その問いかけは伝わりません
飼い主様はわたくしの鳴き声に気付くと必ず微笑んで
そうです無理矢理に微笑みを返してくださって
ごめんなさいね 今日のご飯をすっかり忘れていましたわ と
何一つ心配事などないとでもおっしゃるように恵んでくださるのです
与えられたものに口をつけないのは失礼かと存じますので嘴をつけます
見上げれば飼い主様は慈しむようにわたくしを見つめ
おっしゃいました
私も飛び去ってしまいたいわ
父上様 母上様 わたくしには全く意味がわからないのです
飼い主様にはきっとおつらいことがあったのでしょう
もしくはこれから思い通りにことが進まないとわかっていておつらいのかも知れません
しかしわたくしが分からないのはそこではないのです
文鳥は人間様の悩みなどとは無縁なのですから
飼い主様は何故
ケージの中のわたくしを見て
飛び去ってしまいたいとおっしゃるのか
わたくしから飛び去る空を奪ったのは飼い主様だというのに
わたくしをケージの中でひたすら肥えさせているのは飼い主様だというのに
今のわたくしを見てどうして自由を連想することができましょう
人間様の考えることは全く理解できません
わたくしの翼はとうの昔に飾り物になってしまったのです
このように口ばかり達者になり
このように思考ばかり理知的になり
ただし飛び立つための空どころか空間の一切を失ったわたくしは
人間様にとってなお自由の象徴たりえるのでしょうか
この文が届くころ飼い主様とわたくしはどうなっているのでしょう
きちんとケージの中で思考することを許されているでしょうか
あまりに肥えて焼かれ食べられていないといいのですが
飼い主様は息災でいらっしゃるでしょうか
翼の生えていないあのお体で窓から飛び立つなどしていなければいいのですが
だってあなたは、ケージが開けばすぐ飛び立てるでしょう?