第4話 始まる、騎士王の学園生活。
先日の魔獣騒動から丸1日が経った。
あのあと俺は、姉さんに家まで送ってもらった後、すぐに眠ってしまった。
目を覚ました時、俺の上にはアーサーがいて、眠っていた。
「すぅ…すぅ…」
アーサーの寝息が聞こえた。
余程疲れていたのだろう。かなり熟睡している。
「ごめんな。無茶させて。」
そっと、アーサーの頭を撫でる。
「ん…ん?」
「あ、起こしちゃったか?」
するとアーサーはハッとして、
「あ!い、いや大丈夫だ。ちょうど起きたところだからな。」
「そうか。それならよかった。疲れてるのに邪魔しちゃ悪いなって思ったからさ。」
すると、アーサーはパタパタと膝の辺りを叩いて、
「そ、それでは私は、奏殿と泉理殿を起こしてくる。」
「ああ、たのむよ。」
トタトタとアーサーが階段を登る音が聞こえた。
「さて、と。俺もそろそろ起きるか。」
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それから俺は、今日朝飯当番だった奏の作ったご飯を食べ、学校へ向かった。
学校にて。
「おー!達也じゃないかっ!昨日のニュース見たぜー!」
机に突っ伏していると、天海がやって来た。
「なんだ。天海か…。」
「なんだとは失礼な!ってか、昨日のニュースなんだけどよー」
昨日のニュース?なんかあったっけ?
「わかったから!で、昨日のニュースってなんだよ。」
「お前、知らないのかよ。自分が出てるのにか?」
は?いやまて。どういうことなんだ?『俺』がニュースに?
「おい待て天海。それはどういう事だ。」
「どういう事も何も、お前がニュース出てたの見たって話だよ。」
に、ニュース!?な、なんで、俺が!
そこでふと思い出した。
た、たしか昨日って魔獣騒動の時だよな?ってことは…
「ま、まさかそれって…。」
「『あの』姿の俺が中継されてたってことか!!」
「ああ。そうだぜ。あの達也はカッコよかったなぁ。なんかこう、キュイイインってさぁー」
だからかっ!だから朝からやたら人が俺の名前出してると思ったんだよ!
「マジか…。めっちゃ恥ずかしいわ…。」
てかキュイイインってなんだよキュイイインって!擬音がおかしいだろ!
そんなこんなで、いろんな人にやたらとその話をされ、しいては先生にまで呼び出される始末だった。
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そのころ遠月家では…
「泉理殿!お願いがあるのだが!」
「えっ!なになに!?ど、どうしたの急に?」
「実は…、私を学校に入学?させて欲しいのだ!」
これは私のこの世界に来てからの夢だ。できれば、達也と同じ学校がいいが、この際文句は言えまい。
そうして半分諦めていた時だった。
「え?そんなこと?別にいいわよ。なんなら達也と同じ学校でも。」
え。
「えぇぇぇぇぇ!?よ、よいのか!?本当に!?」
「ええ。もちろんよ。それくらいお安い御用よ。」
意外だった。きっと無理だろうと諦めていたのにそれがあっさりOKを貰ってしまった。
「あ、でも。一つ条件があるわ。」
「じ、条件とは?」
「まあ達也の高校だから…。そのレベルに達するまで、家で勉強をして貰います!」
勉強か。私としては願ったり叶ったりだが、やはり時間が掛かるのだろう。それだけ努力をしなければいけないことは承知している。
「うむ。承知した。それで、どの範囲を勉強するのだ?」
「まあざっくりだけど、最初のところから、達也のレベルまでかな。」
「一応他のテキストとか買ってくるから、それまで…んしょ。はい、これやっておいてね♪」
な、なかなかの量だ。だが見た感じは初歩の初歩という感じだ。『サルでも分かる!日本語講座』と書かれている分厚い本だ。これでどうやら日本語を覚えるらしい。
私は話すことくらいならできるが、書くことは出来ないのでちょうどいいものだ。
「わかった。これを全部やればいいのだな。」
「ええ。帰ってくるまでにある程度はやっておいてね♪」
なんだか変な記号のようなものが2回くらいみえたが、
「う、うむ。了解した。」
そして私は学校に入るために勉強を始めた…
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放課後、教室にて。
「なぁ、達也。今日新しく出来たゲーセンよってかねぇ?」
「いや。俺今日パス。晩飯当番だし。」
「達也も大変だなぁ。飯作ったりしてて。あ、でも女性陣の手料理食えるから役得か!」
「バカか。んなん役得でもなんでもねぇよ。」
そんな馬鹿げた会話の後、俺は学校を出た。
今思うと、昨日の事がとても不思議に思えてくる。
「証、ねぇ…。」
俺の首にかかっているネックレスのような銀色の紋章。それは英雄との契約によって生み出される物。
「剣自体は普通に取り出せるんだけどなぁ、鎧とかが取り出せないんだよなぁ。」
たしかにあの件以降、俺は『エクスカリバー』を想像するだけで取り出せるようにはなった。
だが、どうしても鎧だけは想像で顕現出来ないのだ。
「何でだろうなぁ?想像力が足りないのか?」
そんなことを考えながら、いつの間にか俺は家に着いていた。
俺は家に入ると、
「ただいま…ってなんだ、これ!?」
教科書と問題集の山。見ただけで頭が痛くなりそうな程の量。その山の中央にはあの少女がいた。
「って、アーサー?なに、やってんだ?」
「う?ああ、達也か。」
アーサーだった。俺は不思議に思い、
「お前、一体何やってんだよ…。」
アーサーはキョトンとして、
「何って勉強に決まっているだろう。達也と同じ…ムグッ!」
「達也と同じくらい勉強がしたいらしいわよー♪」
姉さんが急にアーサーの口を塞いだ。
「お、おう。まあアーサーはこの世界に慣れてないから勉強はしても損ないとおもうぜ、俺は。」
すると、泉理はアーサーの耳に小声で、
「ダメじゃない。まだその話は達也にはしない約束でしょ?」
「あ、ああ。たしかそうだったな。すまない。」
なんか二人共コソコソと何話してるんだろう。と、思いながら俺は、自分の部屋に戻るために階段へ向かった。
そんなこんなあって、とくに何事もなく、一週間が経過した。
休みの日。俺は家でのんびりしていた。
「ん?あれ、姉さんどっかいくのか?」
「あ、泉理おねぇ出かけるならジュース買ってきてー。」
普通に泉理をパシる奏。最近は奏はアーサーのことも『おねぇ』と呼ぶようになったので、誰を呼んでいるかわかるように区別は付けている。
「あのねぇ、あたしは今から大事な用事があるの。ジュース欲しいなら自分で買ってくればいいじゃない。」
「むー。泉理おねぇのケチんぼー!」
むっと頬を膨らませて奏は言った。
すると、泉理は急ぐように、
「あっ。じゃああたしはそろそろ行かなきゃだから。留守番お願いね♪」
そう言って泉理はそそくさと家を出た。
「なんの用事なんだろうな。」
そんなことを思いつつ、俺は休日をのんびり過ごした…
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その頃泉理は、『白浪学園』に来ていた。
「さて、と。取り敢えずりっちゃんに挨拶してきましょうか。」
『りっちゃん』とは泉理の高校時代の後輩で、若き天才と呼ばれていた人物。今はこの学園の理事長をやっているので、アーサーちゃんの件も含めて、挨拶してこようと思ったのだ。
コンコン。
泉理が理事長室のドアをノックする。
『どうぞ。』
部屋の中から声がする。そして、泉理はドアを開け、
「ひっさしぶりー♪りっちゃん♪」
りっちゃんこと理事長は一度停止して、数秒後、
「せ、先輩っ!?な、なんでここに!?」
「そりゃモチロン、お願いに決まってるでしょ?」
「お、お願いって…?」
少し間を置いて、泉理は、
「実はね……」
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次の日、朝アーサーが部屋から出てこないので呼んでみたが、大丈夫の一点張りで、俺と奏はそのまま学校に向かった。
学校にて。
「おーい、達也。」
「ん?なんだよ天海。」
「聞いたか?今日、転入生が来るらしいぞ!」
「珍しいな。お前が転校生と間違えないなんて。」
「おいっ!お前俺が、極度の馬鹿だと思ってるだろ!」
頷くと、
「お、お前なかなか酷いこと言うな。Sか!?Sなのか!?」
「そんなことどうでもいいだろ。で、転入生がどうしたって?」
「スルーかよっ!まあ、いいや。で、その例の転入生なんだけどよ…」
「実は、どうやらその子、『女子』らしいぞ!」
あ、そんなことか。
やばい。とくに興味わかない。
「そ、そうか。よかったな。」
適当に受け流す。すると、担任の新川が入ってきて、
「はーい、みんな席ついてねー。」
ガチャガチャと皆が席につく音が聞こえた。
「じゃあ、みんなも知ってると思うけど、このクラスに新しい子が増えまーす。じゃあ、『遠月さん』入ってきて?」
『遠月』?俺と同じ名字か。同じ名字なんて珍しいこともあるものだな。
そう思っていた矢先のことだった。俺が予期しなかった事態が起こったのは…
クラスに入って来たのは、一人の少女。長い金色の髪。結って長めのポニーテール状にしていたその少女は…
「は?な、な…」
「なんでお前がここにいるんだぁぁぁぁぁぁ!?」
ガタッと立ち上がって俺は叫んだ。
「ち、ちょっと遠月君!?ど、どうしたの!?」
え?知り合いなの?
なんかあったのかな?
周りからガヤガヤとそんな声が聞こえた。
「と、とりあえず遠月君?席についてねっ。」
俺は言われた通り席につく。
な、なんで『あいつ』が…
「じゃああらためて、自己紹介をしてね。」
少女は少しかしこまった様子で、
「今日からこのクラスに来た。アーサー・ペンドラゴンだ。呼び方はアーサーか、できればペンドラゴンではなく遠月と呼んで欲しい。一応居候の身だからな。」
い、居候!?
皆が一斉に俺を見た。
や、やばい。これはマズイ。
「はっ!?い、いつの間に!?」
取り囲まれていた。逃げられない。その中には天海も混ざっていた。
「「「さあ、詳しい話を聞かせて貰おうか!!」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、俺の、俺とアーサーの波乱に満ちた学園生活が幕を上げたのだった…。