第3話 非日常ー魔獣、襲来ー
朝が来た。
昨日は色々あったから、かなり体がダルい。
まあ、今日は休みだからいいか。
そして再び俺は目を閉じる。
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結局俺は、奏に叩き起され、やむなく二度寝を諦めたのだった。
「ったく。お前は毎回殴らなきゃ人を起こせないのか!」
「だって、おにぃがそこにいたままだと邪魔だし。てゆうか、アーサーさんもう起きてるよ?」
ふと見ると、椅子に腰掛けている少女がいた。
アーサー。彼女は異世界から来た王様だ。
「ん?達也。ようやく起きたか。」
「お前、そこで見てたんなら起こしてくれよ…。」
「す、すまぬ。起こし方がいまいち分からなかったのでな。向こうではそんなことは無かったから…。」
そんな何気ない話の後、姉さんも降りて来て、朝飯を食べた。
アーサーはふとした様子で、
「そういえば、達也達の父上殿や母上殿はどこにいるのだ?一応居候の身。挨拶はしておかねばと思ってな。」
父親と母親か。
俺達には父も母もいない。俺がまだ小さかった頃に事故で亡くなったのだ。
そのことをアーサーに説明すると、
「すまない。そなたたちに聞くべき質問ではなかったな。思い出したくない物を思い出させてしまった。」
「いや、べつにいいよ。忘れるより覚えていたほうが父さん達も悲しまないだろ?」
嘘だ。むしろ忘れたい記憶だ。だけど、俺は彼女に心配をかけさせたくないと思ってもいた。
だって、アーサーは女の子だろ?
俺は彼女に重荷を背負わせたくない。だからそうやって嘘を吐く。
「そ、そうか。たしかに忘れられるより覚えられているほうが幸せだな。」
アーサーはクスッと笑いながらそう言った。
その後アーサーは俺に言った。
「だが、辛い出来事ならば心の内に溜め込みすぎないほうがいい。そのせいで心だけではなく、体にも影響が出て皆に迷惑がかかってしまうぞ。」
「心配かけてごめんな。ありがとう。」
すると、アーサーは顔を赤らめて、
「う、うむ。こちらこそ、ありがとう…。」
と、言った。
そして、その後も、遠月家の団欒は続いた。
そんな時だった。
この物語の本当の始まりと終わりが訪れたのは…
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テレビからいきなり女性の声が聞こえてきた。
『そ、速報です!えー、たった今、新宿区内渋谷区付近にて、これは…何でしょう?犬?ではないようですが…』
テレビに映った画像には、黒い生き物が映っていた。
なんだか嫌な予感がする。俺がその写真の生き物について気づいたのは、ほんの数秒後だった。
テレビからまたしても声が。
だが、それは先程までの冷静な声ではなく、
『た、大変です!さきほどの生物ですが、ひ、人を襲い、街を破壊しているとの情報が入りました!現場から映像をお送りします!付近の住民の方々は早急に避難をとのことです!』
そこに映った映像には、「三つ首の犬」らしきものが、映っていた。
「な、なんでこんなやつが…。」
有り得ない。
あれは空想上の生き物のはずだ。
俺はその生き物の存在を否定した。
けど、それは見間違いや幻想なんかじゃなく、本物。
「な、なんで『ケルベロス』が存在してんだよ!!」
俺が放ったその言葉に、皆が凍りつく。
「お、おにぃ?」
「た、達也?」
アーサーも奏もきょとんとしてこちらを見る。
俺は動揺しつつも、状況を整理する。
「ケルベロスはギリシャ神話に登場する、『冥界の番犬』だ。神話生物の中でも有名な怪物だ。でも、なんでそんなやつがこの世界にいるんだ?」
その時だった。画面に映っていたケルベロスが動き始めたのは。
街を破壊し、人を襲っていた。人の悲鳴が聞こえる。
まずい。そう思った俺の手と足は驚くほど震えていた。
アーサーの手が俺の震えている手に触れる。
「達也。大丈夫だ、心配しなくていい。私が何とかする。してみせる。」
アーサーの瞳は真っ直ぐに達也を見つめていた。
そこには、決意と覚悟が見えた。
そして、アーサーが立ち上がり、剣を取り出した。
その時だった。無意識に俺はアーサーが取り出した剣を掴んでいた。
「っ!達也!なにをするんだ!」
「お、俺はお前を行かせない。お前が行くというなら、俺は全力で止める。それにな、俺は男だ。だから、俺が行く。」
俺はその聖剣をつかみ、家を飛び出した。
「達也っ!」
「おにぃ!」
アーサーは思った。何故そこまでして私を戦わせたくないのかと。
その時、泉理がアーサーに、
「あの子はね。あれでもあなたを心配してるのよ。もう誰も自分の前からいなくなって欲しくないからってね。」
「そう思って心配してくれるのはありがたい。だが、達也にはあの聖剣は使えないんだ。聖剣自体が選んでいないからだ。それに、達也は私とは違う普通の人間だ。だからこそ…」
「それは違うわよ、アーサーちゃん。あの子も私達も、あなたのことを普通じゃないなんて思っているわけないわよ。むしろ普通の女の子と思っているわ。それはあの子もそう。だからこうしてあなたを心配しているのよ。」
普通の、女の子。
達也はそんなふうに私を見ていたのか。
だから、心配してくれたのか。
だから…
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俺は走った。
魔獣ケルベロスの元へ。
もう誰も死なせたりしない。
そんな思いを胸に、俺は駆け抜ける。
「っ…。ハァ、ハァ…。つ、着いたか…。」
かなり息を切らしていた。
こんな状況で戦えるとは思えなかったが、やるしかないのは承知の上でここまで来たんだ。覚悟も決めてきた。だからやるんだ。
その時、ケルベロスが、こちらに近づいてきた。
「グルルル…」
完全な敵意。俺は光のない剣を両手に持ち、魔獣の先制攻撃を待った。
RPGで言うところの、パリィをすれば、怯むだろうと踏んでいた。
周りには人はいなかった。おそらく避難したのだろう。
だから思う存分剣を振るえる。
そう思った時だった。
先制攻撃がきた。
キィィィン!
俺はその攻撃を弾いた。
しかし、ケルベロスは怯むどころか、二撃目を繰り出してきた。
「っ!まずいっ!」
咄嗟に剣で、ガード。なんとか防げたが、おそらく次に同じ不意の攻撃がくれば、防げないだろう。
それに、これはゲームじゃない。本当の戦いだ。ここで倒れても復活なんてしない。食いちぎられて殺されるだけだ。
絶対に死ぬ訳にはいかない。
俺は必死に剣を振り続けた。
俺は、守らなければいけない。
アーサーを、姉さんを、奏を、皆を。
だから俺は守るために戦う。
「うわあああああああ!」
「くそっ!なんで、なんでっ!」
俺は守りたいだけなのに。
「頼むから!俺に皆を守らせてくれよっ!」
その時だった。
聖剣が光輝き、まるで錆び付いていたような色が消え、本来の姿を取り戻した。
「っ!こ、これは…。」
バイクの音が聞こえた、その時。
「達也ぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あ、アーサー!?な、何でここに!?」
「話は後だ!私の手を取れ!」
俺は言われるがままに、アーサーの手を取った。
「私と契約しろ!達也!」
「け、契約!?」
「そうだ!そうすることで、お前はその聖剣の力を思う存分使える!聖剣に選ばれたならばそれ以上の力を引き出せる!」
契約。それは異世界の英霊にのみ許された力をの解放の一つ。
契約者、通称マスターと呼ばれるものと契約を交わし、その契約者に自らの武装をコピーし、それを力とするもの。
「わかった!今、これしか方法がないならば!」
「一応言っておく。これはあくまで仮契約だ。本契約はこの戦いの後にする。」
契約が始まる。俺の体を魔法陣が包み、契約の終了を知らせる。
「契約、完了だ!達也、お前は仮にも私の契約者だ。首のネックレスを引きちぎれば私の武装を転装できる!」
ネックレス。これか。
俺は引きちぎった。すると、瞬く間に鎧が装着された。
「す、すげえ。力が湧いてくるみたいだ。」
その途端、頭の中に情報が流れてきた。この聖剣の使い方。アーサーの記憶。いろいろな情報が流れてきた。
その中に、聖剣の魔力解放の方法があった。
それは、聖剣の名前を叫ぶことだった。それでこの魔獣が倒せるはずと踏んで、俺は…
「力を借りるぞ、聖剣っ!」
叫び、
「エクス…」
解き放て!
「カリバーァァァァァァァァァァ!」
途端光の柱が出現し、それはケルベロスを貫いた。
「ギャォォォォス!」
ケルベロスは光の粒となって消滅した。
同時に俺の鎧も消えていた。
「た、倒した…んだよな。俺。」
俺は床にへばっていた。
「すっげぇ、疲れた。」
「達也っ!大丈夫か!?」
不意に倒れ込んだ俺に駆け寄るアーサー。
「あ、うん。大丈夫。疲れただけ。で、本契約、だっけ?やるか。」
「そ、それなんだが、どうやら私の手違いで、さっき本契約をしていたらしい。すまない。」
「ははっ。なんだ、そっか。もう契約してたんだな。俺達。」
「わ、笑い事ではない!」
そうして、破壊された街の真ん中で、俺達は契約を交わした。
そして、それからが本当の始まりだったことを、まだ俺達はしらなかった。