第2話 異世界少女と遠月家の日常
「私はアーサー。アーサー・ペンドラゴンだ。」
目の前の少女はそう名乗った。
俺はその名前に聞き覚えがあった。いや、もう俺はその名前を知っていた。
「今、お前アーサーって言ったよな…?」
アーサーと名乗った少女は、首を傾げて、
「たしかに私はそう名乗ったが。なにか気に触ったか?」
俺は首を横に振り、
「いやいや、そうじゃなくてさ。アーサーって名前、俺知ってんだよね。」
「なに!?私の名前を知っている…だと?」
「ああ。日本…じゃなかった。この世界ではさ、君の物語が有名なんだよ。」
アーサーはうーんと唸って、
「この、世界?それはどういう意味だ?」
まさか、彼女は状況を上手く把握出来ていないのか?と俺は思いながら、
「まあ、おおまかに説明すると、君のいた場所と、この場所は全く別の世界なんだよ。まあ、俺の推測にすぎないけどな。」
アーサーはまだ納得いっていない様子で、
「別の世界?だが、キャメロットは私がこの目で見て過ごしてきたのだぞ?それがこことは別の…世界だとは到底思えないぞ。」
「たしかに。君の言っていることは正しいけど、取り敢えずこの話は一度置いておこう。今はこの世界について知っておく必要もあるしな。」
アーサーは彼の話を聞いて、
「う、うむ。たしかにその通りだな。今はこの世界について知ることが大事か。」
その時俺は、ふと思い出したように、
「あっ。そういえば、俺の名前言ってなかったな。」
「そういえば、そうだな。言ってみるがいい。」
「めちゃくちゃ命令口調だな…。まあ、いいや。改めて、俺は遠月達也。この世界の国の、日本ってとこに住んでる。つまりこの場所だ。で、俺はその日本の『白浪学園』って高校って言う勉強をする所に通ってる。まあ、こんな所かな。」
アーサーは目を輝かせて、
「べ、勉強!?つまり学舎があるという事か!」
学舎?キャメロットにもあったのかな?とか思いつつ俺は、
「あ、ああ。まあそんなとこ。だけどそんなに興味引くものか?俺にとっては興味なんてこれっぽっちも…。」
アーサーは咄嗟に俺の肩に掴みかかって、
「まさか、お前は勉学に興味を示していないのか!?こ、この国の者はなぜ勉学を好まないのだ…。」
「そんなもんだろ。学校なんて面倒なだけだし。」
アーサーは掴んだ肩を前後に振り、
「面倒だと!勉学とは素晴らしいものだと言うのに!?なぜお前にはわからないのだ!」
「うぉっ!ちょっ、待ってくれ!目が回るから一旦肩から手を離してくれ!」
アーサーはハッとして俺の肩から手を離し、
「す、すまない。つい熱くなってしまった。許して欲しい。」
と、頭を下げて俺に謝った。
そこまでしなくても…と、俺は思ったが、
「いや、いいんだ。俺に君の勉強に対する気持ちが分かっていなかったせいでもあるからな。」
そこで、俺は話題を変え、
「そうだった、言い忘れてた事があった。」
アーサーは首を傾げて、
「?言い忘れたこと?なんだそれは。」
「そりゃもちろん、君が寝泊まりする部屋だよ。」
「部屋!?」
「そ。部屋。まあしばらくはこの部屋使って貰って構わないから
。」
「だ、だがそれではお前が寝泊まりする場所がないではないか!」
「ああ。俺なら大丈夫。しばらくは下の階で寝るし。それに、君は女の子なんだし、寝泊まりする場所くらい必要だろ?」
アーサーは『女の子』と言われたせいか、少し頬を赤らめて、
「だ、だがな、やはり私としてはお前に無理をさせる訳には…」
そんなとき、ふと考えた。俺はアーサーのことを『君』、アーサーは俺のことを『お前』としか呼んでいないなと。
「それよりさ、お互いの呼びかた変えないか?いつまでも『君』とか『お前』とかじゃなんかよそよそしいし。あ、じゃあさ、俺のことは『達也』でも『遠月』でもどっちでもいいぞ。呼びやすい方でかまわない。」
アーサーは少し考えて、
「うむ。そうだな。では私は『達也』と呼ばせてもらう。お前も私のことは『アーサー』でもなんでもいいからそう呼ぶのだ。」
俺はこれを機に、彼女と少し打ち解けられた気がした。
その後、俺は彼女に日本について様々なことを教えた。その途中のことだった。
『おにぃ~、なんかドタバタうるさいけど、なんかあった~?』
階段を登る音。間違いなく奏だ。
『おにぃ~入るよ~』
ガチャ。
俺の部屋の扉が開き、奏は彼女を目の当たりにした。
「…え。」
抜けたような声で、そう言った奏は次の瞬間、
「えぇぇぇぇぇぇぇ!おにぃ!誰なの、その子!?も、もしかして、おにぃの彼女さん?いやいや。おにぃに限ってそんなことは…」
あたふたしながら周りを見渡している奏。
「ちげぇよ!てか俺に限ってって酷くねえ!?」
一方、状況が未だに理解出来ていないアーサーは、
「??一体なんの話をしているのだ?」
そして、俺の部屋に勝手に入ってきた姉。
「あらまあ達也。お邪魔だったかしら?」
「お邪魔だったかしらじゃねえよ!てか勝手に俺の部屋に入ってくんなよ!」
そんなこんなで色々あった挙句、事情を話してようやく誤解が解けたのがその数時間後だった…
それぞれの自己紹介も終わり、これまでの経緯を話した…
「…と、いうわけなんだ。これで信じてくれたか?」
うーんと唸っている奏は、
「でもさ、やっぱり信じ難いよこんな話。」
姉さんも奏と同様に、
「そうねぇ、たしかに信じ難いのは分かるけど、私としては家に新しい家族が、増えてしかもそれが可愛い女の子なんて、とても嬉しいのよねぇ。」
と、そんなことをいいつつも。
「まあ、取り敢えずこいつはしばらくの間家に居候させるから。アーサーもそれでいいか?」
アーサーは頷き、
「うむ。どうやら達也が自分の部屋を貸してくれるらしい。だから奏殿も泉理殿もご心配をしていただかなくても大丈夫だ。」
すると奏と泉理は、
「「えぇ!?達也/おにぃの部屋を使うの!?」」
アーサーは首を傾げて、
「?たしかに私は達也の部屋を使うことになっているが、何か問題でもあったか?」
奏は顔を真っ赤にして、
「問題ありありだよっ!おにぃの部屋だよ!?なに仕込んでるか分かったもんじゃないじゃん!」
失礼な。俺は自分の部屋になんて何か仕込んでるはずないじゃないか。俺はそう思い、
「あるわけねぇだろ、そんなもの。」
「おにぃは黙ってて!!」
一喝された。
「だからさ、アーサーさんはあたしの部屋を使っていいよ!あんなおにぃの部屋なんか使わなくてもいいからさ!」
「あんなって酷くねえか!?」
「だからおにぃは黙ってて!!」
また一喝された。
そんなこんなで揉め続けた挙句、その兄妹喧嘩にケリをつけたのは泉理だった。
結局、アーサーは達也の部屋を使うことになり、そしてその始まりの1日目が終了した。
路地裏。赤い魔法陣が現れ、そこから出てきたのは…
異形のものだった…。