第1話 異世界少女日本に降り立つ
「…に…。」
声が、聞こえる。誰だろうか。
「…にぃ…。」
聞いたことのある声。誰だったっけ?
「…おにぃ…。」
おにぃ?俺のことか?ダメだ。全然思い出せない。
その時だった。刹那、一瞬の光が見えたかと思うと…
「さっさと起きてよ、おにぃ!」
ドガッ。
瞬間俺の腹のあたりから激痛が…。
「痛ってぇぇぇぇぇぇ!」
殴られた。しかも本気のグーで。
「まったく…。おにぃが起きないのか悪いんだからねっ!」
「いきなりグーとか。お前鬼か!」
このツンデレ臭丸出しの黒髪の少女は俺、遠月達也の妹、遠月奏。
彼女は一応空手部に所属しており、不用意に喧嘩を売れば即座のグーが飛ぶことで有名だ。
「もうっ!朝ご飯出来てるんだから早く起きろって言ってたのにおにぃが寝たままだから…。」
「だからってグーはねぇだろ!」
そう言った俺は彼女の右手を見ると、手をグーにして握りしめていた。
やばい。殺される。
そう確信した俺は、
「分かった分かったよ分かりました!降りればいいんだろ。了解りょーかい。」
そして俺は仕方なく階段を降りていく。
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そしてお次に出会ったのは、
「ん?あら達也起きたんだ。さっきすごい音聞こえたけどアンタまた奏になんかしたんじゃないの?」
この女性は俺の姉、遠月泉理。
普段マイペースな姉だが時にいいアドバイスをくれたりと面倒見のいい人だ。
「なんもしてねぇよ。アイツが一方的に殴ってきただけだ。」
後ろで怒声が聞こえたが姉さんは、
「それはそうと昨日アンタの部屋からこんなの出てきたけど。」
姉さんが手に持っていたのは、
「お、俺の秘蔵コレクションの一端がっ!」
秘蔵コレクションとはいわばエロ本だ。そして男の希望でもある。
「まあこれもそうなんだけどね。アンタ童話とか好きだったっけ?」
童話?もしかしてアレの事か?
「童話ってあれだろ。『アーサー王伝説』だろ。」
「ええ。そうよ。アンタあの話関連のグッズとかかなり持ってるから気になったのよ。」
「アンタがオタクになってお姉ちゃん寂しいわ…。」
「オタクじゃない!熱狂的なファンと言って欲しいものだな。」
「それをオタクって言うんじゃない。」
「ちがわい!俺はなぁ、アーサー王に魅力を感じているんだ。もしあの王が美少女だったりしたらどうだ!素晴らしいだろう!しかもアーサー王の剣、エクスカリバーだってそそるだろ!それとな──」
「はいはいそこまで!アンタのアーサー王談議はもういいから、取り敢えずご飯食べちゃいなさいよ。遅刻するわよ。」
「あっ!そうだった。いただきます!」
俺は急いで朝飯を平らげた。
そして俺は奏と走って登校した。
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授業後の休み時間。
俺は友人の天海快斗にアーサー王伝説の談議を行っていた…。
「ちょっ、ストップストップ!もういいって!聞き飽きたぞ、その話!」
俺はキョトンとして、
「そうか?何度聞いてもいい話だと思うんだが。」
「いや、普通飽きるだろ。飽きないお前がおかしい。」
飽きるお前の方がおかしいだろと思いつつ俺は話を続ける。
「まあ結論から言うと、俺はアーサー王みたいな力が欲しい!」
すると天海は吹き出し、
「はははははっ!おまっ、面白い冗談言うなっての!」
「冗談じゃねぇよ!俺は本気だぞ。わりとマジで。」
天海は再び吹き出した。
家に帰った俺は、
「ったく、天海のやつ俺は本気だって言ってんのによ。」
中二病だなんだと言われても俺は本気だ。異論は認めない。
「まあ、願うだけ無駄かもな…」
そして俺はベッドに仰向けになった。
その時だった。不意に目の前に現れたそれは、
『魔法陣』だった。
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キャメロット。
アーサー王伝説でも有名なブリテンの王国。
そこに彼女はいた。
銀色の鎧を着た金髪の男はドアをノックし、
「王よ。お身体の具合はどうでしょうか。」
そしてその部屋の主の王と呼ばれた少女は、
「うむ。少し身体が重いが問題はない。入れ。」
男は部屋に入った。そして男は膝をつき、
「王よ。マーリン殿からの伝達がごさいます。」
「マーリン?なにかあったのか、ガウェイン。」
ガウェインと呼ばれた男は、
「はっ。マーリン殿によれば最近、謎の魔法陣の出現が多発している模様だと伺っております。王にも気をつけるようにとのことで。」
「魔法陣だと?それがなんだと言うのだ。ガウェイン。」
ガウェインは彼女の質問に対して、
「はっ。どうやらその魔法陣は人を感知し、吸い込むとのことです。」
彼女は驚き、
「なに?つまりその魔法陣は転移魔法に類似したものだとでも言いたいのか?転移魔法など実現不可能な魔法をか?」
「ええ。どうやらそのようです。私も最初にマーリン殿から伺った時は耳を疑いましたよ。」
彼女は考え込むように、
「うーむ。実現不可能だと思われていた魔法が実現可能とは…。些か不本意ではあるが、信じる外あるまい。」
ガウェインは再び顔を上げ、
「ですので、王も魔法陣にはくれぐれもお気を付けください。」
「うむ。分かった。ガウェイン、下がっていいぞ。」
ガウェインは立ち上がると、
「はっ。では私はこれで失礼いたします。くどいようですが、くれぐれも魔法陣にはお気を付けください。」
そしてガウェインは部屋の扉を開き、一礼の後部屋を後にした。
「魔法陣、か…。はたして本当に転移などあるのか…?」
その頃部屋の外では、ガウェインは彼女の身内であるモードレッドに会っていた。
「…?これはモードレッド卿、どうなさった。」
そこに現れたのは一人の少女。部屋の主である少女にどこか似ている雰囲気を醸し出しているが、同時に男勝りな性格が見て取れる容姿をしていた。
「あ?なんだガウェインか。父上になにか用でもあったのか?」
「いえ、マーリン殿からの言伝を王に伝えていただけですので。」
するとモードレッドは首をかしげて、
「マーリン?あのヘタレが父上になんか吹き込んだのか?」
ガウェインはため息混じりに、
「モードレッド卿、マーリン殿の悪口は控えた方が宜しいかと。どこであの方が聞いていらっしゃるが分かったものではないので。」
「そうか。わかった。で、言伝ってなんなんだよ?」
するとガウェインはなにか思い出したように、
「そうでした。それを貴卿にも伝えようと思っていたのでした。」
ガウェインは王に伝えたことと同じ話をモードレッドに話した。
「ふーん。まあ、にわかに信じ難い話だけどな。信じるしかねぇんだろ。あのヘタレの言うことだしな。」
「理解が早いようで何よりです。この事は他の円卓の騎士のみに伝えますので外部に漏れ出すことはないと思いますのでご安心を。」
「安心もなにもアタシはそんなこと気にしねえって。お前が心配する事じゃねえだろ、ガウェイン。」
ガウェインはキリッとした顔で、
「貴女にそのようなことを言われるとは、キャメロットで災厄でもおきるのですかね。」
と、笑いながら言った。
するとモードレッドは、
「てめぇ、ぶった斬ってほしいならそういいなよ。クラレントで斬り裂いてやるから。」
ガウェインは両手を上げ、
「いえいえ、滅相もない。貴女の剣を食らっては生きて帰れないのは存じていますから。」
モードレッドは剣の柄にかけた手を離し、
「ふん、まあわかってるならいいんだよ。」
そしてモードレッドはその場を後にした。
「ふぅ。モードレッド卿の扱いは大変だな。王の気持ちを少しでも理解出来た気がします。」
そしてガウェインもその場を後にした。
その後の事だった。
彼女がいる世界。
彼がいる世界。
その二つの世界が、平行線にあった世界が、
一つになった。
その時だった。彼女の部屋に魔法陣が現れたのは。
「っ!な、なんだこれは!」
彼女は飛び上がり、
「まさか、魔法陣がっ!」
「くっ、まずい。引き込まれるっ!」
魔法陣からは全てを飲み込むように風が。
それは鎧を持った彼女ですらも飲み込む風。
聖剣も意味を成さず、彼女はなす術なく魔法陣の中に吸い込まれていった。
同時にキャメロット城内の円卓の騎士がいる場所に魔法陣が出現し、騎士たちを飲み込んでいった。
そして、時間は重なる…
「な、なんだこれ!ま、魔法陣?」
『彼』は驚き、ベッドから飛び降りた。
その瞬間だった。
光が部屋を包んだと思ったらそこには…
「…?こ、ここは…?どこだ?」
そこには
一人の少女がいた。
「な、何者だ!貴様は!」
少女は驚きながら彼に怒鳴った。
「そ、それはこっちのセリフだっての!お前こそ、誰なんだよ!
」
少女はそう聞かれて、
「仕方が無いな。」
「たしかに、名乗るときは自分から名乗らなければな。」
彼女は剣をしまい、
「私は、私の名は…」
「アーサー。アーサー・ペンドラゴンだ。」
その二人の出会いは、世界を上書きした。世界は、新たな運命を受け入れ始めたのだ…