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ゆうちゃん退院記念スペシャル‼

今日は優希ゆうきの退院と、同じく退院したかずきがやって来る日。


かずきはある程度、動物病院の安部あべ先生に、躾を直されたらしい。

でも、足の骨折も、頭部にも後遺症はなく、良かったねと、退院間近の優希竜樹たつきと喜んだ。


優希は、心の不安定さと、自信のなさがあってその上この受験の時期にも重なるため、元々胃腸の弱いために服用する薬の中に、パニックを抑える作用の含まれた薬を処方され、退院する。


今日は、7月の初め。

だんだん暑くなる……盆地である京都ならではのムシムシとした暑い日になった。


残念だったのは、竜樹は浴衣を母の紅葉もみじに仕立ててもらったと喜んでいたのだが、自分のはどうなのかな?と思ったことと、最近、柔らかいものは食べられるようになったのだが、伯父の嵐山らんざんや、従兄の紫野むらさきの標野しめのの京菓子を食べていないこと。


「おとうはんにお願いして、『まつのお』に行ってみたいわぁ……あて」


入院の間、京言葉を付き添ってくれる母や叔母の櫻子さくらこに教わり、二人の美しい立ち居振舞いに、真似をしようとただいま勉強中である。

それに……、


「編入試験は大丈夫やったやろか……」


向こうから持ってきた教科書とノート、そして、父の賢樹さかきが持ってきてくれた数冊の参考書に、標野が、


だいちゃんがつかっとったさかいに、大丈夫やおへんか?」


と書き込みあとの丁寧な参考書を使って、勉強をして試験に臨んだのだが、


「……勉強の仕方が違いますのやろか……」


首をかしげる。

父に英語を教わりつつ、他の教科も学んでいた優希は、入院のために筋力の衰えた体のトレーニングをしつつ、受けた試験内容を思い出す。

中高一貫教育の学校への他県からの入学、その上怪我に病気にと長期間学校に通えず、進学もできるか不安だったのと、両親は、


「好きなようにしなはれ。優希のしたいようにすればよろし。大学もかまへんのやさかいに」


と言ってくれた事もあり、必死に勉強をして、体が弱っているため、病室で試験を受けた。


しかし、編入試験の結果が不安でならない。


「どうしましたん?ゆうちゃん」


扉が開き、入ってきたのは荷物を抱えた母と叔母である。


「あ、おかあはん、櫻子おかあはんも。ようおこしやす」


ベッドから足を下ろし、よっと腰をあげる。

昔は当たり前だったその行動が、とても大切だったのだと思うほど、体自体も弱りきり、過労寸前だったと医師には念を押された。


「あまり、無理はあきまへん。優希さんは丈夫ではありません。自分でも、解らなかった程です。ほら、こないに……」


頭を動かせず、心が落ち着くまで……パニックにならなくなるまで安静にしていた体は一気に痩せた。

筋肉が落ちたのである。

その為、竜樹のように張りのある手足ではなく、青白く骨が浮くまでになった。

口からの固形物が口にできないことも影響し、顎の筋肉も衰え、頬骨も浮くようになった。

何とか出来ないかとなったものの、口の中の治療のせいで、水分しか口にできず、点滴しか無理だったために、最近重湯に、京野菜の漬け物を刻んだもの、それからお粥になり、今日は朝に少しだけ柔らかく炊いた白ご飯が出され、噛むことの楽しさも思い出した。

でも、筋力の衰えで、口にあまりできなかったのが残念である。


「わざわざありがとうございます。櫻子おかあはん。あっ……」


頭を下げたら、目が回り、よろけたのを助けてくれたのは大柄な人……。

父か?

と顔をあげ、喜ぶ。


「あ、祐也ゆうやおにいはん。醍醐だいごおにいはんに日向ひなたおにいはん、ただすおねえはん、穐斗あきとおにいはん。お久しぶりどす。そして、おおきに」

「良かった。元気になって……でも痩せちゃったわね」


糺の声に、照れ笑う。


「昔はぽちゃぽちゃでしたよって……運動して、戻りすぎないようにと思とります」

「ゆうちゃんは太りすぎじゃないよ~。ぽちゃぽちゃは可愛いもん。ねぇ?祐也」

「優希は、女の子らしい体つき。それに動きも柔らかい。あ、顔を見に来たのと、かずきを今、連れてきてるから、後で」

「それに、ゆうちゃんにお土産ももって帰りましたよって。楽しみにしときなはれや?」

「醍醐が言うな。お前は運転せずに、俺と祐也が運転してきたんだぞ」


日向の言葉に、穐斗が、


「ごめんなさい。僕、運転下手で……」

「穐斗には運転させんときました。一回運転させて……これで、走られたら死ぬ思いまして」


祐也が頭を下げる。


「それはいいんだ、帰りは、こいつに運転させてやろう……」

「ひどうあらしまへんか?なぁ?ゆうちゃん」

「あ、醍醐おにいはん。シィおにいはんが、おにいはんの部屋の参考書をつかいなはれ言うて、借りとるんです……言わずにすんまへん……」

「参考書?あて、そないなもん……」

「えと……」


高校受験がどうなるのか不安だったこともあり、ブックカバーのついた参考書を枕元においていたため、差し出す。

それを見てぎょっとする醍醐。


「ちょっとお待ちなはれ‼これは……」


受け取った本のブックカバーを外すと、京都の大学の過去問題集と書かれていた。

他にも数冊は、現在、醍醐の通う大学のものなどがあり、


「シィにいはんは、なに考えとるんでっか‼中学生のゆうちゃんに何を……」

「あの、今はまだこんな感じなので、二学期から学校に行くんどす。その前に編入試験があって……勉強していて……」

「これででっか?」

「テスト内容が、簡単すぎて……おとうはんにきいたんどす。そうしたらおとうはんが怒りはって……あかんかったんでひょか……編入試験……」


俯く優希に、過去問題集を見ていた5人は、ニッコリと、


「大丈夫や。おいはんはゆうちゃんの事をおこっとりまへん。おにいはんが大丈夫やて、言いますさかいに」

「良かった……試験に落ちとったら……たっちゃんも通うてはる学校に入れなんだって……」


ホッとする優希に、紅葉が、声をかける。


「ゆうちゃん。退院のべべは準備しとりますさかいに、着替えまひょ。おかあはんらが選らんだよって」

「そうどすえ。ゆうちゃんに似合うんを選らんだんどす。醍醐はん?外で待ちよりなはれ。あてらの念願の斎王代になりはるえ?」


糺以外は追い出され、しばらくして、


「ええどすえ……」


の声に、入っていくと、今風のものではなく、しっとりとした風情の、『辻ケつじがはな』の模様の浴衣姿である。


『辻ケ花』は、絞り染めを基調に、草花の紋様を筆で丁寧に描かれたもので、高度な技術と優美な柄で、室町末期から桃山時代にかけての短い期間に作られたもので、『幻の紋様』とも呼ばれているらしい。白、茶、紫、藍の地色に染め付ける、大変に手間のかかるものである。


着物では最近訪問着に用いられるようになったが、今回は、白地の浴衣用の反物を特別に頼んだらしい。

帯は浴衣が豪勢なぶん、可愛らしい金魚の尾のように結んでいる。

シックではあるが、所々に、紅色を入れている。

髪飾りも、かんざしで、ビーズと金魚のチャームがついている。


「わぁぁ‼可愛い‼スッゴクよく似合うよ‼」


穐斗の言葉に、頬を赤くする。


「たっちゃんも可愛らしはって、ドキドキどした……おかあはんや櫻子おかあはん、糺おねえはんはべっぴんはんで、あては……」

「いやいや……ちょっと撮るぞ?」


頬にてをあて照れる優希を撮った日向はポチポチとスマホを操作した。

その間に、糺が、醍醐に頼み、写メを撮り、穐斗も、


「祐也‼僕も‼ゆうちゃんと撮る~‼」

「わかったわかった」


と撮っていると、日向のスマホが鳴り、ピッとクリックする。

すると、


「ひな先輩‼優希がぁぁ‼何で、撮れたんです?一緒におるんですか‼」


電話から響くのは少年の声。


「ずるい‼優希の浴衣姿‼俺も見たかったぁぁ‼」

「はい、優希。声を聞かせてやれ」


手渡されたスマホに耳をあてると、


「ひな先輩‼」

「うるさいよ。この、総体負け男‼」


と電話の向こうで言い合いをしている。


つい、


「二人とも、なかがええなぁ。良えなぁ……」


と呟く。


「ゆ、優希?優希だよな‼」

「えっ?優希?おーい、親友‼俺の声がわかったら返事しろ~‼」

「おい、こら!邪魔‼」


その声に、ついクスクスと笑う。


主李かずいくん、実里みのりくん。おひさしゅう。優希どす」

「京言葉になっとる……」

「でも、喋れるってことは、退院なんだろ?」

「へぇ、今日は退院どす。おにいはんらがきてくれはりました。まだ、長時間歩くのは疲れますよってに……しばらくは車椅子と、杖を使います。でも、声が聞けて……あの、学校は……?」


まだ夏休みではなく、時間帯を見れば……。


「授業抜け出してきた‼ひな先輩と時々電話にメールもして、会ってるけど……今日行くなんて聞いてない~‼」

「俺たちは、かずきを送りに来た。一回向こうに戻って、送り火の頃には来るつもりなんだ。穐斗は実家に帰るしな?俺たちもお邪魔するんだ」


日向の声に、


「いいなぁぁ‼俺も会いたい‼」

「それに、竜樹は?」

「たっちゃんは学校です。二人とも大丈夫ですか?授業……」


優希が問いかける。


「あ、急いで戻る‼じゃ、じゃぁまた後で‼ごめん‼」

「竜樹は?……あ、はーい‼ごめん‼親友‼」

「また後で」


電話が切れたのをビックリしてみている優希に、


「どうした?」

「いえ、べべが可愛いて、電話?」

「いや、似合っていて焦ったんだと思うが……」

「ど、どないしまひょ……におうてないいわれたら……」

「それはない」


おろおろしている優希からスマホを受け取った日向は言ったのだった。

模様は、本当は矢絣やがすりや、麻の葉というひし形の雪の結晶のような形のものに、青海波せいがいはという模様があるのですが、麻の葉は、赤ちゃんの産着等に昔用いられ、矢絣は、村咲 遼の生息区域にはよく見られる模様のため諦め……、青海波は、渋いというよりも紳士用?と思い、着物の柄ですが、今回の辻ケつじがはな柄に選びました。


とてもきれいです。

着物の柄にしたら豪勢だろうなぁと思います。

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