魔王様の暇つぶし
とある魔王様の日常です。
魔王様は、今日も暇である。
この頃、滅多に来客はない。一時期は、人間の客が来て、この屋敷も賑やかだったのに。いつ頃からか、寄りつかなくなってしまった。
う~ん。暇だ。
配下の魔族は、時々この屋敷に出入りはしているが、仕事の報告に来るだけである。決して、私との会話を楽しんでくれるわけではない。
うん、何か面白いことをしよう。……今日は何をしようか?
今ある本は、……あらかた読んだし、小説書くのも、……この間、一区切り付いたから今締め切りもないし、剣技を磨くのも、……相手になる魔族は、仕事で忙しいそうだねえ。邪魔しては、悪いな。他には、……。
この魔王様、実は多趣味である。本は、人間界から取り寄せして読み漁り、それでは飽き足らず、自分で書きためた小説を人間界へと卸している。そして、秘かになじみである出版している店へと原稿を置いていく、なんてことをしている。ペンネームは、そのまま『魔王』である。そうこうしている内に、次に書きためた小説を持って行くと、次の小説のリクエストと、お金がそこに置いてある仕組みになっていた。さらに、本を買う以外にお金の使い道がないこの魔王、余ったお金は、こちらも『魔王』名義で、貧しい人への寄付金へと化している。
こんなことをしているため、あくまで余談ではあるが、この『魔王』、今人間界で一番の有名人となっていたりする。
それはそうと、話を戻そう。この魔王様は、本当に多趣味である。剣技を初めとする武道以外にも、料理や、手芸なども趣味としている。
料理も手芸も、飽きたし、そう言えば手紙が何通か、届いていたな。返信でもするか。
魔王様は急に思い立ち、机に向かう。
もちろん手紙の主は、人間である。ファンレター的な物もあるし、礼状もある。はたまた、呪詛の手紙さえもある。これらは、人間が、『魔王』宛てとして、文章を書くと、自動的に、魔王様に届くようになっている。
ええと、何々?
『寄付金のおかげで私の今があります。ありがとうございます』
これはお礼状だね。寄付金と言っても、大したことしてないんだけど、でも、こんな風に言ってくれるのは、うれしいものだよ。
魔王様は、ニヤニヤが止まらない。
返事は、っと。
『そんな風に言っていただけて、光栄です。その感謝を今度は、他の人に与えて下さい』
うん、こんな感じかな。
……それでは、
「風よ、この手紙を、彼女の元へ」
魔王様は、そう声を出すと、手紙である紙飛行機を飛ばした。
魔王様は、同じように、何通かの手紙を見ては、返事を書き、風に乗せて配達させていく。
う~ん。そんなに多くないと思ったけど、結構あったな。
すべての手紙に目を通した魔王様は、伸びをした後、その場にお茶とお茶菓子を出現させて、休憩をする。
うん、我ながら、美味しいな。よし、今度はこのお茶菓子のレシピを彼らに渡すか。
そう思うと、魔王様は、このお茶菓子のレシピを紙に書き、風に乗せて、人間界のとある王都で、喫茶店を経営しているとある夫婦に手紙を届ける。
さて、次は何をしようかな。
考えながら、もう一度机に目をやると、また手紙が届いている。
ん、珍しい。議事録がここに紛れ込んでくるなんて。
勿論、この議事録には、魔王様のことが書かれている。書かれているからこそ、ここへと議事録が飛んできたのだ。それに、魔王様が目を通していると、別の手紙が届いていた。
そちらにも目を通す。
後から届いた手紙は、とある少女からの手紙だった。彼女と魔王様は、魔王様の書いている小説のファンから始まった、文通相手だった。
「く、く、く、なるほどなるほど、そんな事しなくても、別に何もしないんだが」
つい、誰もいない部屋で、声に出して嗤う。それはまさに、魔王と呼ばれるに相応しい凶悪なものだった。
「いや、どうせなら、期待に添ってあげようか」
そうして、魔王様は、手紙を2通したためると、同じように風に乗せて手紙を飛ばす。
「さて、未来の花嫁を見物しに行く準備でもしようではないか」
先程の手紙は、先触れである。久しぶりの遠出となる魔王様は、微妙に浮かれている。
そうして準備を整えると、魔王様は城から姿を消した。
残っていたのは、1通の議事録と、1通の少女からの手紙。
議事録には、
『今後の王国の危機管理について~王女の結婚相手は魔王とする(案)~』
少女からの手紙は、
『今日、私の結婚相手が決まりました。相手は、その時まで教えてくれないそうです。結婚は王女である私の責務です。拒むことはできません。どんな相手なのか分かりませんが、せめて優しくしてくれる人だといいと思います』
と書かれていた。
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