悩める死神たち
四日目の朝、メルの機嫌は少し悪かった。
「おはよう、メル」
「……おはようございます」
声もどことなく暗い。メルはサンの方に背中を向けて布団にくるまっている。
「どうかしたのか?」
「……今日、一日中検査なんです」
検査、それで機嫌が悪いのか。
死神にも健康診断などの検査があるがあれはとても退屈で特に何もしていないのに疲れてしまう。確かに子供にとっては憂鬱だろう。
「面倒くさいです、行きたくないです」
「そうは言われてもな……検査はちゃんとしなくちゃダメだろう」
「……分かってます、ちゃんと行きますよ」
しばらくすると病室に看護師が来た、メルの名前を呼び起きるように促した。メルは渋々といった表情で起き上がる。
覚束無い足取りで看護師に連れられて歩く、向かう時にちらりとメルはサンの方見た。
「頑張れ」
サンはそう言う事しか出来なかった。メルは少し表情を和らげて頷いた。
メルの居ない病室は静かでぼんやりとするにはちゃうどいい空間だった。
だが、ぼんやりするのも限界があり飽きてしまう。散歩にでも行こうと病室を出た。
病院の中は相変わらず人が沢山いる、人が居ても病院という空間は静かだ。時折子供の声が微かに聞こえるくらいだ。
もちろん、サンと同じ黒いローブを着た死神もちらほら見かける。
「サン!」
声を掛けられ振り向くとそこにはサンのよく知る人物が立っていた。
「よっ、久しぶり!」
「エド……」
眩しいほどの金髪に深い色の碧眼、屈託なく笑っているその人物は同い年の死神、エドだった。
「お前も仕事か?」
「まあな、エドもか?」
「そうだよ、今回はあまりいい仕事ではないがな。ついて来いよ」
そう言われて辿りついた場所は産婦人科の病棟だった。
ある病室の前でエドは止まった。白い横開きの扉を指さして溜息をついた。
「妊婦さんなんだよ、明日が予定日なんだがその時に……もともと体が弱い人間らしい」
「そうか……」
「自分が生まれてくる子供の母親の命を奪うと思うと申し訳なくなる。それに見ちまったんだよ……幸せそうな二人の姿を……」
命は有限のものである。いつかは必ずなくなるし、それが遅いか早いかの問題なだけである。
しかし、その期限は時に残酷だ。
それを狩りとるのは胸が痛い。中にはそれで心を病んでしまう者いる。
「俺も、今回は辛いよ。まだ十二歳の子供だ」
「それは、辛いな……」
「後、三日だ」
心の準備はまだできていない。
死神は知っている、命の灯火が消える瞬間を、家族が悲しむ様子を――
そしてそのどれもが死神たちの心を苦しめる。それでも狩らなければ成仏はできないのだ。
「まあ、お互いこの仕事が終わったらどこか遊びに行こうぜ」
「そうだな……」
「じゃあな、サン」
「ああ」
サンはまだ魂を完璧に成仏させたことがない。
今回は絶対に成仏させなければならない、自分の為でもあるけれど何よりメルをしっかりと成仏させてあげたいと思っている。
失敗は許されない、残り三日、時間はゆっくりとだけど確実に近づいてきている。