お絵かき日和
メルと出会って三日目のこの日は朝から雨が降っていた。
サンは雨が嫌いだった、好きな人はあまりいないとは思うけれども。
「雨ですね」
「雨だな」
病室の小さな窓から外を見ながらメルが言った。静かな部屋に微かな雨音が響く。雨の日は人はどこか暗くなる、サンはそう思っている。
「こんな日は絵を書いて気分転換しましょう」
そう言ってメルが引き出しから取り出したの真新しいスケッチブックと十二色入りの色鉛筆だった。
そうして紙を一枚破るとサンに渡した。
「雨の日はお絵かき日和です。私がサンの似顔絵を描くので、サンは私の似顔絵を描いてくれませんか?」
「いいよ」
そう答えるとメルはいたずらっぽく笑って「じゃあ、可愛くお願いしますね」と言った。
正直期待されても困る、なぜならサンはあまり絵を書くのは得意ではないからだ。下手くそ中の下手くそと言っても過言ではない。ずっと前に猫の絵を描いたのに熊だと言われたほどの腕前だ。
そんなサンを余所にメルは鼻歌を歌いながら絵を書いている、描かないよりはましだろうと思いサンも描き始める。
しばらくするとメルが「できた!」と声を上げた。
「見せてよ」
「まだダメです。サンは描けましたか?」
「う、うん。まあね……」
「見せてくださいよ」
「あ、ちょっと待って」
サンが止めるのも聞かずにメルはサンの手から紙を取り上げた。
「……これ、私ですか?」
きょとんとした顔でメルが尋ねる。自分では結構ましな絵が描けたと思ったのだが。
「うん」
「え、嘘ですよね?私、目は四つもありませんよ」
「それ鼻なんだけど……」
「……すみません」
下手くそな絵しか描けないのでサンはメルに申し訳ないなと思った。
でも、メルはそんな絵を見て微笑んだ。
「ありがとうございます」
不意に言われたお礼にサンは驚く、あの似顔絵を見て笑うことや文句をいうことはあってもお礼を言われることはまずないと思っていたからだ。
「人と絵を描いたり、似顔絵を描きあったりしたのは今までにほとんどありませんでしたから」
「それは……よかった」
「なのであまりお上手ではないこの絵でも私にとっては宝物です」
「お上手でなくて悪かったな」
「冗談ですよ」
「そうですかい……」
「はい、じゃあこれはサンの似顔絵です」
メルから渡された似顔絵はサンのより何倍も上手だった。サンが見ても似ているなと思えるほどに。
「ありがとう」
「どういたしまして」
先程まで聞こえていたはずの雨音が聞こえなくなって病室は静まりかえっている。
雨が小雨になったのだろうか、いや、外からは太陽の光が部屋に差し込んでいる。
「雨やんだみたいだな」
締め切っていたカーテンを開けるとまだ曇天の空に虹がかかっていた。
「メル、虹が出てる」
「本当ですか?」
メルがそっとベットから降りる。
窓の外を見たメルは目を輝かせて虹に魅入っていた。
「綺麗ですねー……」
「そうだな」
この虹はメルの見た最後の虹となるだろう。
きっとそれはメルも自覚している、だからこんなにも切ない表情で虹を見ているのだろう。