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早朝の小学校

 メルが自転車を漕いで来たのはとある小学校だった。夜が明け始めた小学校はなんとも言えない雰囲気だった。

 メルはぼんやりと小学校と眺めていた。


 「さっきみたいに窓から侵入できますか?」

 「できるけど」

 「中に入らせてください」


 メルと手を握り窓から小学校へと侵入した。夜が明けたとはいえまだ校舎内は暗く足元には気を付けなければならない。

 メルは廊下を早足で進み、階段を三階まで登って「六年三組」と書かれた教室の中へと入っていった。


 「ここが私のクラスなんですよ、四年生から行ってませんけど」


 教室の中を見渡して一番後ろの窓側の席に歩いていく。


 「ここが私の席なんですよ」

 「いい場所だな」

 「でしょう?」


 そう言ってメルは自分の席に座った。そして慈しむように机の木目を指でそっとなぞる。


 「本当は私はここで勉強していたはずでした」


 いつもと変わらない調子で淡々とメルは語る。


 「ここでたくさん友達を作って遊んで、勉強をして、家に帰っても宿題して、遊んで……春には遠足、秋には運動会があって……」


 だんだんと涙声になっていく、とうとう机の上にポツリと涙がこぼれ落ちた。


 「でも、私はほとんどの何も出来なかった、思い出を作ることなく私は卒業しちゃいます……この体のせいです」


 サンはメルに近づいていくことが出来なかった。今行ってもかける言葉がきっと見つからないだろうから。

 余計なことを言って傷つけるのが怖かった。


 「羨ましいです、他の子が学校に通えるのが。私が入院し始めた頃は友達がお見舞いに来てくれたけどだんだんと来なくなって、今ではもう誰も来てくれません。私のことなんてきっと忘れているんだ……」


 何て悲しいことだろうか。

 こんなに幼い子供がこんなにも辛い思いをしているだなんて。

 人は必ずしも平等ではないのだと改めて思い知った。

 震える小さな手をサンは優しく握り締めた。


 「俺は忘れないよ」

 「……本当ですか?」


 真っ赤なウサギのようになった目に視線を合わせて言った。


 「うん、忘れない」


 そう言うとメルは泣き笑いというちぐはぐな表情を浮かべた。

 朝日が窓から差し込む、その光に二人は目を細めた。


 「太陽ですよ、サン。外に出ましょうよ」

 「そうだね」


 外に出ると眩しさは何となく軽減されたように思える、久しぶりに陽の光を浴びているメルは大きく深呼吸をした。


 「早起きは三文の徳ですね」

 「そうだな」

 「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

 「それならよかったよ」

 「何だか疲れちゃいました……眠たい」

 「背中に乗りなよ、運んであげるからさ」

 「いいんですか?」

 「もちろん」

 「じゃあ、お願いします」


 背中に乗せたメルは思った以上に軽かった。力を入れたら折れてしまいそうなほどに華奢だった。それは病気のせいなのかもともとなのか分からない、聞くこともはばかられる。

 メルは疲れたのか今はサンの背中の上で微かな寝息を立てている。起こさないように慎重にゆっくりとサンは病院までの道を歩いた。


 「よいしょっと……」


 起こさないようにゆっくりとメルをベットの上に下ろした後、サンは病室を出ていった。

 正直、サンは疲れていた。

 何せ一日だけとはいえメルに寿命を与えたのだ、自己判断とはいえそれは相当な力を使うものだった。


 「でも、まあいいか」


 メルが楽しんでくれたのならそれでいい、喜んでもらえていたとそう思うと疲れなんてすぐどこかに飛んでいった。







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